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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第一章 追放と出会いと
5/703

岩巨人対ルクト

次撃は、すぐに繰り出された。


ドゴオォォォォォォォォン!!


重さなど微塵も感じさせないほどの鋭い動きで、重い一撃が襲い来る。

ギリギリのところでその一撃を回避したルクトは、一気に目の前に立つ

岩巨人の足元まで間合いを詰めた。


ギィン!!


横薙ぎの一閃が、やや細めの左足にざっくり切れ目を入れる。しかし、

岩巨人は倒れなかった。まともな痛痒を感じていないのか、向き直って

さらに強烈な棍棒の一撃を真上から打ち下ろす。その軌道を読み切り、

ルクトはそのまま後ろに飛び離れ、ひとまず岩巨人と距離を取った。


「しっかりー!!」


無責任なレムリの声援は無視して、ルクトは剣を構え直しひと息つく。


「硬いな。」


かわした攻撃の勢いと一太刀入れた手応えで、相手がそこそこ量れた。


膂力では勝てない。もしもまともに打ち合えば、確実に押し負ける。

本体を構成しているのは、おそらく普通の岩石だ。斬れない事はない。

どうやら、斬られた部位が自動的に修復されるような様子もない。


しかし、細い方の足でさえ一撃では両断できなかった。全く同じ部位を

何度も狙えば斬れるかも知れない。が、おそらくそこまで甘くはない。


加えて、あの棍棒。あれの素材は、本体とは根本的に違っている。

おそらくはジルニウム鉱石から精製した結晶だ。魔力を帯びている。

あれに剣を真っ向からぶつければ、間違いなく刃が欠けるか折れる。


そこまで考えたルクトは、追撃が来ない事にようやく気づいた。

あらためて立ち位置を確認すれば、岩巨人は岩崖を背にしている。

一定の距離まで近づかない限りは、攻撃の対象にはならないらしい。


「…あいつはあんな崖際に立ってるのに、見向きもされないのか。」


すっかり観戦者と化したレムリは、岩巨人のさらに後方の崖際にいる。

洞窟に近づく者を攻撃するならば、まずあの位置の人間を狙うはずだ。


自分は絶対に攻撃されないと言ってたのは、どうやら本当らしいな…。


いよいよ正体も、目的さえも本当に分からなくなってきた。

とにかく、この守護者(ガーディアン)を倒さない事には何も進まない。何とかして…


そう考えたルクトが、地面に穿たれた攻撃の跡にチラッと目を向ける。

と、その刹那。


その抉れ跡にある”何か”を見たルクトの表情が、キッと険しくなった。

やがて視線をあらためて岩巨人の方に向け、腰を低く落として構える。


数秒の沈黙ののち。


ダン!


勢いよく地を蹴り、ルクトは一気に岩巨人目掛けて踏み込んで行った。

しかし相手もその突進タイミングを読んでおり、狙い澄ました一撃が

真上から襲い来る。


激突の瞬間。


ダァン!


直前で突進の軌道をわずかに変えたルクトは、さっき以上にギリギリの

位置でその一撃を回避した。と同時に、左手を剣から離して伸ばす。


ジャララッ!!


伸ばした手から放たれたのは、鈍い金属色を持つ鞭のような鎖だった。

その鎖は岩巨人の棍棒の柄を捉え、ジャラジャラと音を立て巻き付く。

どうやらそれは、ルクトの左手首の篭手から伸びたものらしかった。

次の瞬間。


岩巨人が棍棒をグンと引き戻した事により、鎖で繋がったルクトの体は

勢いよく上に引っ張り上げられる。タイミングを合わせ、自身も跳躍。

彼の体は一気に、岩巨人の頭の遥か上まで跳び上がっていた。


岩巨人が自分の姿を見失った、その一瞬を逃さず。


「セイッ!」


ドスッ!!


真上を取ったルクトが突き下ろした長剣が、岩巨人の背中らしき部位に

深々と突き刺さる。しかし岩巨人はなお動きを止めず、背中のルクトを

振り落とそうと、暴れ牛のように体を激しく回転させた。それに対し、

ルクトはさほど抗わず飛び降りる。刀身の半分以上が刺さった状態の

長剣は、岩巨人の背に墓標のように残されてしまっていた。


丸腰のまま岩巨人の前に降り立ったルクトは、ゆっくりと振り返る。

ダメージを負った様子など全くない岩巨人が、今度こそその重い棍棒を

目の前のルクト目掛けて高らかに振りかざし、そして打ち下ろした。


迫り来る死の一撃を前に、ルクトは動かなかった。


激突の瞬間。


「砕けろ岩人形。」


ポツリと呟いたルクトのひと言が、勝敗を決する合図だった。


================================


ガキィィィィン!!


打ち下ろされた棍棒は軌道を逸れ、あさっての方向へと吹っ飛んだ。

と同時に、岩巨人の体は袈裟懸けのような軌跡で深々と切り裂かれる。

バランスの崩れた巨体は、ルクトの目の前に無様に倒れ込んだ。


「おおぉ!!」


レムリの甲高い歓声を再び無視し、ルクトは自分の足元に転がっていた

長剣を拾い上げた。そして柄の先端の輪から、鎖鞭の先端の輪を外す。

棍棒の柄に巻きつけた鎖鞭はいつの間にか左の篭手から外されており、

岩巨人の背に突き立てた長剣の柄に接続されていた。


ルクトはその状態で飛び降り、あえて自分をもう一度攻撃させた。

それによって、岩巨人自身の膂力でその体を切り裂かせたのだった。


ガクガクと痙攣しながらもなお身を起こそうとする岩巨人の上体から、

どす黒い色の大きな丸い結晶体が露出していた。


ルクトは迷わなかった。


斬!!


横薙ぎ一閃で、結晶体を両断する。

次の瞬間。

動きを止めた岩巨人の体が、やがてガラガラと崩れ落ちていく。

意思を持たない岩塊に戻ったという事実は、その崩壊の音で判った。



最後の一片が、カランと落ちる。



静寂が戻った岩場。


遠くの木々の梢から届く鳥の声だけが、やけに響いていた。

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