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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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戦場はここにある

膠着状態と呼べるものではない。

しかしそこには、確かに一瞬の間が存在していた。


次の瞬間。


「ラアアァァァッ!!」


裂帛の気合いが入口辺りから響き、そこを塞いでいた数体の魔人たちが

槍で串刺しにされて押しのけられていく。それと同時に、外壁の縁から

何本もの矢が降り注いできていた。


プローノたち目掛けて、ではない。

ニヤニヤと酷薄な笑みを浮かべる、バルセイユを狙った攻撃だった。


「あァん?」


煩わしそうに、飛来した矢を払ったバルセイユが目を逸らした刹那。


「将軍!!!」


場に集った者たちの声が重なった。

そこに、確かな思惟が込められた。


その呼びかけを耳にすると同時に、プローノは駆け出していた。

隙を見せたバルセイユに突撃した…のではなかった。


踵を返し、闘技場の出口を目掛けて一目散に逃げ出したのだった。


「オイオイ!逃げんのか大将ォ!」

「おあぁぁぁぁ!!」


嘲るように言って向き直ったバルセイユに、ゼンダが猛然と突進した。

しかし、バルセイユは彼にまともに視線を向けようとはしなかった。

目視さえかなわない速度で振られた剣が、彼の上半身を切り裂く。


突進の勢いを保ったまま、ゼンダは声もなく絶命した。

バルセイユの傍らに転がった体は、胸の辺りでほぼ千切れていた。


プローノは振り返らなかった。


ゼンダの死も。

これから訪れるであろう、ドリンスたちの死も。

一顧だにせず、彼は逃げた。


「こっちです!!」


出口で待っていたのは、ラジュールほか十数名の兵士たちだった。

かろうじて彼らと合流したプローノは、そのまま共に離脱する。


遠ざかっていく彼らの足音が、闘技場の中にまで響いていた。


================================


「本当に逃げやがったよ、オホ!」


足元に転がるゼンダの亡骸を爪先でつつきながら、バルセイユが煽る。

なおも自分に対し刃を向けている、ドリンスを。


「悲しいねえ、お前ら。こんなにも呆気なく見捨てられるとはよォ。」

「そうか?」


バルセイユの放つ憐れみの言葉に、ドリンスは何気ない口調で答える。


「…ずいぶんと落ち着いてんじゃァねえか。気がふれたか?」

「いいや、今までのいつよりも頭はハッキリしてるよ。」


言いながら、ドリンスは笑った。


「…あいつの一撃で、兜は曲がって被れなくなったからな。」

「あァ?」

「目の前が見えるようになったって言ってるんだよ。」


ドリンスの口調は、どこか誇らしげにさえ聞こえた。


「俺たちの戦場は、ここだ。」


================================


プローノ将軍。


ありがとうございます。

あなたの下で働けた己を誇ります。


最後の最後に。


あなたは逃げてくれた。

私たちを置いて、逃げてくれた。


感謝の言葉もありません。

謝罪の言葉も浮かびません。


私たちを見捨てる事。

この醜悪なる魔人の侮蔑の言葉を、背中に受ける事。


将軍にとってどれほどつらい事か。

愚かな私でも理解しています。


この場で共に戦い、共に果てる事。

武人としての人生を貫いてこられた将軍にとって、それこそが本懐。

愚かな私でも理解しています。


しかしそれを、私たちは望まない。

私たちが今望むのはただ、あなたが生き延びる事。

お伝えした言葉に嘘はありません。


ガルデン大要塞は、あなたと共に。

だからこそ生きてください。


どんなに無様でもかまいません。

誇りなど捨ててもかまいません。

生きて、剣を振るい続けて下さい。

何かを生み出す道を選んで下さい。

誰かのために。


そこに、あなたの戦場があります。


そして。


ここが、私たちの戦場です。

最初で最後の。


胸を張って名乗れます。

私は兵士です。


兵士として今、生きています。


最期の最期まで。



プローノ将軍。

どうかご無事で。



剣を振りかぶったドリンスの目に、最期に映ったもの。

それは、迫り来る死ではなかった。


そのはるか先に見える、プローノの未来だったのかも知れなかった。


================================


ザシュッ!!


狭い路地を駆けるプローノの剣が、出くわした魔人の首を刎ねる。

極限まで研ぎ澄まされたその剣閃をかわせた者は、一人もいなかった。


「馬は?」

「西の隠し門で待機しています。」

「分かった。お前たちも来い。」

「はっ!!」


いつの間にか、付き従う兵士の数はラジュール含め5人になっていた。

しかし、誰もその事に言及しない。


生き残る事を託された以上、余計な感傷など抱いてはいられない。


耳を澄ませば、まだまだ戦いの声はそこかしこから聞こえてきている。

加勢すれば救える命もあるだろう。しかし、それは断じて許されない。


ここに残った兵はわずか268人。

幸か不幸か、大半の者たちは直前に退去していた。おそらく去った者が

追われ襲われる事はないだろう。


残った者たちは覚悟を決めていた。


事実上、国から見捨てられた身だ。

通達されたとおり悠長に兵の数を減らしたりしていれば、もっと被害は

大きくなっていただろう。あるいは女性や子供も犠牲になっていた。


まるで図ったようなタイミングでの襲撃だったものの、残った者たちは

国のためではなく、ガルデンを守る者としての務めを果たすため戦う。

それが、最後の意地でもあった。


司令官として。

彼らの思いを蔑ろにする事は、絶対に許されない裏切りだ。


プローノは、自分が泣いている事にさえ気づいていなかった。

それほどまでに、彼は生き残る事に全神経を集中させていた。



あの時と同じだ。


傷を負って朦朧としながらも、俺は少女を救うために体を動かした。

”生きなければ”という思いだけが、体を衝き動かしていた。


もう一度だけ。

俺は、誰かのために無様に足掻く。


間違ってはいないはずだ。



なあ、ガンダルク。

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