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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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プローノ将軍の可能性

「しょ、将軍!ご無…」


おそらく「ご無事でしたか」の言葉を無理やり呑み込んだのだろう。

何とも形容しがたい表情を浮かべたラジュールが、ルクトたち2人と

一緒に階段を下りてきたプローノを出迎える。周りに控えている兵も、

みな一様にホッとしたような表情を浮かべていた。


「すまんな、心配をかけて。」


鷹揚にそう言ったプローノは、2階で足を止めるとラジュールたちを

見回し、あらためて告げる。


「彼らは旧知の者だ。間違っても、ガルデンに害をなす存在ではない。

今の世を鑑み、私にとって少なからず有意義な話を持ってきてくれた。

…思う所はあろうが、ここに至るまでの事は私に免じて流してくれ。」

「承知しました!」

「感謝する。」


直立で答えたラジュールたち兵士に応え、プローノはすぐ背後で待つ

ルクトとガンダルクに向き直った。


「遠路はるばるご苦労だったな。」

「いえいえ。」

「どうかお気になさらず。」

「入口まで送ろう。…みな、持ち場に戻れ。」

「ハッ!!」


号令を受けた兵たちが散っていく。

ただ一人、やっぱり何ともいえない表情のラジュールを残して。


「あのう…」

「ああうん、お前はこのまま、私について来い。心配なんだろ?」

「了解です!」


我が意を得たりと言わんばかりに笑うラジュールに、ルクトたち2人は

顔を見合わせて苦笑する。


「何か、悪い事したな。」

「ま、いいんじゃない?」


いたって軽い口調で答えたガンダルクが、プローノの背に目を向けた。


「それだけ部下に慕われているって事よ。いろんな意味でね。」

「だな。」


「では行こう、2人とも。」

「「はあい。」」


声を揃えるルクトたち2人の顔は、どこか晴れやかだった。


================================


来た時の慎ましやかな門ではなく、あの鈍重な正門からの見送り。

さすがにそれなりに注目されているものの、総司令自らが送る相手と

あっては特に敵視される事もない。堂々と馬に乗り、2人はプローノと

ラジュールに別れを告げた。


「それじゃあ、俺たちはこれで。」

「話した件、よろしくね。」

「ああ、任せておけ。」


笑みを浮かべたプローノが、ドンと胸を叩いてみせる。


「ちょうど近々王都に向かう予定もあったからな。いい機会だよ。」

「にゃはははは、期待してるよ!」


何とも不遜極まるガンダルクの笑い声に、ラジュールの目が泳ぐ。

しかし彼もまた、彼なりにプローノとガンダルクの目に見えない関係を

感じ取っているらしかった。


「では失礼します!」

「お邪魔しましたー!」


そんな言葉を残し、2人は馬に鞭を入れて駆け出す。

もはや振り返る事もなく去って行くその姿を、プローノとラジュールは

じっと見送っていた。


「…変わったのか、変わっていないのか。相変わらず不思議だな…。」

「あの剣士ですか?」

「いや、連れの子の方だよ。」


ラジュールの問いに答え、プローノはそっと空を仰ぎ見る。


また少し、雲が出てきていた。

まるで何か告げるかのような、鈍い灰色の雲が。


================================


「さて、と。」


ガルデン大要塞が遠目にも見えなくなった地点で、2人は馬を停めた。

路肩が休憩所のようになっている場所を見つけ、そこに馬を入れる。


鞍から飛び降りたルクトは、そこで初めて大きな息をついた。

同じくひらりと降りたガンダルクもまた、大きな伸びをする。


「ああ、やれやれ緊張した…。」

「確かにちょっと疲れたね。」

『意外と気を張ってたんですねえ、お二人とも。』


ずっとルクトが懐に入れていた二番刀から、アミリアスがそう告げた。


『いざという時は洞窟に転移できると、お伝えしていたはずですが。』

「いや、まあ疑ってたわけじゃないよ。ただ、あの雰囲気じゃあね。」

「そうそう、うまく行ってただけに緊張したんだよねえ。」


アミリアスに対する2人の返答に、独特の実感が込められる。


アミリアスが自ら二番刀に仕込んでおいた、瞬間転移魔術。

それは彼女の長年の住まいであったあの洞窟に、一瞬で移動する事が

できるという緊急避難用の魔術だ。回数制限があるものの、少なくとも

危険な局面ではすぐに発動できる。魔人を嫌っているこのジリヌス国で

有力者に会おうとする以上、最低限その程度の保険は必要だった。


率直な話、たとえお尋ね者まがいの境遇になっていなかったとしても、

王に会う以上はそれなりの”覚悟”はしなければならなかったのである。

何と言おうと、彼女はアステア国の先代魔王たるあのガンダルクだ。

もはや直接知る人間が絶えていると言っても、名乗った時のリスクなど

簡単には想像できない。とは言え、無用な戦いなども起こしたくない。


最難関とも言えるこのジリヌス国にまず挑んだのは、このアミリアスの

保険あっての事だったのである。


================================


「…とは言え、悪くなかったな。」

「そうね。」


石造りの椅子に並んで座り、ルクトとガンダルクは休憩を入れながら

そんな言葉を交わしていた。


プローノ将軍に会う。

それは確定事項だったものの、実際に何をどう話すかについてはかなり

行き当たりばったりの感があった。それは本人にも正直に言った。


しかし彼は、「ガンダルクが昔から変わらない姿でいる」という事を

実際に知っている数少ない人物だ。それだけに、説明は他の相手よりは

簡単だったと言える。そして年齢の割に、この突拍子もない話をすぐに

受け入れるだけの柔軟さもあった。だからこそ、2人は正直に話した。


魔王という存在を、よく理解しないまま過剰に恐れないで欲しい。

再臨から3年。今に至るまで大規模な侵略なども行ってないのだから、

ただ”魔王がいる”という懸念だけで混乱を広げないで欲しい。


ガンダルクの死から百年という歳月を経た今となっては、そんな事を

実体験として語れる人間はいない。語ったとしても口伝か何かだろう。

しかしそれを言っているのは、他でもない魔王ガンダルク本人である。

その事実を認めさえすれば、忠告の言葉には一気に重みがこもる。


とにもかくにもそれを信じてくれたプローノは、きっと動いてくれる。

話した手応えで言うのなら、それは決して過剰な楽観ではないだろう。

結果がどうなるにせよ、とりあえず目的は果たせたと考えていい。


「…俺たちはとりあえず、何らかの結果が出るまで日銭稼ぎだな。」

「プローノの話じゃ、謁見も近日中らしいからね。この国に留まって、

ちまちまとお仕事してましょ。」

『またディグロー退治ですか?腕が鳴りますねえ。』

「あんたのどこに腕があるのよ。」

「いや、そういう喧嘩は…」


ガラガラガラガラガラッ!!


益体もない事を言い合っていた3人の耳に、不意にけたたましい馬車の

疾走音が飛び込んできた。


ハッと視線を向けると、これから向かおうと考えていた街道の先から

一台の馬車が走ってきていた。そのままルクトたちの休んでいる場所の

傍らを抜けると、まっすぐガルデンに向けて走り去っていく。


一瞬の事だった。


「…ずいぶんと急いでたな。」

「そうね。」

『伝令でしょうね、間違いなく。』

「もしかして、国からか?」


そう呟いたルクトの表情が曇る。

メリフィスの根回しのせいで現在の境遇になった身としては、国からの

お達しというのは不吉な予感にしかなり得ない。


「どうだろうねえ。」


曖昧に答えたガンダルクは、やがて小さく肩をすくめた。


「ま、あたしたちがどうこうできる話じゃない。それは確かよ。」

「…そうだよな。」


確かにそのとおりだった。

自分たちは自分たちにできる事だけを見据える。今はそれだけだ。


それでもなお、ルクトの表情には影が落ちていた。



厄介な事にならなきゃいいけどな。

心の中で呟き、そっと空を仰ぐ。



ますます雲は厚くなっていた。

まるで彼の心の不安を、丸ごと空に貼り付けたかのように。

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