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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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混迷のジリヌス王国

ルクトたちが足を踏み入れた冒険者ギルドは、想像を上回る騒がしさに

満ちていた。押し合いへし合いしている人々のほとんどが、ひと目で

冒険者を生業としているのが判る。どう見ても普通ではなかった。


しかし、ルクトとガンダルクは想定とは逆の意味で首をひねる。

確かに場は騒然としている。しかしそれは別に問題が起こっているから

ではなく、純粋に手続きを求める者が多過ぎるための混雑でしかない。

実際、受付で手続きを済ませた者は文句も言わずに出て行っている。


「…何と言うかこれ、俺たちが情報に乗り遅れてる感じなのか?」

「確かに、訳も分からずに騒いでるような雰囲気じゃないわよね。」

『我々の移動中に、何かあったのだと考えるのが自然でしょうね。』


人にぶつからないよう注意しながら歩きつつ、3人は言葉を交わした。

外の街の状況は混沌としていたものの、冒険者ギルドの中を見てみれば

それなりに今の状況は推測できる。


要するに、国からの一斉通知か何かがあったのだろう。

ガルデンに使者が向かっていたのと同様、冒険者ギルドなどにも通知が

時を置かずして伝えられた。しかし自分たちはここまでの移動にかなり

日数を費やしていたため、現段階で何らかの情報を入手し損ねていた。

そう考えれば、自分たちと周囲との温度差にも一応の説明がつく。


「で、結局何があったってんだ?」

「えーと…あ、告知が出てる。」


依頼の掲示板のすぐ横に設けられた大きなボードに、ひと目で国からの

勅令か何かと分かる仰々しさの紙が貼り出されている。読んでいる者も

まだそれなりに多かった。人ごみを抜けたルクトとガンダルクもまた、

並んでそのボードの前に立つ。


「ええっと何ナニ?」

「ウビ(4月)16日をもって、国内に存在する全ての冒険者ギルドを

完全に国営化する事をここに宣言…する………?」


………………………………………………


「…はあ?」


ガンダルクのあげた声は、間抜けに裏返る。

しかし次の瞬間。


ルクトとガンダルクの表情は、一気に険しいものになっていた。


================================


「正気かこれ?」


うめくようなルクトの言葉は、そのまま2人の動揺を表していた。


冒険者ギルドの国営化。

史上、そんな暴挙に出た国家などはまず存在していない。


そもそも冒険者ギルドとは何か。

その成り立ちは、魔人に怯える人間たちの中で「光の加護」への覚醒が

始まった事が出発点とされる。魔人に比肩し得る力を得た人間たちは、

やがて魔人や魔獣を狩る事を生業とするようになり、世間一般に対して

仕事という認識が広まった。これがいわゆる「冒険者」の始まりだ。


昔は自分で依頼を探して請け負う形が主流だったものの、冒険者自体の

絶対数が増えていくに従い、依頼を管理・斡旋する職業というものが

どの国でも成立するようになった。これがギルドの前身と言える。


しかし、これは民営である事が一種の不文律だった。それはなぜか?

深く考えるまでもない。


魔人を討伐するという行為を仕事として斡旋している以上、そこには

必然的に魔人国アステアとの確執が生じる。しかし歴史を振り返っても

アステアが、つまり魔王が表立って冒険者ギルドを攻撃した事はない。

そもそもアステア自体が閉じた国であり、他国で人間に害をなす魔人の

生死には関与しない…という無言の決まりが存在していたのである。


とは言え、それには確かな保障などないに等しい。

あくまでも過去はそうだったというだけの話であり、個人と民間という

小規模な括りだからこそ成り立つ…という危うさを常にはらんでいた。

今の世界で、魔王がギルドの仕事に対してさほど興味を持たないものと

確信できている人間はただの2人。ルクトとプローノ将軍だけである。

それも先代の魔王、ガンダルクまでの慣習としての認識に過ぎない。


だからこそ、ジリヌス王国の下したこの決定は狂気に近いものがある。

冒険者ギルドを全て国が直轄にするという事は、見方を変えれば完全に

アステアを敵に回す行為に等しい。事実上の宣戦布告だとさえ言える。


さすがのガンダルクも、しばし言葉を失っていた。


================================


呆然としていても話は進まない。


「ちょっとすみません。」


何とか気を取り直したルクトは、目の前を通り過ぎようとした中年の

冒険者に声をかけた。


「何だ?」

「…ちょっと遠出から戻ったばかりなんですが、皆さん今は何を?」

「ああ、話に乗り遅れてたのか。」


何やら察した風のその男性は、少し笑って受付に視線を向ける。


「とんでもねえ通達が来たもんで、俺たちも昨日まで混乱してたんだ。

だけどよくよく聞いてみりゃ、国が給料を出してくれるってんだよ。」

「…給料、ですか。」

「ああ。この国の正式な冒険者って証明さえ取っておけば、定期的に

そこそこいい給料がもらえるようになったんだ。いい話だろ?」

「仕事を請ける請けないに関係なくって事ですよね?」

「そのとおり。俺としては願ったり叶ったりだぜ。…もういいか?」

「ええ、ありがとうございます。」


笑いながら立ち去った男を見送り、ルクトはガンダルクに向き直る。


「…聞いたかよ?」

「ええ。」

「この国に正式に在籍していれば、冒険者ってだけで金がもらえる。

ありがたがる奴は多いんだろうが、本気でアステアと敵対する気か?」

「言ってる事が滅茶苦茶でしょ…」


形容しがたい表情を浮かべたガンダルクが、周囲を見渡して続ける。


「ただでさえこの国は魔人そのものを毛嫌いしてるし、冒険者も勇者も

他国より多い。そんな危ない状態で「魔人討伐は国営です」って政策を

高らかに謳い上げるつもり?」

「引っ越ししようとする奴が多いのは間違いなく、これが原因だな。」

『当然の話でしょうね。この街は、位置的にも国境に近いですから。』

「……」


残酷なほど明快なアミリアスの指摘に、2人は頭を抱えた。



何なんだ、この状況一変は。

自分の追放が通知されていた事実も大概だったのに、今回のこの騒ぎは

そんなどころじゃない。下手すれば国中が騒乱に巻き込まれかねない。


国王はいったい何を考えている?


「と言うか…」


苦々しげにルクトが言った。


「こんな状況じゃ、プローノ将軍が進言しても何の意味もないよな。」

「…まともに取り合ってもらえないのはほぼ確実でしょ。」


どうしてこうなる。

ようやく話が進んだかと思った矢先のこの騒ぎだ。

この国は、どこを目指してるんだ。



なおも続く騒ぎの中に、ルクトたちはぽつんと取り残されていた。

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