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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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バルセイユ対ルクト

「君は…」


手の甲の激痛も忘れ、プローノは突如として現れたルクトを凝視した。

一体、どうして。

一体、どこから。

一体、どうやって。

そんな尽きない疑念も、バルセイユの言葉でかき消される。


「…お前ェ、兵士の類じゃねェな?いけ好かねェそのナリからすると、

冒険者とか勇者とかかよォ?」

「別に何でもいいだろ。」


取りつく島もない言葉を返すルクトが、ゆっくりと長剣を抜き放った。


「俺が何なのかより、何しに来たかの方が重要だろうが。」

「…ホホォ、話が早いねェ。つまりこの逃げ腰大将サマを助けるために

馳せ参じたってわけかよォ。」


納得したような口調で言ったバルセイユの視線が、不意にプローノへと

向けられる。その濁った紫の瞳に、一瞬の殺気が宿った刹那。


ヴォン!!


だしぬけに烈風が走り、蹲っていたプローノの体に鈍い衝撃が走った。

備える間もなく横に引っ張られた体が、そのまま一気に上昇する。


「んあッ!?」


誰よりも驚愕したのは、他でもないプローノ本人だった。

失神しそうな圧迫感と横向き加速に耐えて自身の体を確認してみると、

何やら黒いものがガッチリと胴回りに巻きついていた。これは…


「……フライドラグン!?」

「ゴメンねー乱暴で!」


激しい風切り音の中に、不意にそんな言葉が混じって聞こえてきた。

ハッと進行方向に視線を向けると、予想通り巨大なフライドラグンの

尻尾が自分の体を巻き込んでいる。そしてその背に跨っているのは…


「…来てくれたのか。」

「ゴメンねー遅くなって!」


チラッと彼に向き直ったその少女―ガンダルクが、小さく笑いかけた。


================================


仕掛けの色もなくプローノ目掛けて投じられた半月刃は、空を切った。

まるで予想していたかのような回避に、バルセイユはその顔を歪める。


「味な真似しやァがって。あんまり俺を馬鹿にすると…」


ガン!!


よそ見していたその頭部に、強烈な一撃が叩き込まれる。しかしそれは

明らかに刃物によるものではない。細い鈍器による打撃だった。当然、

まともなダメージにはならない。


「…ああァ!?」


怒りに燃えた視線を戻した先には、篭手から伸ばした鎖鞭をゆっくりと

引き戻すルクトの姿があった。


「よそ見ばっかりしてんなよ。お前の相手はこの俺だろうが。」

「…そんなに死にてェのか?」

「知るか。」


刹那。


シュッ!

ギィン!!


一瞬の閃光と共に放たれた半月刃の一撃を、長剣を寝かせたルクトが

弾いて防ぐ。しかし激突の勢いは、彼を半歩ほど後ろに下がらせた。


「ホォ防ぐかよ。だが何とも足元がおぼつかねェなあ。その程度で…」


ダン!


口上を皆まで言わせず、踏み込んだルクトが鋭い刺突を繰り出した。

半身になってかわしたバルセイユも湾曲した剣をどこからか取り出し、

目の前のルクトの右の肩口目掛けて振り下ろす。しかし次の瞬間。


「あァ!?」


目の前にいたはずのルクトの姿が、一瞬で掻き消えた。


「どこへ行きやが…ッタァ!!」


そう言いつつ剣を逆手に持ち換え、不自然な姿勢で背後に突き出す。


ガキィン!!


「ちぃっ!!」


鈍い衝突音が響き、すぐ背後にいたらしいルクトが飛び離れた。

どうやら剣で防いだものの、相当な衝撃を受けたらしい。その両の手は

かすかに震えていた。


「あァ、やっぱりお前じャあ膂力が足りてねえよ。それと、コソコソと

隠れても無駄だ。動きが甘ェな。」

「……」


その言葉に答えず、ルクトはひと息入れると再び長剣を構え直した。

その姿を睨みつけたバルセイユが、何を思ったか棒立ちになる。


「…何のつもりだ?」

「お前ェの命に免じて、一撃だけ入れさせてやるよ。どうだァ?」


剣を構えたままのルクトの問いに、バルセイユが笑いながら答えた。


「その一撃が入らなきゃ、今度こそ首を刎ねるぜ。どうだァ?それ…」


ダン!!


またも口上が終わるのを待たずに、ルクトは迷いなく踏み込んだ。

そして振りかぶった長剣を、相手の肩口目掛けて袈裟懸けに撃ち込む。


瞬間。


ギイィィィン!!


革の服を斬ったとは思えないような音が響き、ルクトの手から長剣が

弾き飛ばされる。間違いなく入った一撃は、バルセイユの肩に弾かれて

かすかな傷さえも残し得なかった。


「馬鹿がァ。この俺の防御の堅さをナメてんじゃねェ!じゃあ殺…」



ドスッ!!



かすかに聞こえた鈍い音が、またもバルセイユの口上を遮っていた。


================================


「…あ?」


剣を振りかぶった姿勢のまま、バルセイユは大きく目を見開いていた。

長剣を取り落としたはずのルクトが懐に潜り込み、自分の右の脇腹に

あの奇妙な短剣を突き立てている。


どう考えても、最初から狙っていたとしか思えない二段構えの一撃。


しかも、よりによって…


「…てめェ…何で知ってる…?」


言いながら、バルセイユは鮮やかな青緑色の血を口から滴らせていた。


「俺の…唯一の…傷を…」

「何でだろうな、バルセイユ。」

「…あァァ!?」


ここに至って初めて名前を呼ばれたバルセイユの目が、怒りと困惑で

大きく見開かれた。なおも口から血を吐きつつ、取り落としかけていた

剣をあらためて大きく振りかぶる。


「だがよォォ!浅いんだよォォ!!そォォんなちっぽけな剣なんかじ」

「伸ばせアミリアス!!」


ドシュン!!


やはりその口上は、最後までは述べられなかった。

ルクトの掛け声と共に一気に伸びた二番刀の刀身が、体の反対側まで

突き破った。と同時に、まるで失禁でもしたように盛大に血が下半身を

伝って流れ落ちる。


ガラン!!


今度こそ取り落とされた湾曲剣が、地面に転がって乾いた音を立てた。

と同時に、刀身の長さを元に戻したルクトが二番刀をスッと引き抜く。



まるで繰り糸が切れたマリオネットのように、バルセイユは崩折れる。


朝日がはるか遠くの地平に顔を出したのは、ほぼ同時だった。


================================


「…何でだァ…?」


ゴボゴボと血を吐きながら、バルセイユはルクトを見上げていた。


「何でお前…知ってたんだァ…?」


自分の死を悟ったのだろう。もはやバルセイユの顔に、負の表情などは

見られなかった。そんな彼をじっと見下ろし、ルクトが言葉を返す。


「知りたいか?」

「あァ…頼む…」

「だったら俺の質問に答えろ。」

「…答えられる…事ならなァ…」


「何でガルデン大要塞を襲った?」


簡潔な問いに、バルセイユはフッと血まみれの顔に笑みを浮かべた。


「…分からねェなァ…」

「無意識にやったのか?」

「あァ…何だか…誰かにそうしろと言われた気が…するなァ…」

「そうか。」


要領を得ないその答えに、ルクトは小さく頷いた。


「やっぱりお前、返魂術で蘇生した身だったんだな。」

「…何だと……?」

「一度死んで蘇ったんだよ。誰かの手でな。」


抑揚のないルクトの言葉に、バルセイユの目が見開かれた。


「俺が…死んで……」


困惑の声が、やがて平坦になる。


「そうだった。俺は死んでたなァ。何で忘れてたんだァ……?」

「そう仕込まれてたんだろ。」


バルセイユの言葉に、ある程度まで納得したのだろう。

ルクトの視線が、致命傷となった脇腹の傷に向けられた。


「何で傷を知ってたのか、か。」

「あァ…ザンツ様でさえ、この傷は知らなかったはずだ。何たって…」

「この一撃を食らったせいで死んだから、だろ?」

「……何でそれをォ…」

「それが答えだ。」


そこで初めて、ルクトは小さな苦笑を浮かべた。


「その傷の存在を知っている奴が、一人だけいる。つけた本人だよ。」

「………」


言われた事の意味に思い至ったか、バルセイユの顔に驚愕が浮かんだ。


「…まさか……ガンダルクか…?」

「じゃあな、ザンツ親衛隊六選将、バルセイユ。」


ザン!!


いつの間にか手元に戻していた剣が一閃し、バルセイユの首を刎ねる。

もはや、あまり血は出なかった。断末魔の叫びもなく、バルセイユの

瞳から光が消える。それと同時に、体も首もグズグズと崩れ始める。


あっという間に青黒い染みと化した体の中から、黒い塊が転げ出る。

やがてその塊もまた、かすかな音を立てて割れ、そして崩れ落ちた。


『やっぱりですか。』


その最期を見届けたアミリアスが、ポツリとそれだけ呟いた。



朝焼けの空に、フライドラグンの大きな影がゆっくりと舞っている。



新しい一日の始まりだった。

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