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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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大トラ大乱戦

一騎当千という言葉は、まさに千人でさえ相手にできそうな傑物にのみ

用いられる言葉である。中途半端な実力の者に、その形容は値しない。

そして。

真なる実力を持つ者は、中途半端な依頼に喜んで馳せ参じたりしない。

王女をさらえだの守れなければ殺せだの、そんな言葉に耳を傾けない。


つまり、ウォレミスの街の戦いにはほぼ参加しない。

一方的な蹂躙が成立するほどの力の差というものは、場に生まれない。


数の差は、そのまま優劣の差として戦局に顕現する。


================================


ドドドッ!


数本の矢に貫かれ、長身の冒険者が沈黙した。同じパーティーの一員と

思しき女性も、彼のすぐ傍らで既に息絶えている。

襲撃者たちの圧倒的な数を前にした迎撃の冒険者たちは、劣勢だった。

ただでさえ勢いある襲撃者たちは、個の実力で勝るはずの冒険者たちを

圧倒できている眼前の事実に、ますます増長の度合いを深めている。


集団戦は、勢いと流れこそが全て。

どちらかにはっきり傾いてしまった戦局は、そう簡単には覆せない。

乱戦が始まってあまり経っていないにも関わらず、状況は厳しい。

馬車からも護衛の兵が外に出てきているものの、もはや多勢に無勢は

誰の目にも明らかだった。


と、そこへ。


「あーあ。」


混迷を極める場の空気にあまりに似つかわしくない、嘆きの声が響く。

刃を交えていた者たちは、みな同時にそちらに視線を向けた。


水色の髪を持つ長身の女性が、迷いのない足取りで近づいてくる。

どう見ても場違いなその姿に、すぐ近くにいた襲撃者の一人が無意識に

近づいていく。あるいは知らぬ間に馬車から降りた、王女の関係者かと

自分なりに考えたのかも知れない。


しかし、彼の予想はあらゆる意味で完全に裏切られた。


ドゴォン!!


何か言おうとしたのか、中途半端に開けた口目掛けてその女性の右拳が

轟音と共に叩き込まれた。砕かれた歯の欠片が血を交えてパッと散り、

男は勢いのまま仰向けに倒れ伏す。体の痙攣は、やがて永遠に絶えた。

あらためて見てみれば、女性の両の拳には四角く鈍重なガントレットが

装着されていた。


「冒険者を名乗ってる連中が、この程度のチンピラ相手に後れを取って

どうすんのよ。」


誰にともなく放たれたその言葉が、気を呑まれていた場の人間たちを

再び動かした。その中の何人かが、武器を構えて女性に殺到する。


「何なんだてめえはよォ!!」

「そんなに死にたきゃやってやる!その前に突っ込んでやらァ!!」


「お断り。」


ぼそりと呟いた女性-トッピナーの体が、引き寄せられたかのように、

向かってくる相手の襲撃者に倍する速度で突っ込む。予想外の突進に

武器を振りかざす間もなく、襲撃者たちはまとめてトッピナーと激突。

一対多数のハンデをものともせず、トッピナーは彼らを一気に壁際まで

押し込んだ。


「な、何だこの女アアァ!」

「冒険者ギルドの受付よ。ただし、「元」ね。」


ドゴォォン!


送酒管とタンクとが接続されている一角に、押し切られた襲撃者たちが

凄まじい音と共に突っ込む。金属製のタンク前面がひしゃげ、破断した

送酒管から一気に酒が降り注いだ。赤紫色のその奔流は、真下に固まる

襲撃者たちとトッピナーを容赦なく染め上げていく。


「…ンの、死ねクソアマが!!」


ドスッ!!


押し込まれた体勢のまま、最前列の男が腰に下げていた短剣を抜き放ち

目の前のトッピナーの肩口に深々と突き刺した。


悲鳴は、響かなかった。


================================


一瞬の沈黙ののち。


「やってくれんじゃん。」


顔を上げたトッピナーの表情には、苦痛の色などまったくなかった。

自分に刃を突き立てた男の顔を睨む両目が、赤くなっている。


明らかに、酔っぱらいの目だった。


「て、てめぇは…」


困惑の響きに満ちた男の言葉を完全に無視し、トッピナーは右の拳を

大きく後ろに引いた。そしてその拳を、いまだ押さえ込んだままの男の

腹部を目掛けて思い切り叩き込む。


ドッゴオオオォン!


衝撃は、男に血を吐かせるだけには留まらなかった。まだ押し込まれた

ままになっていた後ろの数人にまで伝わり、全身がビクッと痙攣する。

コンマ数秒後、彼らの背後で無惨にひしゃげていたタンクが破裂した。

中に溜まっていた酒が爆発的な勢いで噴出し、襲撃者たちはその足元に

溜まっていた酒の中へと倒れ込む。全員、泡を吹いて絶命していた。


「飲んでるあたしをナメんなよ。」


言いながら肩口から短刀を抜くと、あっという間に刺し傷が塞がった。

タンクの爆発の轟音に気を呑まれた周囲の者たちが、どう見ても正気と

思えないトッピナーに戦慄する。

しかし彼女はいたって正気であり、そして容赦もなかった。


「盛り上がってきたねえぇぇ!!」


言いながら地を蹴り、すぐ目の前の襲撃者たちに突進していく。


ドガン!

ドガァァン!


迎撃の遅れた2人が、まるで爆発に巻き込まれたような勢いで虚空に

吹き飛ばされる。激突した伝酒管がまた破断し、酒が降り注いだ。

真下まで駆け寄ったトッピナーが、文字通り浴びるように酒を飲む。


誰も手に負えそうにないトッピナーに、冒険者たちは顔を見合わせた。

そして、目の前の状況に対してきわめて単純な意識統一をする。


あの女は、少なくとも敵ではない。攻撃しているのは襲撃者のみだ。

あの姿から、目的などはかれない。ただ受け入れるのみ。

メリゼ王女に牙を向く存在でないとするなら、好機だと思っておけ。

自分たちは、自分たちの敵と戦え!


「そうそう!請け負った仕事なら、しっかりやンなあ!!」


体勢を立て直した冒険者たちをの姿を目にした、トッピナーが大笑する。

そんな彼女の背後に、ガンダルクが蹴り落とした襲撃者が落ちてきた。

しかしそちらには視線すら向けず、トッピナーはさらに突進していく。



彼女の乱入に、場の騒乱はますますヒートアップしていた。

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