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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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ルクトたちの要望

「こんなもんなの?」


一瞬でついた決着に、ガンダルクが不満そうな口調で言い放つ。

剣を引いたルクトは、あえてそれに対し何も言わなかった。


「腕が立つ相手って条件で名乗り出て、十秒も持たないって何なのよ。

卑怯だの何だのと文句を言う前に、根本的な腕がからっきしじゃん。」

「………ッ!!」


明らかな侮蔑を含んだその言葉に、身を起こしたゼンダも周りの兵も

隠し切れない怒りの色をそれぞれの顔に浮かべる。しかしそんな彼らを

ガンダルクはなおも煽った。


「何その顔。さっきも言ったけど、言いたい事ははっきり口にしな。」

「お前が言うなよ!」


腹に据えかねたのか、痩せた黒髪の男が食ってかかった。


「そっちの男に言われるのは仕方がない。それは確かに認める!だが、

お前にそんな偉そうな事を言われる筋合いはないんだよ!それを…」

「何で俺が言うのはいいんだよ。」


黒髪男の声を遮るルクトの語調に、かすかな怒りが混じる。

その言外の気迫に、気圧された黒髪男はぐっと黙り込んだ。


「ゼンダさん、でしたっけ?」


ようやく立ち上がったゼンダにそう声をかけたルクトは、周囲の兵に

あらためて視線を向ける。


「あなたが代表に名乗り出たという事は、ここの人たちは少なくとも

実力的にはあなたと同等かそれ以下なんでしょうね。」

「…ああ、そうだな。」


蹴られたこめかみを押さえながら、ゼンダが低い声でそう答えた。

小さく頷いたルクトは、ちらりとガンダルクを一瞥して続ける。


「だったら、これ以上あれやこれやと文句を言うのは控えて下さい。

あなた方にはただの下僕か何かに見えてるんでしょうが、少なくとも

こいつはあなた方よりも強い。それは間違いない事実なんですから。」

「………」


反論の言葉はなかった。

兵たちの顔に、納得の表情が浮かんだわけでもない。それには程遠い。

しかし彼らは同時に、ルクトの言葉に否応のない説得力を感じていた。


嘘だと言い返すのは簡単だ。

じゃあ証明して見せろと迫る選択肢も、さっきまでは大いにあり得た。

しかし、今はもう難しい。

ドリンスとゼンダをあっという間に倒したルクト。彼の放つ言葉には、

有無を言わさない真実味がある。

もしもここで誰かが、あの生意気な女に挑んだらどうなるだろうか。


おそらく、結果は明白だ。

どんな方法なのかは想像もできないが、きっと女は一瞬で勝ちを得る。

いや、ルクトの言葉だけではない。彼女自身の超然とした態度を見ても

それはあまりにも明白だ。安っぽいハッタリなど、今は無意味だから。


張り詰めていた場の空気は、終息に向かいつつあった。


================================


「カル君、だったか。」


しばしの沈黙ののち。


じっと事の成り行きを見守っていた指導官のラジュールが、ルクトに

声をかけた。長剣を背負い直そうとしていたルクトが、その問いかけに

ゆっくりと顔を向けて応える。


「はい。」

「そもそも君たちは、何をしにこのガルデンへ来たんだ?」

「……」

「ここの兵になるつもりではない。それくらい、俺でも判るよ。」


すぐにはルクトが答えないのを見越したように、ラジュールは続ける。


「俺は、そっち方面の事情にはそれほど明るくない。だが、少なくとも

君が勇者…あるいは冒険者としての経験をかなり積んでいる事くらいは

容易に想像できる。そうでなければあんな戦い方はできないだろう。」

「お、ご明察。」


なおも黙っているルクトに代わり、傍らのガンダルクがそう言った。

特に隠そうとしない彼女のその言葉に、ラジュールは苦笑を浮かべる。


「あっさり認めるんだね。」

「無駄な嘘は嫌いなもんで。」

「…君も認めるんだな?カル君。」

「ええ。」


頷いたルクトに、じっと聞いていた兵たちは顔を見合わせる。

ようやく彼らの顔に、ある種の納得のような表情が浮かび始めていた。

なるほど勇者か冒険者なのかと。


と、その直後。

淡々と2人に問いかけていたラジュールが、不意に表情を険しくした。


「なら早く目的を明確にしてくれ。君たちが強い事は十分理解したが、

最初から、ここで兵役に就く気のない者の相手をするのは不本意だ。」


「それに関してはお詫びします。」


素直に言って頭を下げたルクトに、ラジュールの表情が少し和らぐ。

しかし、目は笑っていなかった。


「それで、何の用だったのかね?」

「総司令にお会いしたいんです。」

「は?」


顔を上げたルクトが放った言葉に、ラジュールはポカンとした。


「総司令…プローノ将軍か?」

「まさにそのプローノ将軍!」


我が意を得たりといった嬉しそうな口調で、ガンダルクが言い放つ。


それを聞いていた周囲の兵たちも、ほぼ全員がポカンとしていた。


================================


「そのために、こんな事を?」

「とりあえず中に入れてもらうためには、それが確実だったので。」

「何と…」


呆れ果てたかのような表情と声で、ラジュールはしばし呻いていた。


「変な事をして申し訳ない。」


口調を少しあらためたガンダルクの目が、兵たちに向けられる。


「だけど、これが全くの無駄だった…とは思わないで欲しいんですよ。

カルは確かに実戦を積んでいます。彼との力量の差と言うべきものを、

ここでの兵役に就くための糧として刻んで欲しい。それは本音です。」

「確かに、耳の痛い話だな。」


あらためて苦笑したラジュールが、吹っ切れたように大きく頷く。


「…分かった。将軍に取り次ごう。ただし。」

「ただし?」


「最後に俺と戦ってくれ。それで、俺なりに君を見極める。」

「分かりました。よろしく。」


即答したルクトが、小さく笑う。



この闘技場に足を踏み入れてから、彼が初めて見せた笑顔だった。

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