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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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読み切れない戦局

「オラァ…って、何ッ!?」


ガキッ!!


振り被ろうとした剣が、脇に伸びる柱に引っかかっている。中途半端な

姿勢のまま、男は進退窮まった。

その瞬間を逃さず、目の前に迫ったルクトが勢いよく右拳を突き出す。

明らかに届くはずのないその拳は、篭手から飛び出した鎖鞭によって

大きくリーチが伸びた。真っすぐな軌道で射出されたその硬い先端が、

男の眉間を捉える。鈍い音が響き、男は剣を残したまま落ちていった。


ジャラッ!


一瞬で鎖鞭を引き戻したルクトが、周囲を確認して小さく息をついた。

複雑な足場を駆け回って戦っていたものの、一段落という空気だった。


結局、彼はここまでで一度も長剣を抜かなかった。

理由は至って簡単。長さと重さが、決定的に場に合わないからだ。

こんな狭くゴチャゴチャした場所で剣を振り回せば、今の男と同様に

必ずどこかに引っかかってしまう。落とせばいいだけだと割り切れば、

面と向かって仕留める必要もない。だからこそルクトは、自在に長さを

変えられる二番刀と鎖鞭だけを使いここまで戦っていた。


「上は片付いてきたみたいね。」


すぐ上に伸びる細い柱に降り立ったガンダルクが、ルクトに告げた。


「ああ。…たぶん、もうこれ以上は増えないだろうな。」


頷いたルクトは、あらためて眼下の乱戦に視線を向ける。


まだまだ収拾がつきそうにない状況が続いている。しかし、彼らがいる

高い場所の足場では戦いはほとんど止んでいた。おそらくここはもう、

戦場としての役割を終えている。

高所からの攻撃は、奇襲の手として非常に有効である。それは確実だ。

しかし実際、馬車の足さえ止めれば後は地上戦がメインになっていく。

手柄が欲しければ、わざわざこんな高い場所に留まる必要などはない。


そして、ルクトとガンダルクはその奇襲担当の者たちの先手を取った。

初手でかなりの数を減らし、彼らの降下さえもほぼ全て失敗させた。

まさか、ここに伏兵がいるとは予想しなかったのだろう。彼らは完全に

出遅れ、連携さえも取れなかった。残っていた者も、おそらくは地上に

そそくさと降りていったのだろう。もちろん今になって上ってくる者が

いるとも考えられない。


戦場は、地上に集中しつつあった。


================================


上から見れば、戦況はよく分かる。


馬車の馬は、6頭のうち2頭が既に絶命していた。その場に釘付けだ。

周囲では大勢が戦っているものの、決定的に馬車に接近している者は

ほとんどいない。ほぼ膠着状態だ。

そして、少し南へと下った地点では別の乱戦が展開されていた。

確認するまでもない。トッピナーが襲撃者を相手に、大暴れしている。

彼女の役割は、単純な陽動である。積極的に馬車に近づこうと考えず、

とにかく場に踏み止まって襲撃者の気を引く。そして、戦う事に専念。

目の前の敵を倒す事だけ考えれば、一対多数でも彼女なら何とかなる。


何しろトッピナーは目立つ。それを最大限に利用し、迎撃する冒険者の

負担を減らす作戦だった。


「…とりあえず、ここまでは想定の範囲内って感じよね。」

「そうだな。」

『任せましょう。』


大声で喚きつつ暴れるトッピナーを見下ろし、3人が言葉を交わす。

薄情に見える行動ではあるものの、それはトッピナーの実力に対する

絶対的な信頼の表れでもあった。


見た目は完全な人間でありながら、彼女は純然たる魔人だ。しかも話を

聞く限り、両親はかなりの戦闘特化種族だったらしい。パワーで言えば

ルクトを完全に上回る。しかも格闘術においても人間の水準を超える。

そして何より、酒に酔えば自己修復能力が桁違いに跳ね上がる体質だ。

飲んだくれた彼女は、首を落とされたりしない限りほぼ不死身である。


要するにこのウォレミスは、彼女にとっては無限に戦える場所なのだ。

雑な陽動を任せるのに、これほどの適任はそういないだろう。


戦いが始まったら、遠慮なく飲んでくれてかまわない。

その言葉に嘘はなかった。


酒代を払うかどうかは別として。


================================


「…だけど、まだ読めないわね。」


馬車の方に視線を向けたガンダルクの声が、少し厳しくなった。


「そもそもあの馬車、どうしてあの場所に頑固に留まってんのよ。」

「だよな。」


同様に視線を向け、ルクトも語調を厳しくする。


「…速度は落ちるにせよ、4頭でも馬車は曳けるはずだ。王女の安全を

優先するなら、とにかくどこか他の道に逃げ込む選択もあるだろう。」

「できないのか、それとも…」

「やるつもりがないのか、か。」

『後者の可能性も高いですねえ。』


見れば見るほど。

そして考えれば考えるほど、馬車の動向は不自然極まりない。まだ誰も

肉迫していないからか、御者たちも護衛たちもまともに動いていない。

と言って、恐慌をきたしてまともに動けない…という風にも見えない。

まるで、何かを待っているような。


一瞬の沈黙ののち。


「ルクト。」

「何だ?」

「あんた、下に降りな。」

「トッピナーさんの援護か?」

「違う、あっち。」


即答したガンダルクが、あらためて馬車を指差して続ける。


「たぶん、この膠着状態はもうすぐ終わる。それもかなり好ましくない

形でね。…多勢に無勢は相変わらずだけど、少なくともこの足場からの

攻撃はもうあんまりない。もしまだ残ってたとしても、それはあたしが

仕留めるよ。それなら、あんたでもあの場を突破できるでしょ?」

「とにかく馬車に取りつくのか?」

「そう。後の事はその都度考えればいいからさ。」


「…お前は大丈夫か?」

「もちろん。」


少し気遣わしげなルクトの問いに、ガンダルクはニッと笑った。


「こういう足場はあたしの独壇場。あんたが一番知ってる事でしょ?

むしろ下だと足手まといになるよ。だからあんたたち2人で行って。」

「…分かった。」

『無理はしないで下さいよ。』

「もちろん!」

「よし。伸ばせアミリアス!」


ドシュン!!


掛け声と共に、二番刀の刀身が下に伸びた。真っすぐ地面まで到達し、

柱のような格好で突き刺さる。


「よっ!」


柄を両手で握ったルクトが、虚空に身を躍らせる。それと同時に刀身が

一気に収縮し、彼を地上まで数秒で降ろした。両足を地に着けると共に

二番刀を引き抜いたルクトの目が、油断なく周囲を見渡す。

彼の着地に、気づいた者はいない。それほど場は混戦の真っ只中だ。

降りた事で、トッピナーの喚き声もより鮮明に聞こえてくる。


しかし、ルクトは感じ取っていた。

ガンダルクが予測したとおり、もう間もなく戦局が動くであろう事を。

二番刀を鞘へと納め、初めて長剣を抜いて構える。



おそらく、ここからが本番だ。

そんな緊張が、否応なしに空気から伝わっていた。

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