表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
53/703

大要塞襲撃の顛末

「…メリフィスたちが、ガルデンに乗り込んだ?」


ルクトの声は、少し上ずっていた。


「どういう事だよ。あいつら確か、フリーランド内にいたはずだろ?」

『ええ。確かに昨日までは、間違いなく滞在していました。』

「だったら何で…」

『転移貴術でしょう。』


あくまでも抑揚のない事務的な口調で、アミリアスがそう答える。


『途中の道程を丸ごとカットして、一気に要塞内に到達したようです。

この手の転移術は到達先にも転移陣を施しておく必要があるのですが、

そう言えば心当たりがあります。』

「心当たり?」

「何よそれ。」


意想外の言葉に、プローノとガンダルクもアミリアスに問いかける。


「もしかして、訪ねていった時に何か見つけてたっての?」

『ほんのかすかな残滓と言うか、違和感があったのは事実です。』

「だったら、何で気付いたその時に言わなかったんだよ!」


「落ち着きな、ルクト。」


無意識に語気を荒くしたルクトを、向き直ったガンダルクが宥めた。


「転移術は、メリフィスが殴り込むためのものでしょ?…間違っても、

バルセイユたち魔人を呼び込むために仕込まれたわけじゃない。」

「それは…そう…か。」

『もし魔術の残滓を感じたのなら、さすがにお知らせしていました。

しかし貴術である以上、要塞の中の誰かが用いたものではないか…と

判断したんですよ。』

「なるほど。」


アミリアスの説明に、先にプローノの方が納得の声を上げる。


「勇者メリフィス殿の来訪は記憶にないのだが、表立って来たのでは

なかったのかも知れん。嫌な想像になるが、秘密裏に仕込んだのかも

知れないな。」

「ああー、何かやってそう。」


実感のこもった口調でガンダルクが同意を示すと同時に、顔を上げた

ルクトが二番刀の柄を握りしめた。そしてゆっくりと問いかける。


「…アミリアス。」

『はい?』

「お前、どう思う?」

『どう、とは。』

「メリフィスの、この行動だよ。」


まるで何かを迎え撃つかのような厳しい表情で、ルクトが続ける。


「冒険者ギルドの国営化についての通達が出て、間もなくガルデンが

魔人の軍団に襲われた。しかもその首魁は、返魂術で蘇った凄腕だ。」

『……………』

「今の魔王が送り込んだって仮定もできなくはない。それは確かだ。

にしても、あまりにもタイミングが良過ぎると思わないか?それに…」

『どうしてわざわざ、死んでいた魔人を蘇らせて送ったか…ですか。』

「ああ。」


『推測を述べてもいいのですか?』

「論じなきゃ前に進めないだろ。」

『そうですね。』


2人のそのやり取りを、プローノもガンダルクも黙って聞いていた。


短い沈黙ののち。


『考えられる筋書きは一つですね。メリフィスは最初からバルセイユに

ガルデン大要塞を襲わせるつもりでいた。奴を蘇らせたのはおそらく、

ソーピオラちゃんでしょう。彼女の技量なら、返魂術は行使できます。

そして頃合いを見て自身が大要塞に乗り込み、バルセイユを討ち取る。

彼の技量なら、それは難しくない。…何もかも納得ができますね。』

「やっぱり、そうなるよな。」


答えるルクトの口調に、取り乱した気配などはなかった。


================================


「…ヤな話ね。朝っぱらから。」


うんざりと言いたげな表情になったガンダルクが、誰にともなく言う。


「なるほど、合点が行く。」


重々しく頷いたプローノが、全員を見渡してゆっくりと続けた。


「もしそれが事実なのだとすれば、おそらくメリフィス殿はガルデンが

陥落する前に乗り込むつもりだったのだろう。」

「何でそう言い切れるの?」

「襲撃者の数はおよそ200。もしガルデンが元のままの態勢であれば

それなりに持ち応えられたはずだ。こんなにもあっさり陥落したのは、

私が君命に背いて大半の兵士たちを去らせたからに他ならない。何より

私自身がなりふり構わず逃げる選択をしたなど、予想外だろうから。」

「この数日で、そんなに兵士の数が減ってたんですか。」

「妻子を持つ者、別の道を希望する者は一人残らず退去させていたよ。

これからの厳しさに対する、覚悟を持った者だけが残留を決めていた。

そんな彼らに切望されたからこそ、私は何もかも振り切って逃げた。」


「それはまた…何とも…」


さすがのガンダルクも、後に続く言葉をなかなか見つけられなかった。


事実上、国から見放された事になる国境の大要塞ガルデン。

徐々に兵士たちの解雇を進めていけという君命を突っぱねたプローノは

ほんの3日間の間に、残る事を望まない兵士を一気に退去させていた。

ほとんどもぬけの殻も同然になったガルデンに、バルセイユらの襲撃を

迎え撃つ力などほとんど残っていなかったのだろう。事実、その蹂躙は

あまりにも一方的で、大勢が決するまでの時間はあまりにも短かった。

そして、総司令であるプローノ将軍は無様に遁走した。


結果だけ見てみれば、もはや将軍の命では購えないほどの大敗だろう。

いくら兵士たちの力が及ばないとは言っても、経緯がお粗末過ぎる。


しかし、本当にそれは結果を見ての評価なのだろうか。


メリフィスなら、バルセイユを倒す事はできる。それは間違いない。

ルクトがバルセイユを倒せたのは、その戦い方と弱点をガンダルクから

事細かに聞いていたからである。

率直に言って、これはプローノでは無理だろう。結果が物語っている。


つまり兵士が何人で迎撃しようと、最終的にガルデンは陥落していた。

メリフィスが来るまでの死者が何人になったかは、想像などできない。

ひと晩に及ぶ死闘の末に、あるいはプローノも戦死したかも知れない。


『今の時点では、どこまでも仮定の域は出ませんけどね。』

「そうね。」


アミリアスの言葉に、ガンダルクが簡潔に答える。ルクトとプローノも

無言のまま表情で同意を示した。


「…ドリンスさんやゼンダさんは、残ったんですか。」

「勇猛だったよ。」

「……」


唇を噛んだルクトが、重ねて問う。


「…じゃあ、ラジュールさんも?」

「私を逃がすために残っ」

「あれ?」


沈痛な声を無粋に遮ったガンダルクが、遠くを指差す。


「誰か来るよ。」

「え?」

「誰が?」


「…………プローノ様あぁぁ!!」


間延びした叫び声と共に、見覚えのある馬に乗った誰かが駆けてくる。

それが誰であるかに気付いたルクトたちは、思わず顔を見合わせた。


「あれって、もしかして…」

「ラジュールさん?」

「…らしいな…」


どんな顔をすればいいのか、誰にも分からない。分かるはずがない。

しかし、目の前の事実がささやかな僥倖である事だけは確信していた。


その場で佇んでいる、誰もが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ