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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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彼らの選択

獣は本能に忠実であり、それゆえに人間よりも的確な選択ができる。


バルセイユたち魔人が追跡のために用いた数体のフライドラグンは、

身の危険を感じると同時にどこかへ飛び去っていた。これはひとえに、

ルクトたちの駆るフライドラグン・グルークの放つ殺気の凄まじさに

本能的危険を察知したからだった。


朝日が照らす平原に、そのグルークがゆっくりと舞い降りる。目の前に

佇むルクトの髪がなびき、細かな草がいっせいに舞い上がった。

ずっと尻尾に巻かれていたプローノも、そこでようやく降ろされる。

それと同時に身を屈めたグルークの背から、ガンダルクが飛び降りた。


「大丈夫?」

「ご無事ですか?」


同時に声をかけられたプローノが、右手を押さえながら立ち上がる。


「ああ。…おかげで助かった。感謝するよ。」

「とりあえず、間に合ってよかったとだけは言わせてよ。」


そう言い置いたガンダルクの目が、絶命した兵士の亡骸を見やる。


「…あなたにも、思うところは色々とあるだろうけどさ。」

「大丈夫だ。」


そう答えるプローノの言葉に、嘆きの響きはなかった。


「生き残れた以上、恨み言など何もない。それは断言する。」

「ご無事で何よりです。」


その言葉を発したルクトが、初めて笑顔を見せていた。


================================


ソーピオラの所持品の中にあった、治癒貴術の込められた結晶。

それをルクトに差し出されたプローノはさすがに恐縮したものの、彼の

「元は盗品です。」というひと言で開き直った。さすがにその効き目は

右手を治すには十分だった。


その傍らで、アミリアスから許可を得たグルークが殺された2頭の馬を

丸ごと平らげていた。最後まで付き従った兵と、プローノの馬である。

傍目には残酷な光景かも知れない。しかしプローノも納得済みだった。


「死んだものは戻らない。ならば、糧となるのもひとつの道だろう。」

「…そうだよね、うん。」


頷いたガンダルクが、地面に残ったバルセイユの骸の跡に目を向ける。


「こいつも、本当はそうあって然るべきだったのにね。」

「死から蘇った魔人だったという話は…間違いないのか?」

「ええ。」


プローノの問いに、ガンダルクは小さく頷いて答えた。


「間違いなく、このあたしが百年前にザンツと一緒に殺した奴よ。」

「それが蘇った…」


跡を確かめながら、ルクトが呟く。


「いや、返魂術を使った痕跡がある以上、誰かが蘇らせたんだよな。」

『間違いなく、そうでしょうね。』

「今の声は?」


怪訝そうなプローノに向き直ったルクトは、二番刀をそっと掲げた。


「これですよ。」

『どうも初めまして。アミリアスと申します。以後お見知り置きを。』

「…剣が喋るとは…もしかすると、魔人であらせられるか?」

『そうです。』

「ちなみに、守護者(ガーディアン)を操ってたのはそいつだよ。」

「!?…何と…。」


さらっと打ち明けたガンダルクの言葉に、プローノは目を見開いた。


「…私がガルデンで時を重ねていた間に、そんな事がありましたか。」

「ま、つい最近の事だからね。」


ふと視線を向ければ、馬を平らげたグルークが顔を上げていた。

言葉を切ったルクトたちは、彼女の視線を何となく追って朝日を見る。


陰惨な夜は、もう遠くなっていた。


================================


「それにしても、どうしてこの場所が分かった?」


殺された5人の兵士たちの亡骸を、街道脇の木の近くに埋めた後で。

敬語はやめろとガンダルクに言われたプローノが、あらためて問うた。


「君たちがガルデンに向かうのなら話は分かるが、どうやってこの私の

所在まで突き止めたのか…」

『ああ、それはお会いした際、少し仕掛けをしまして。あなたの所在は

判るようにしておいたんです。万一の場合に備えて、ね。』

「…そうだったのか。」

『失礼をお許しください。』

「いやいや。」


詫びるアミリアスに、プローノは手を振って小さく笑った。


「理由が何であれ、今私がこうして生きているのはそのおかげだろう。

どうか気にしないで欲しい。」

『ありがとうございます。』


「アズミヤのギルドで国営化の話を知って、とにかくあなたにもう一度

会わなきゃいけないと思って。で、ガルデンに向かったんですが…。」


そこでルクトは、悔しげに俯いた。


「道中、2人がバルセイユの魔力の気配を察知した。しかもそれは、

まさにガルデンの真っ只中にあったんです。一方のあなたの気配は、

もうガルデンから離れていました。それで…」

「悪いけど、あたしたちはあなたを救う方を選んだって事よ。」


ルクトの言葉を引き継いだガンダルクの視線が、もはや遠くなっている

ガルデン大要塞のある方角を向く。


「…あたしたちにできる事なんて、決して多くない。何か起こっても、

全てに手を伸ばす事は無理。だからもう、ガルデンには行かなかった。

ルクトとグルークだけで、どうにか出来るとは思えなかったからね。」


口調は淡々としている。

しかし遠くを見つめるガンダルクの横顔は、悲しみに満ちていた。


「承知した。」


短く答えたプローノもまた、彼女と同じ方角をじっと見つめる。

それ以上、どちらも何も言わない。

見守るルクトもまた、あえて余計な言葉を口にする事はなかった。



もし自分たちが行けば、救えた命があったのかも知れない。

あるいは、もうすでに手遅れだったかも知れない。

どこまでも、仮定は仮定のままだ。

そして、今さら判断の是非を考えるのは何よりも不毛な行為だろう。


いくら強かろうと、ルクトは一人の剣士でしかない。それが現実だ。

街ひとつの規模を誇るガルデンを、一人で守り切る事などできない。

そもそも、そんな義理はない。


しかしプローノは、できなかったという理由で納得はしていなかった。

自分にとって、そんな事をルクトに求めるのは違うとの確信があった。


最期まで戦ったであろうガルデンの兵士たちが、自分に望んだ事。

それは生き延びる事だった。どんなに無様でも、逃げ延びる事だった。

そして今、望まれた自分はこうしてまだ生きている。それが全てだ。

成せなかった事よりも、成せた事に目を向けろ。

救われた命で、彼らの思いを繋げ。


今さら、肩書きなどにこだわらず。


================================


「さて、と。」


気持ちを切り替えたらしいガンダルクが、誰にともなく告げる。


「何だか知らないけど、この前話をした時とは情勢が決定的に違う。」

「そうだよな。」

「確かに。」


ルクトとプローノの2人が、異口同音で同意を示した。


「妙なタイミングでバルセイユが現れたのも含めて、何が起こってるか

ちょっとでも探らないとね。うかつに動くと、また後手に回るよ。」

「じゃあ、どうする?」


表情を険しくしたルクトが、2人に問いかける。


「やっぱり、一度ガルデンまで戻るべきか。奪還ができるかどうかは

別として、情報を手に入れるためにはそれしかないだろう。」

「うーん…」

「…」


ルクトの言葉に、ガンダルクもプローノも返答の言葉を見出せない。

バルセイユが死んだ以上、ガルデンの奪還は可能かも知れないだろう。

しかしそれが最善かと考えた場合、どうにも答えが出せないのも事実。


しばし、重い沈黙が流れる。

そして。


『…ガンダルク。』


不毛な沈黙を破ったのは、アミリアスだった。


「どしたの?」

『…ガルデン大要塞には、戻らない方が賢明かも知れません。』


「……?」


何故なのかという問いを、ルクトはすぐには口にしなかった。

何かしら、予感めいたものがあったからかも知れない。



日が少し高くなった平原に、ひときわ強い風が吹き抜けていった。

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