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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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無様に生き延びてこそ

魔人襲来に対する迎撃。

などと形容できていたのは、本当に最初の十数分だけだった。


フライドラグンを駆って飛来した、痩せた黒ずくめの魔人たち。

その数、およそ200体。

単純な兵の数だけで比較すれなら、今のガルデンでさえ上回っている。

しかしそれは、本当に数だけの話に過ぎなかった。

個としての強さが、そもそも違う。兵士が5人がかりで、やっと1体の

魔人と拮抗できるほどの差がある。加えて今のこの状況では、まともな

陣形や連携などは望むべくもない。


それはもはや、最初から結果の見えている蹂躙でしかなかった。


================================


「ぐうぅぅぅ…ッ!」


フルプレートの鎧がギリギリ軋む。

闘技場で戦うドリンスは、自分より背の高い魔人と渾身の鍔迫り合いを

繰り広げていた。しかし必死の彼に対し、相手の魔人はうすら笑いすら

浮かべている。明らかに遊び半分の態度に、ドリンスは唇を噛んだ。


「頑張るねえぇ。だけど、いつまでもつかね?」

「………!!」


もはや事実上、勝敗は決している。ドリンスが力尽きれば終わりだ。

周囲には、絶命した兵の屍が3体。そこには絶望しかなかった。


「さて、んじゃそろそろ殺すぜ。」


可笑しそうな口調でそう言った魔人の目が、すっと細められた瞬間。


ザシュッ!!


見下すような笑みを浮かべたまま、その首は鮮やかに斬り飛ばされた。

とたんに力が抜け、勢い余ったドリンスは危うく転びそうになる。


「しっかりしろ。」


たたらを踏んだドリンスを支えたのは、剣を携えたプローノだった。

どうやら彼が、背後から魔人の首を刎ねたらしい。その事に考え至った

ドリンスが荒い息をつく。


「あ、ありがとうございます…」

「まだ戦えるか?」

「はい。」


即答の言葉に迷いはなかった。

もう、この戦いに未来などはない。遅かれ早かれ、残った者は死ぬ。

残酷なほど明瞭な現実を、ドリンスもプローノも既に受け入れていた。


「最期まで心意気を見せろ。君も、残る事を選んだ者ならな。」

「はい。」

「では行くか。」

「将軍。」

「何だ?」


「あなたは、落ち延びて下さい。」

「…何だと?」


歩き出そうとしていたプローノは、ドリンスの言葉に振り返る。

いつの間にか、彼の傍らに別の兵―ゼンダが立っていた。


「そうです。ここは俺たちに任せ、脱出して下さい。」

「……いくら歳を取ったとは言え、ずいぶんと侮られたものだな。」


苦笑交じりにプローノが呟く。


「私は、このガルデンの司令官だ。私の命はこの大要塞と共にある。」

「知ってます。」

「ああ、そのぐらいの事は俺だって心得てますよ。」


返り血を半身に浴びた凄まじい形相ながら、ゼンダの声は明るかった。


「だからこそ、あなたはここで死ぬべきじゃないと思うんです。」


怒号が無数に飛び交う中で、彼らはポツンと戦いから忘れられていた。


「何故だ?」

「あなたがガルデンと共にあるのなら、逆もまた然りじゃないかと。」

「そうそう。」


嬉しそうに頷いたゼンダが、周囲を見回して続ける。


「もう、俺らはここで終わりです。それは確実だ。…だけどあんたが、

総司令プローノ将軍が生きてれば、ガルデンもまた共にある。たとえ、

たった一人になったとしても。その魂の中に、ガルデンは残ってる。」

「我々は、そう思います。」

「………」


プローノは、血が出るほど強く唇を噛み締めていた。



また逃げろと言うのか。


30年前の、あの日のように。

岩人形に後れを取り、這いずるようにして逃げたあの日のように。


額の傷が疼くのは、決して錯覚などではないだろう。


「…私に、そんな無様な生を選べと言うのか、君たちは。」

「そうですよ。」

「無様で何が悪いんですか。」


また誰かの断末魔の悲鳴が、彼らの耳に小さく届いた。


「戦わざる者は、みな去りました。ここに残る事を選んだ者たちは、

確かに冒険者や勇者には力及ばない兵士かも知れない。…それでも、

我々はここで戦った事を誇ります。誇りと共に最期まで戦います。」

「なら、私は…」

「だからこそ、将軍は無様でもいいから生き延びて下さい。そして、

我らの分までその剣を振るい続けて下さい。それだけが望みです。」


そう語るドリンスとゼンダの顔は、どこまでも晴れやかだった。


================================


ドサドサドサッ!


まるで話の区切りを待っていたかのように、切り刻まれた兵士の骸が

3人の立つすぐ傍らに降ってきた。ハッと向き直ったその視線の先に、

ひときわ大きな影が立っている。


「よおォ、ナニ話し込んでんだァ?俺も混ぜてくれやァ!」


耳障りな声を上げたその影は、外壁の縁から一気に飛び降りてきた。

ドスンという鈍い音と共に着地し、足元のブロックを踏み割る。


猟奇的な黒い革の服で全身を覆う、奇怪な形相の魔人だった。


「ここの将軍ってのはお前かァ?」

「貴様は誰だ。」

「貴様じゃあねえ。バルセイユって呼べよ。殺すぞォ?」


おどけたような仕草を見せつつも、その言葉には圧倒的な殺気がある。

「バルセイユ」と名乗ったその魔人の気配は、あまりにも危険過ぎた。


じりじりと迫るバルセイユに対し、3人は出口に向かって後退する。

しかしそこにも、すでに数体の魔人の姿がチラチラと見えていた。


いつの間にか、周囲の音も少しずつ小さくなってきている。もう既に、

残っている兵士は自分たちだけかも知れない。


ここで終わりか。



ならせめて。

目の前のこいつだけは仕留める。


3人の抱く考えは、奇妙なほど一致していた。



永遠の夜が迫る、ガルデン大要塞。


その闇に抗うように、あちこちから火の手が上がり始めている。



その様は、最期の命を燃やす花火の残り火にも似ていた。

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