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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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女性たちの事情

王女のお召し替えを待つ、どうにも気まずい時間。

しかし話題はあった。


「…ところで、この人誰ですか?」


そう問いつつ、ラジュールが視線を足元に向ける。

ルクトたちのすぐ目の前には、全身酒まみれのトッピナーが寝ていた。

いかにも何かをやり切った…という表情を浮かべ、遠慮も羞恥もなく

大の字になって寝息を立てている。どう見ても泥酔者の成れの果てだ。

知的な顔立ちと、やっている事との落差が凄まじい事になっている。


「……ええっとですね。」


軽く額を掻きながら、ルクトは何か言い繕う言葉を探していた。

しかし結局、そのまま説明する方が手っ取り早いという結論に達する。


「ウズロの冒険者ギルドで、ずっと受付をやっていた人です。」

「冒険者ギルドの受付?」

「この女性がか?」

「そうです。まあ、ギルド国営化の政策にどうにも納得が行かなくて、

色々とあった末にここにいるという次第でして。」

「それは…何とも…」

「うーん…」


言うべき言葉が見つからないらしいプローノとラジュールが、視線を

すぐ隣に立つガンダルクに向けた。それに対し、ガンダルクは小さく

肩をすくめて答える。


「みっともないかも知れないけど、この子がいなきゃ誰かが死んでた。

ルクトだったか、あんたたち2人のどっちかか。…あるいはあたしか、

あの王女さまか。そのくらいには、有意義な事をやってのける仲間よ。

酒好きなのは大目に見てあげて。」


「承知した。」

「了解です!」


2人が、納得したように答えた。


確かに、醜態と言えば醜態だ。

しかしトッピナーは、ある意味では誰よりも大勢を相手に戦っていた。

ずぶ濡れになった服のあちこちに、明らかに刺し傷と思しき孔がある。

どれほどの激闘を続けていたのか、察するに余りある。

疲れて眠っているくらい、とやかく言うほどの事でもなかった。


「でもまあ、せめて着替えて欲しいなあ。ホントに…。」


苦笑しながら屈み込んだルクトが、そっと彼女の服の乱れを直す。

どこまでもマイペースなトッピナーに、皆は笑みを浮かべていた。


================================


「すみませんお待たせしました。」


そうこうしているうちに、メリゼが侍女と共に戻ってきた。

見た目が全く変わっていない事に、ルクトたちは逆に確信を深める。

ああ、やっぱりそういう事か…と。


「命を助けて頂きながら、今の私は何ひとつ感謝の品も贈れません。

ですが、いつか必ずこのご恩は…」

「あ、それじゃあ…」

「え?」


あらたまったメリゼの感謝の言葉を遮り、ガンダルクがニッと笑う。

その不遜な態度に、侍女が表情を険しくする。が、何も言わなかった。


「あれ、もらってもいいですか?」


そう言って、ガンダルクが指差したもの。それは大破した馬車だった。


「え?…もちろんかまいませんが。どうするんですか?」

「いいですよね?」

「ええ。」

「いいってさ、グルーク!」


頭上を仰いで言い放ったその言葉を受け、大きな影が動いた。

暇そうにその場にいたグルークに、今になって気づいたメリゼと侍女が

再び身をすくませる。しかし、当のグルークは彼女たちには目を向けず

壊れた馬車へと屈み込む。正確にはその少し前方に。


ガバッと首をもたげたグルークは、何かをその口にくわえていた。

飛び出している後肢から察するに、どうやらそれは馬車馬の骸らしい。

襲撃の際に射殺された2頭の骸は、そのままの状態で運ばれていた。


「え……」


絶句するメリゼたち2人の目前で、ガリガリと音を立ててグルークが

馬の骸を貪る。それも2頭続けて。食べ終わるまでにかかった時間は、

わずか数分に過ぎなかった。


ガリッ!


最後の骨を噛み砕いたと思しき音が鈍く響き、歯の間から血が少しだけ

飛び散って草を赤く染める。満腹になったらしいグルークは、そのまま

巨大な翼を開いた。


「おつかれ。ありがとねー!」


ガンダルクのその言葉に首を振り、グルークの巨体が宙に舞い上がる。

一気に高度を取って飛び去る姿は、有無を言わさぬ迫力に満ちていた。

翼の突風が収まると同時に、顛末を見守っていたラジュールがホッと

小さなため息をついた。


「…何度見ても圧倒されますねえ、あのフライドラグンは。」

「食べっぷりも変わらないな…。」


プローノも同様に、感心したような呆れたような口調で呟く。

何も言わず見守っていたルクトは、ほんの少しだけ誇らしげだった。


================================


「…さて、移動しないとな。」


そう言ったプローノが、あらためて周囲をざっと見渡す。

ひと気のない草原と、どう考えても似つかわしくない王女と侍女。

とにかくここを離れ、休める場所に向かわなければいけない。


グルークが運んだ以上やむを得ない状況ではあるものの、ここからの

移動は一行にとって、相当な難行になる事が予想された。


「連れの方たちとの集合場所は?」

「ウォレミスの南西にある、小さな廃村だ。ここからだと…」


ルクトの問いに答えるプローノが、懐から地図を取り出す。

しかし、彼が位置を調べ始める前にガンダルクが声を上げた。


「とりあえず”足”を呼ぶね。」

「足?」

「頼むよルクト、アミリアス。」

「ああ。」


答えたルクトが二番刀を取り出し、鞘から抜いて地面に突き立てる。


「どうだアミリアス?」

『うん、近いですね。すぐです。』


喋る刀に、侍女がその目を見開く。しかしメリゼの方は無反応だった。


「近い…とは?」

「ウォレミスの街に向かう直前に、俺たちの馬を荷物ごとこの森の中に

放したんですよ。で、それを魔術で呼び戻すんです。3頭いますから、

相乗りで全員行けると思います。」

「おお、それは助かるな!」


表情を少し明るくしたプローノが、あらためてメリゼに向き直る。


「お聞きのとおりです。馬が来れば移動は早い。私の部下と合流して、

まず安全な場所を目指しましょう。もう少しのご辛抱です。」

「あ、はい…。」


控えめな笑みを浮かべたメリゼは、やがて小さな声でルクトに問う。


「あのう。」

「はい?」

「…馬って、すぐ来ます?」

「ええ、もう間もなくです。」


「…ちょっと、着替えてきます。」

「え?…またですか?」

「……もう一度だけ………」


泣きそうな表情になったメリゼは、先ほどと同じ木陰に早足で向かう。

例によって、侍女が慌ててその後を追っていった。


沈黙。

そして。


さすがに今回は男性3人も察した。


「…馬の丸食いは、さすがに刺激が強過ぎたんでしょうね。」

「……ああ。」

「替えの下着って、まだ荷物の中にあるんでしょうかね?」


………………


「あーあ、よく寝たぁ!!」


突然そう言い放ったトッピナーが、ガバッと元気に身を起こす。



早くこの場を離れたいと、ルクトもプローノたちも心底願っていた。

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