表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
77/703

強行脱出の手段

ほんの数秒で、状況が急変した。

しかし、現状は待ってはくれない。


ドガッ!!


動いたのは、プローノたちと一緒に転移してきた兵士2人だった。

馬車から降りた侍女を羽交い絞めにしていた兵2人を、有無を言わさず

背後から殴り倒す。当の侍女はほぼ失神していた。


控え目に言って、彼ら4人はかなり柔軟な思考の持ち主らしい。

この場に転移で一気に放り込まれたにもかかわらず、自分たちの状況を

ほぼ一瞬で把握している。おそらく事前に、綿密な打ち合わせか何かを

しておいたのだろう。それに加え、唐突に飛んできたルクトに対しても

ラジュールとプローノの対応を見て「敵ではない」と判断している。


目の当たりにしたルクトは、彼らの判断力と胆力に感服していた。


================================


「それで、君はなぜここにいる?」


剣を抜き放ったプローノが、眼前のルクトに対して簡潔に問いかけた。

周囲を素早く目で薙いだルクトも、この上なく簡潔な答えを返す。


「相変わらずですよ。」

「つまりメリゼ王女に会おうと?」

「そうです。」

「なるほどな。」


そこまで言葉を交わしたプローノの顔に、小さな笑みが浮かんだ。

それだけ言えば察してくれると確信していたルクトも、同じく笑う。


次の瞬間。


ザン!

ザン!


同時に同じ方を向いた2人の剣が、襲い来たフードの男2人を斬った。

そんなやり取りの間にも、襲撃者は迫ってくる。ラジュールたち5人も

応戦してはいるものの、この釘付け状態ではジリ貧は明らかだった。


それでもなおここに参上するという約束を、王女と交わしたのだろう。

劣勢に陥りつつも、5人の挙動には迷いの色は感じられなかった。


なら、もう躊躇も遠慮も必要ない。彼らを無駄に死なせる事もない。

取るべき選択肢はただひとつ。


「プローノさん。」

「何だ?」

「離脱しましょう。」

「できるのか?」

「それは、ご存知でしょう?」

「だったな!」


愉快そうに答えたプローノの手が、傍らの馬車の戸を少しだけ開けた。

中を覗く彼のすぐ傍らまで移動したルクトは、援護に徹する。


「メリゼ様。」

「…プローノさま、その方は?」


視線は向けていないものの、そこに王女がいるのは間違いないらしい。

好奇心を抑え込み、ルクトは粛々と剣を振るう。


「大丈夫、私の友人です。」

「どうなりましょうか…」

「とにかく、この場を離脱します。彼がここに来てくれたおかげで、

何とかなりそうですので。」


言いながら、プローノは王女の隣に寝かされているあの侍女を指差す。


「少々乱暴な方法になりますから、彼女をしっかりと押さえて下さい。

それと、できる限り姿勢を低く。」

「それで大丈夫ですか?」

「あとは、ただ気持ちを強くお持ちください。よろしいですね?」

「…はい!」


バン!


そう言ったプローノの手が、馬車の戸を勢いよく閉めた。


「頼むぞ、ルクト。」

「はい。」


「プローノ様!どうしますか!?」


戦いながらの問いかけに、プローノは大声で答える。


「お前たちは馬で逃げろ!!」

「はっ!?」


ザザザザン!


問答の間さえも惜しみ、プローノとルクトの剣が残っていた馬の繋ぎを

一気に斬り飛ばす。その迷いのない行動に、兵たちはとっさに馬たちの

口を取って押さえ込んだ。


「ラジュール以外の者は馬に乗ってこの場を離れろ!」

「ご、合流はどこで!?」

「二の場所だ!!」


一瞬の沈黙ののち。


「…了解しました!」

「ご無事で!!」


迷いを振り切ったらしいラジュール以外の4人が、馬に飛び乗った。

その腹を蹴り、群がる襲撃者たちを一気に躍り越えていく。

判断の早さに、ルクトはあらためて感服の念を抱いていた。


「よし。」


長剣を右手に構えたまま、ルクトは二番刀をスッと抜き放つ。


「頼んだぞアミリアス。」

『待ちかねましたよ。』


真上に高く掲げた二番刀が、陽光を反射して輝く。

鳴り響いた笛のような音は、乱戦の中にあってなおはっきり聞こえた。


================================


ドゴオォォォン!!


馬車が走ってきた北東の方角から、凄まじい破壊音が轟いた。

同時に動きを止めた場の者たちが、音の方に目を向けて身を竦ませる。

酒の醸造と貯蔵を行う大きな塔が、まるで安っぽい細工玩具のように

折れ曲がって崩れるのが見えた。


その向こう側から迫り来る、巨大な影も否応なしに目に入った。

直後。


「グオォォォォォォォォッ!」


ビリビリと空気を根こそぎ震わせる咆哮が、場を満たした。

飛来した黒い影―グルークの翼が、あちこちの送酒管を破壊しながら

突風を巻き起こす。皆、等しく姿勢を崩して無様に転がった。

そんな眼下の人間は一顧だにせず、グルークは狙い澄ましたかのように

一気に馬車の元まで降下する。


「んあっ!?」


ほんの一瞬気を呑まれたラジュールの体が、衝撃と共に浮き上がった。

慌てて視線を戻すと、長身の女性が自分を抱えて馬車に突進している。


「なっ!誰だお前…」

「ルクトの仲間!!」


最低限の説明だけ述べたトッピナーが、そのまま馬車に取り付いた。

タイミングを合わせてプローノが御者台に、ルクトが屋根に飛び乗る。

と同時に、グルークの巨大な前肢が馬車そのものをガッシリと掴んだ。


絶命した馬がまだ繋がれているにもかかわらず、馬車が動き出す。

完全に圧倒されていた周囲の襲撃者たちが、そこで初めて我に返った。

あらためてそれぞれの武器を構えるものの、ほとんどが及び腰である。

そんな周囲の者の気後れをよそに、馬車はそのまま加速し始めていた。


ラジュールが何とか自力で掴まった事を確かめ、トッピナーが御者台に

這い上がる。それを見たルクトは、迷う事なく屋根の上に立った。


「押さえてくれトッピナーさん!」

「分かった、任せて。」


支柱に足を突っ張らせたトッピナーが、ルクトの足をしっかり掴む。

ガタガタと揺れる屋根の上で何とかバランスを保ちながら、ルクトは

素早く上に視線を走らせる。


探すまでもなかった。


「ガンダルク!!」

「こっちー!!」


はるか頭上の送酒管の上を、まるで動物のような身軽さでガンダルクが

飛び渡っている。回り込んだ彼女のコースが、やがて馬車と並行した。

しかし、飛び降りるにしては高さがあり過ぎる。距離も遠い。


ルクトは迷わなかった。

長剣を背の鞘に納め、腰を落として二番刀を構える。


「合わせろアミリアス。いいな?」

『お任せください。』

「よし、行くぜ!!」


裂帛の気合いと共に、ルクトは二番刀を大きく横薙ぎに払った。

連動するように刀身が一気に伸び、軌道上に立つ襲撃者や送酒管などを

次から次に切断していく。そのままルクトは剣閃を斜めに跳ね上げた。

もはやグルークの翼より長くなった刀身が、軌道上の足場を破壊しつつ

駆け渡るガンダルクに迫っていく。一度だけ、彼女はその接近を見た。


次の瞬間。


「よおっと!」


軽やかにその身を虚空に躍らせたガンダルクが、すぐ足元にまで達した

刀身の上に見事に着地した。そして勢いのまま、その上を駆け下りる。

よくよく見てみれば、踏み込む部分だけ黒くなっているのが判った。

ガンダルクの速度と歩幅とを同時に見極めたアミリアスが、踏み込む

部分のみ「切れ味」を消している。紙一重のバランス芸だった。


重さに耐え、ルクトはなおも二番刀を大きな軌道で振り続ける。

切っ先は足場を捉えたままなので、なおも切断の衝撃が伝わってくる。

それでも姿勢を保ち、ガンダルクが駆け下りるための足場を維持する。

と、その刹那。


カァン!


無防備なルクトの胴目掛けて飛んできた矢を、プローノが払った。


キン!


同じくトッピナーを狙ってきた別の矢を、今度はラジュールが防ぐ。


「ありがと!」

「いえ。」

「急げガンダルク!!」


いよいよ馬車が加速していく。

もう少しで届く。


しかし、次の瞬間。


「!!」


駆け下りてくるガンダルクを狙った矢が、完璧な軌道で飛来していた。

誰も届かないという事実に、誰もが表情を歪ませる。


刹那。


ガキッ!!


鈍い音と共に矢を噛み潰したのは、素早く首を曲げたグルークだった。

目の前に迫っていたその太い首に、ガンダルクが迷わず飛びつく。

加重が無くなったルクトも、二番刀を一気に元の長さに引き戻した。


「にゃはははは!!グルークちゃん大好きッ!!!」


嬉しそうなガンダルクの声を合図にしたかのように、グルークは一気に

馬車ごと飛び上がった。そのまま、ウォレミスの街を振り切るように

誰も追えない速度で飛んでいく。

皆が呆然と見送る姿が、だんだんと小さくなる。


造酒の街の中心部を蹂躙し尽くした激戦は、こうして終わりを告げた。



破壊された送酒管からなおも零れる酒の芳醇な香りが、周囲に満ちる。

血と臓物の臭いを消すのに、それはあまりに十分過ぎる匂いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ