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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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舞い降りたもの

「要塞」という名称を持つものの、ガルデンはそれ自体が街である。

ひとつの建物よりも段違いに広く、それゆえ非常に複雑になっている。


いくら200体の魔人が攻めてきたとは言っても、全ての建物や施設を

一気に完全掌握する事など物理的に不可能である。迎え撃つ兵士の数も

少なかった結果、ある意味この街は閑散としてしまっていた。


そんな中をプローノたちはひたすら駆け抜けた。魔人との衝突を避け、

迷路のような路地を抜け、何度も身を潜めながら逃げ続けた。


もちろん、戦況を覆すのは無理だ。それは残酷な現実として存在する。

しかし彼らにとって、この大要塞は慣れ親しんだ住まいでもあった。

どこに迷い込もうと、目指す場所に続く道は決して見失わない。


自分たちの向かうべき所は、決して見失わない。


寡黙な逃亡者となったプローノたちは、ついに隠し門まで辿り着いた。


================================


誰もいなかった。

いや、誰もいなくなっていた。

馬を用意していたはずの兵士たちもまた、この場所を守るための戦いに

赴いたのだろう。見れば、そこかしこに亡骸が転がっている。


それでも馬は留まっていた。この修羅場で健気に乗り手を待っていた。

手前の厩舎に2頭。そして門近くに3頭。全部で5頭。


「足りませんね。」


そう言ったラジュールは、プローノに向き直ると歯を見せて笑った。


「仕方ありません。私が残って脱出を援護します。」

「た、隊長どの!」


さすがに承服しかねたのか、赤毛の若い兵が声を上げた。


「それはいけません!なら私が…」

「どちらを選択しても、厳しいのも大切なのも変わらない。違うか?」

「………!!」


兵たちは言い返せなかった。そしてプローノも、口は挟まなかった。


「なあに、脱出さえ見届けたら私も逃げます。どうにかなります。」

「ラジュール。」

「は。」


「最後まで死は選ぶなよ。」

「了解しました!!」


毅然としたプローノの言葉に対し、ラジュールは敬礼をもって応える。

それ以上、他の兵たちも何も言おうとはしなかった。


隠し門が開かれ、5つの影が一気に走り出る。

素早く内側から門を閉め直したラジュールは、小さくなっていく騎影を

じっと見送って呟く。


「どうぞ、ご無事で。」


その声に、悲壮な響きはなかった。

ただ、成すべき事を成した者だけに許された、満足だけがあった。


================================


もうすぐ夜が明ける。

うっすらと白み始めた空の真下に、煙の立ち上るガルデンが見える。

もちろん、そこかしこから火の手が上がっているせいだ。しかしそれは

街全体を焼き尽くすような規模ではない。燃え広がる気配などもない。


ほんの少しだけ馬を停めてその様を凝視していたプローノたち5人は、

何も言わなかった。ただ黙って唇を噛み締めていた。


ほんの数分。

そして無言の別れを告げていた5人が、再び馬を進めようとした刹那。


「…あれは?」


白み始めた空に、星とは真逆の黒い小さな点が見えた。よくよく見ると

それは少しずつ大きくなっている。

一瞬で、彼らはその正体を悟った。


「追っ手だ!!」


最後尾の兵士が、そう叫んだ瞬間。

黒点がキラッと閃光を放ち、何かが飛来するのが一瞬だけ見えた。


反応する間もなかった。

半月状の小さな刃物が回転しながら飛来し、叫んだ兵士の首を容赦なく

刎ね落とす。首とバランスを失った体は、そのままどさりと落ちた。


「みんな走れ!!」


叫んだのはプローノか、それ以外の誰かか。誰も分からないまま、皆は

一斉に馬を駆けさせる。迫る黒い点から逃れるべく、ひたすらに走る。


しかし、それは虚しい抵抗だった。


立て続けに閃光が走り、後方の兵士2人がほぼ同時に首を刎ねられる。

乗り手を失った1頭の馬はそのまま元来た道を戻っていく。もう1頭は

しばらくプローノたちと並走したものの、やがて脇道に逸れていった。


残ったのは、プローノともう一人の兵士のみ。

振り返る事もせず、2騎はただただ走り続けていた。すでにガルデンは

はるか後方に見えなくなっており、休耕地がただ延々と広がっている。

追っ手からすれば、丸見えだろう。それでもあの攻撃が来ない。


しかし2人とも、背後に迫る死の影の気配はしっかりと感じていた。


それでも駆ける。

それ以外に、何ができるだろうか。


生きる事を託された今の自分たちにできる事は、ただ逃げるのみだ。

行けるところまで。

生きていられる、最後の場所まで。


やがて。


頭上に影が迫り、閃光が走った。


================================


ドン!!


鈍い音が走り、最後の兵の体がぐらりと揺れて落馬した。のみならず、

乗っていた馬も倒れ伏して動かなくなる。腹から鮮血が噴き出ていた。


真上から放たれたあの半月の刃が、兵士の脳天から馬の胴体まで一気に

貫いたらしい。馬が倒れた場所の地面には、細い穴が穿たれていた。


ドン!!

ドオッ!!


間髪を入れず放たれた次の一撃が、プローノの馬の首を刎ね落とした。

一瞬で骸と化した馬が倒れ、乗っていたプローノが前に投げ出される。

それでも彼は体勢を無理やり変え、足から地面に降り立って転がった。


「ぐぅっ!!」


受身を取りながらも全身を襲った激痛に耐え、プローノは立ち上がる。

そして素早く体勢を整え、腰に帯びた剣の柄に手をかけ…


ドン!!


「うぐっ!!」


激痛が手の甲から走り、抜き放とうとした剣が吹き飛ばされる。

撃ち下ろされたのは、鉄球だった。手甲を歪ませた勢いそのままに、

手首の骨を真っ二つに割る一撃。


「いい加減、逃げんのはよそうぜェ大将さんよォ!!」


そんな言葉と共に黒い影-襲撃者である魔人、バルセイユが降り立つ。

少し遅れ、彼の左斜め背後に6体の魔人兵も降りて来た。みな等しく、

ニヤニヤと嬉しそうな笑みをその顔に貼り付けている。


「恥ずかしくねェのかお前よォ?」

「いいや。」


激痛を精神力で押さえ込みながら、プローノはバルセイユを睨み返す。


「それが部下たちの最期の願いであれば、俺はどこまででも逃げる。」

「面白れェなァお前。人間のくせに意地汚いってか、気に入ったぜ。」

「俺は気に入らんな。お前の、その薄汚い顔は。」


「…ま、殺す事に変わりはねェ。」


顔色ひとつ変えずに言い返したプローノに、バルセイユは笑みを消す。

放つ殺気の凄まじさにも、プローノは最期まで怯まなかった。


「んじゃ、可愛いお仲間のところへ行けや。」


================================


トッ。


半月刃の撃ち下ろしとは全く違う、ほんの小さな接地音がひとつ。


誰も気づかなかった。

バルセイユも。

プローノも。

音のした場所のすぐ前で背を向けて並んでいる、手下の魔人兵たちも。


次の瞬間。


ザシュッ!!!


一閃が走った。

どう見ても長過ぎる刃渡りの横薙ぎが、魔人兵たちの上半身を抜けた。


「…は?」

「…え?」

「何…」


まともな断末魔を口にできた者は、ただの一人もいなかった。

まるで積み木を崩したかのように、6人の魔人兵の上体が斜めにずれる。

肩口からの者もいれば、首だけの者もいる。末端の者は顎から上だけが

ズルリとずれて落ちた。一瞬の間を置き、泣き別れになった下の半身が

仲良く並んだままドサリと倒れる。


「…あァ!?」


不愉快そうに顔を向けたバルセイユの、紫色の目に映ったひとつの影。

ナイフに似た小さな刀を腰に戻し、ゆっくりと立ち上がった剣士。


「ナメた真似してくれんじゃァねえか。…誰だお前ェ!?」

「誰でもいいだろ。」


値踏みするかのような、バルセイユの濁り切った視線。



6人を撫で斬った剣士―ルクトは、それを真っ向から睨み返していた。

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