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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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落日の大要塞にて

東の門から出立した馬車の一団が、次第に遠く小さくなっていく。

塔の物見台から見送る者たちの顔に落ちる影が、日暮れを告げていた。


「あれがベリッセ隊の一団です。」

「つまり最後という事か。」

「…はい。」


じっと見送る男性―プローノの問いに答えたのはラジュールだった。


ガルデン大要塞の北側にひっそりと立つ、総司令の塔。彼らはそこで、

多くの去り行く者たちの姿をじっと見送っていた。


ルクトたちがアズミヤのギルドで途方に暮れていた、まさに同じ日に。


================================


「それで、何人残った?」

「全隊合わせて、268人です。」

「…案外残ったものだな。」

「そうでしょうか。」


無念そうな口調で言って目を伏せるラジュールに、プローノはかすかな

苦笑を浮かべた。


「ほんの数日前までのわずか3割弱の数です。はっきり申し上げれば、

もはやこんな兵の数ではガルデンの維持は不可能でしょう。要塞とは

名ばかりの、忘れられた街です。」

「確かにはっきり言うね。君らしいのか君らしくないのか。」

「…今ここに至っては、気休めなど無用かと存じます。」

「確かにそうだね。」


答えたプローノの目が、中央の塔に向けられた。


「30年だ。」

「……」

「兵士となって30年、私はずっとこの要塞にいた。剣を振るう他には

何の取り柄もなかった私にとって、ここは人生そのものだったな。」

「それは、終わりを迎えた者の言葉ではありませんか。」

「私はともかく、ガルデンがひとつの終わりを迎えるのは事実だよ。」


プローノの語気は穏やかだった。


「先代魔王ガンダルクの死から百年の間、曲がりなりにも世界は平穏を

保っていた。これほどに肥大化したガルデンがずっと存在し得たのも、

ひとえにその平穏があったからだと言える。兵たちには申し訳ないが、

ここはもうずいぶん前に防衛拠点としての役割は失っているよ。」

「…否定はしません。しかしそれは別に、嘆く事ではないでしょう。」

「ああ、それは確かだ。」


訴えるようなラジュールの言葉に、プローノは大きく頷いて答える。


「私もこの要塞も、役割を放棄したわけではない。むろん君たちもな。

平穏な時代には、平穏な時代なりの在り方というものがある。」

「だからこそ、あんな少年を相手に手も足も出なかったのでしょう。」

「そうかもな。」


ラジュールの声に遺恨の思いなどがこもっていないと察し、プローノは

あらためて嬉しそうに笑う。


「同じ日の事とは未だに信じられんが、彼らが来てくれたのは救いだ。

魔王が再臨した今となっては、もう世界を左右するのはこんな古臭い

要塞などではない。力持つ者たちの自由な意思だろう。」

「だから、この措置ですか。」

「やはり不満かね?」

「いいえ。」


そう即答したラジュールは、初めて笑顔になった。


「彼らがこれからの世界を変えるという考えには、私も同意したい。

そう思える自分を誇りたいとも思います。少なくとも、本心から。」


「それもまた、救いだな。」


================================


ルクトたちに王への進言を約束し、見送った直後。

王都からやって来た使者から聞かされた話は、あまりにも唐突だった。


国内の冒険者ギルドを全て国営化。

正式にジリヌスの冒険者として登録した者を、今後は兵士と同じ待遇で

給金を与えて常駐させる。もちろん国軍は再編され、単騎としての力が

冒険者より劣る兵の数を大幅削減。戦力比を再考していく。

それは、形骸化著しいこの大要塞も例外ではない。大幅に再編成する。


そのための必要措置として、常駐兵の数を今月中に半分に減らせ。

新体制移行のため、速やかに準備を進めていくべし。


再編完了の後には、プローノ将軍ら指揮官は速やかに王都に戻る事。


誰もが言葉を失った。

自分たちのいる場所の存在意義が、根底から覆されたのである。

呪詛の言葉が吐かれるのは、不遜でも何でもない自然な話だった。


誰もが途方に暮れた。

ただ一人、プローノを除いて。


彼は迷わなかった。


通告に対し、彼はたった3日の間に要塞の兵の7割以上を退去させた。

明らかに命令違反でありながらも、反対の声などは上がらなかった。

迷いのない彼の選択に、むしろ誰もが感謝の思いを抱いていた。


これから先の王国は、今まで以上に先行きが見えなくなるだろう。

しかし少なくとも、兵士にとっては生きづらい時代になるのは確実だ。

選ばれた者である冒険者や勇者が、明確に国の戦力に名を連ねるなら。

単騎としての力に劣る兵士たちに、期待する者などいなくなるだろう。


さすがに上がった反対の声を抑え、プローノは全ての兵士たちに給金を

渡した。むしろ、蓄えを一気に放出するかのような開き直りだった。

しかし、誰もそれを狂気や乱心とは捉えなかった。


もはや半端な維持を気にするより、潔く解散してしまえばいい。

それは、ある意味では独断専行の横暴だったのかも知れない。

国王の決定を公然と無視する、身分を弁えない暴挙なのかも知れない。


しかし、狂気も暴挙もお互い様だ。

アステアに対する宣戦布告に等しいこの勅令は、大要塞ガルデン自体を

見捨てるものと言っても間違いではない。そんな指示には従えない。


従えないならどうする?

今から王都まで直訴に行くのか?

おそらく無駄と分かっていて?


兵士たちの未来を背負ったプローノは、そんな道は選ばなかった。

去りたい者を、迷わずに去らせる。そんな当たり前を選んだ。

妻子を持つ者を初めとする、大勢の兵士が別れを告げて去っていった。



夕陽の中を走り去ったあの馬車が、その最後の一台だった。


================================


「…当たり前の話だが。」


そう言ったプローノの視線が、夕闇に沈みつつある西の連峰へと向く。


「あの山は国境の向こう。つまりは魔人国アステアだな。」

「そうですね。」

「…長い間この地に居座り過ぎて、なかば忘れてしまっていたよ。」

「恥ずかしながら、私もです。」


「…今になって、防衛の要衝などという言葉の意味を再確認するとは。

我ながら、本当に生き方そのものが停滞していたのだな。悲しいよ。」

「ですから、それは終わりを迎えた者の言葉でしょう。」


いつになく強い口調で、ラジュールがそう言った。

そこに思惟を感じたプローノが目を向ける。


「お言葉のとおり、このガルデンはもう終わりなのかも知れません。

しかし、あなたまでが終わる必要はないでしょう。違いますか?」

「……それは、君もだろう。」

「否定はしません。」


答えたラジュールの顔に、何となく悔しげな笑みが浮かんだ。


「…あんな若者にしてやられ、反論もできなかった。そんな自分が、

どうにも腹立たしいです。剣の腕の話だけでなく、生き方全てが。」

「気が合うね。」

「恐縮です。」


そんな言葉を交わし、いつしか2人は笑い合っていた。



そうだな。


確かにここで終わるのは不本意だ。

彼らとの約束をまともに果たさず、何ひとつ成さないままで。

ずっと以前から形骸化していた将軍の名など、今さら未練も何もない。

ならば、いっその事…



ピイィィィィィィィィィ!!



そんな物思いは、甲高い警告の音で切り裂かれた。

何年振りに聞いたか思い出せない、全体警報の音だった。


「…敵襲か。」

「どこから!?直ちに確認を…!」

「いや、あれだろう。」


淡々とした口調を崩さず、プローノが指差した連峰の方角。

いくつもの黒い影が、まっすぐこのガルデン大要塞に向かっている。


「迎撃体制をとれえぇ!」


叫ぶラジュールが、プローノに向き直って深々と一礼した。


「失礼します。職務に戻ります。」

「ああ。私もすぐ向かう。」

「はっ!」


そのまま彼は駆け去っていった。

その背を見送ったプローノの目が、もう一度迫る影を見据える。



すまないな、ガンダルク。


今回も、約束は果たせそうにない。

何年経っても、俺は不甲斐ないな。



どうか許してくれ。



そして。


彼女を支えてくれ、ルクト。

こんな私の、畢生の願いだ。



どうか、よろしく頼む。

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