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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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知り過ぎた者の気苦労

宿の部屋で荷物を下ろした頃には、すでに夕暮れが迫っていた。


国境越えを果たした日は、夜襲から野宿となかなかキツかった。

だから、今日はとにかく宿を通る。そして疲れを残さないように休む。

無理をしたところで、いい結果など出ない。だからそこは惜しまない。

それは、ガンダルクの一貫した主義だった。もちろんルクトたちにも、

これといって異論はなかった。


しかし。


「…はぁ。」


粗末なテーブルを囲むように座ったルクトたちは、ほとんど同じように

頭を抱えて大きなため息をつく。


「弱音を吐くつもりはないけど。」


誰にともなく、ルクトが告げる。


「…正直、ここまであれこれ事情を知りたくはなかったな。」

「……」

「……」

『……』


誰も答えない。

ルクトも返答は期待していない。


実際、全員がかなり参っていた。


================================


教会の地下における密談の盗聴は、思いがけないほどの収穫だった。


まず、ピルバスたちが口にしていた「王女の危機」に確信が持てた。

そして今現在、王女が王都にいるという事もはっきり分かった。

誰が黒幕なのかも分かった。

さらに言うなら、いつどこで襲撃が実行されるのかまで分かった。


はっきり言って、ここまであっさり情報が得られるとは思わなかった。

少なくとも、後れを取る心配だけはなくなった…と言っていいだろう。

偶然とは言え、確かにツイていた。


しかし話はそこで終わらなかった。


いくら何でも多勢に無勢だ。幸い、ギルドはすぐそこに見えている。

怪しまれるのは覚悟の上で、この事を伝えた方がいいのではないか。

そう考えていた矢先、一台の馬車が慌ただしく入口に横付けされた。

伝令らしき者がギルドにあたふたと駆け込むのを見て、トッピナーが

顔色を変えた。そしてルクトの手から二番刀を引ったくり、ギルドの

裏手へと一気に駆けていった。


「ああいうの覚えがある!…きっとろくでもない知らせよ!」


慌てて追いすがったルクトとガンダルクにそう答えると、トッピナーは

建物の裏口近くで二番刀を迷いなく突き立てた。


「あの手の伝令は絶対に奥の部屋で内密に話す。聞き取って!!」

『分かりました。』


とにかく切羽詰まったトッピナーの言葉に、アミリアスは即応した。


結果。


トッピナーのその行動は、あまりに適切だった。

「情報を得る」という当初の目的を考えれば、本当に想定以上だった。


だからこそ、今この瞬間。

ルクトたちは、頭を抱えていた。


================================


「…とにかく情報を整理しよう。」


嘆いていても何も始まらないと腹を括ったのか、ルクトが立ち上がる。

そして荷物の中から、丈夫な羊皮紙の地図を出してきて広げた。


「ええっと…印になるものは…」

「これいいんじゃない?」


そう言ってガンダルクが手に取ったのは、飾りとしてガラス器の中に

入れられていた丸い石だった。何色かに塗られており、数も多い。


「ああ。じゃ、貸してくれ。」

「ほい。」


器ごと受け取ったルクトは、一番上の黒い石を取り出し、地図の一点に

そっと置いた。


「とりあえず、今いるララビの街はこのへんだ。で…」


同じ色の石を2個つまみ上げ、最初の石の下に並べて置く。

地図で言えば、1個はララビよりも南東に位置する場所に。もう1個は

そこからさらに南に下った位置に。


「ここが王都のロヒリア。そこから南に下ったここがウォレミスだ。

つまりこの場所が…」

「3日後に、メリゼ王女が襲われる街ってわけね。」


何気ないガンダルクのその言葉も、さすがにトーンが低かった。


================================


メリゼ王女が王都から首都に在所を移す事が決まったのは、10日ほど

前の事らしい。時期的に見て、北のジリヌスの改革が影響している…と

考えて間違いはないだろう。王都は割と北にあるため、万が一の事態を

想定して王族を安全な首都に移す。発案者が誰であれ不自然ではない。


もちろん、公然と発表された事ではない。むしろ秘匿されるべき話だ。

王女の身の安全を考えれば、無事に引越しが終わってから発表しても

国民は文句など言わないだろう。

ルクトたちがこれを知り得たのは、地下の密談を盗聴したからだった。


王女の一団がいつ王都を発ち、どのルートを通って南下するかは不明。

いや、リークされた情報である事を鑑みれば、”そこは教えない”という

依頼側の判断だろう。下手にそれを不特定多数に教えると、襲撃場所が

定まらなくなる危険が生じる。

なので、3日後にウォレミスの街を通るという情報だけが与えられた。


黒幕の名は、宰相ウルムス。

国王からの信望厚く、かなり国政で腕を振るっている大物だ。

密談者いわく、やはりメリゼ王女を手土産にジリヌスへ「鞍替え」する

算段らしい。どこにいるかは明確に語られていなかったものの、王女を

手土産に亡命するなら王都だろう。自ら連れ出すわけにはいかないので

後ろ暗い者たちを雇った。どうやらそんな話で、間違いはないらしい。

おそらく、何食わぬ顔で王女一団を首都へと送り出すと思われる。


ウォレミスの街は、けっこう遠い。なので襲撃者たちは多分、この街を

すでに出発しているだろう。ルクトたちがここに泊まる事を決めたのは

逆に言えば、3日後まで王女の安全がほぼ保障されているからである。


「で、ウォレミスってどんな街?」


トッピナーの質問に、ルクトは少し視線を泳がせた。


「…産業都市、ですね。特定の。」

「ん?…特定産業って何?」

「……」


黙り込むルクト。しかしガンダルクの表情を窺えば、彼女もそれが何か

知りたがっているのは判る。もう、言わないと話が前に進まない。


しばしの沈黙ののち。


「街全体が、造酒をやってます。」

「うん?」


いつになく小さな声で告げたルクトの言葉に、トッピナーはぐびりと

喉を鳴らした。


「…酒造りの街、ね。そうかそうかそうなのか…」

「で、襲撃場所としてはどうよ。」


そんなトッピナーをよそ目に、隣のガンダルクが現実的に問いかける。

気を取り直したルクトの指が、位置を示す石を軽くつついた。


「街自体はそんなに大きくないし、道が入り組んでるわけでもない。

ただ、とにかく上に空間がある。」

「上?」

「醸造した酒を通すための”管”が、高所からゴチャゴチャと複雑に

張り巡らされてるんだよ。もちろん人が歩くためのものじゃないけど、

身軽な奴なら足場にできるだろう。正直、待ち伏せるには理想的だ。」

「なるほど、考えてるねえ。」

「酒の流れる管…」

『そこが襲撃場所に指定されている事情を鑑みれば、宰相のウルムスが

王女の引越しを全面的に任されたと考えていいでしょうね。』

「ああ、多分な…。」


4人は、いったん言葉を切った。


このララビの街に宰相からの依頼が来ている以上、近隣の街でも同様に

後ろ暗い者たちが集められているのだろう。それはほぼ間違いない。

そして皆、王女がウォレミスの街に差し掛かった時点で牙を剥き出す。


引越しの手はずを整えたのが本当に宰相なら、護衛も信用できない。

率直に言って、メリゼ王女の周囲は敵だらけなのかも知れない。

今この段階でも、状況は十分過ぎるほど悪い。


しかし、今のルクトたちはもう既に知ってしまっていた。

トッピナーの機転によって。


王女を取り巻く今の状況が、実際はさらに悪いという現実を。


「情報を得るのも良し悪しだな。」



ポツリと呟いたルクトの言葉には、かなり重い実感がこもっていた。

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