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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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戦場はどこにある

苦労して兜を脱がせたドリンスは、傷はないものの白目を剥いていた。

数人の訓練兵が協力して担ぎ上げ、そのまま更衣室と思しきスペースへ

運んでいく。医療担当らしい者の姿も、遠目に見えていた。


ドリンスと彼らの姿が遠ざかると共に、場にいる人間たちの視線が再び

ルクトに向けられる。皆、おおよそ非難に満ちた表情を浮かべていた。


「おいお前!」


そんな尖った声を張り上げたのは、ひときわ大柄な赤毛の男だった。

自分より背の低いルクトを睥睨し、敵意に満ちた言葉を投げかける。


「今のアレは何だよ。暗器か!?」

「いや、ただの仕込み武器です。」

「剣の腕を見るための模擬戦だってのに、そんなもんいきなり使う奴が

信用できるかよ!卑怯だと思わないのか!!」

「…信用に、卑怯…ですか。」

「剣を持つ者として、恥を知れ!」

「そうだ!」

「卑怯だぞ!」

「大体あれじゃ、ドリンスに勝ったなんて言えないだろうが!」

「何とか言え!」


赤毛の男の言葉に勢いづいたのか、周囲の訓練兵たちがルクトに対して

遠慮ない罵声を投げ始める。しかし当のルクトも傍らのガンダルクも、

特に何も言わずに聞き流していた。歯牙にもかけていない2人の態度に

いつしか罵声は小さくなり、兵たちは気まずそうに黙り込む。


しばしの沈黙ののち。


「あ、終わった?」


雑談が終わるのを待っていたような気軽さで、ガンダルクがそう呟く。

そして誰も何も言えない中、成り行きを見守っていたラジュールの方に

向き直り、これまた何気ない口調で問いかける。


「んで、もうちょっと手応えのある相手ってのはいないんですか?」

「いや…」

「鎖鞭が気に入らないって言うなら謝ります。次からは使いません。」


ガンダルクの傍らでそう言ったルクトは、周囲をざっと見回した。

そして自分たち2人に注がれている視線を見返し、淡々と告げる。


「…どうやら、ここは戦場ではないようですので。」


================================


その言葉を耳にした、訓練兵たちの反応はそれぞれ違っていた。

憤りをあらわにした者。

気まずそうに下を向いた者。

何かに思い至った者。

ラジュールも、何も言わなかった。


ここは戦場ではない。


ルクトの発した言葉をどう受け取るかは、本当に人それぞれだった。


ただの事実だとも言える。

アステアに魔王が現れたとは言え、現在は非戦闘時なのだから。


あるいはこの状況そのものを、ごく端的に表現したとも言える。

今の自分たちが行っているのは訓練であり、戦闘ではないのだから。


さらに言えば、このガルデン大要塞そのものの在りようとも言える。

今となってはこの地は、防衛の要衝として形骸化しつつあるのだから。


どれも、言われればそれなりに納得できる解釈には違いない。

いずれにしても、今この場で声高に反論する者はいないだろう。

しかし。

形だけの剣を振るう事なくドリンスを倒したルクトが、それを言えば。

言葉に含まれた意味は、容赦なく兵たちの心に突き刺さる。


鎖鞭が気に入らないなら謝る。

そして、次からはもう使わない。


戦場で相対する敵に、気に入らないと言えば取り下げてくれるのか。

次というものが、必ずしも戦う者に訪れるのだろうか。


様々な思いから、訓練兵たちは黙り込んでしまっていた。


================================


「……分かった。」


長く重い沈黙を破ったのは、ルクトを怒鳴った赤毛の男だった。


「俺が相手になろう。いいですよねラジュール教官?」

「ああ、許可しようゼンダ。」


彼の顔を見据えたラジュールの言葉と共に、訓練用の剣が渡される。

しかし赤毛の男―ゼンダは、それをすぐには受け取ろうとしなかった。

代わりに、あらためてルクトの方に目を向けて問いかける。


「おい。」

「はい?」

「真剣でやるか?」

「やるわけないでしょうが。」


むしろ苦笑を浮かべながら、ルクトはそう即答した。


「戦場でもないのに、そんな無駄な危険を冒してどうするんです。」

「…そうだな、違いねえ。」


毒気を抜かれたゼンダも、同じように苦笑を返した。


今度はさっきと違う。ルクトの言う「戦場でもない」の意味は明白だ。

経緯がどうであれ、こんな場で真剣を使うのは愚の骨頂。それ以外には

何の他意もない。皆がそう捉えた。


「じゃあ、今度はこの剣を使わせてもらいます。よろしく。」

「よし。」


頷いたゼンダが剣を取り、ルクトと向き合って構える。今度はルクトも

剣を水平に構えて対峙した。体躯は、ひと回りほども違っている。


「いつでもどうぞ。」


「よろしい。…では始め!!」


「しゃあっ!!」


掛け声と共に、ゼンダは裂帛の気合を乗せた横薙ぎ一閃を放った。

伏せようが跳ぼうが交わせない軌道で、しかも速く重い。体躯から見て

剣で受ければ確実に膂力で負ける。そんな必殺の一撃だった。


刹那。


ガァン!!


「ぐオッ!?」


鈍い激突音が響き、ゼンダが苦痛に顔を歪ませる。

衝突の寸前に、ルクトは一瞬で剣を回して思い切り地面に突き立てた。

そこへ襲い来たゼンダの一撃は、まるで鉄の杭を打ち据えたかのような

衝撃を彼の腕に伝えたのである。いくら体重差があろうと、固定された

剣を打っても相手を吹き飛ばす事は出来ない。衝撃が戻るだけだった。


次の瞬間。

突き立てた剣の柄尻を押さえていたルクトは、そのままの体勢で一気に

跳び上がった。突き立てたままの剣を高飛びの棒のように使う事により

高さを稼ぎ、その身を虚空へと跳ね上げる。背丈のハンデを追い越して

余りあるほどの跳躍だった。


ドガッ!!


ゼンダは目を向ける間もなかった。

剣を戻す前の体勢のまま、側頭部に強烈な蹴りを叩き込まれて転がる。

きれいな半円軌道を描いて着地したルクトは、握ったままだった剣を

素早く引き抜いてぐるりと一回転させた。ぴたりと止めた切っ先は、

狙いたがわず倒れたゼンダの首筋に当てられている。


どうにか昏倒せずに持ち応えていたゼンダも、さすがに動けなかった。


わずか3秒にも満たない決着。



場を満たしていたのは、やはり今回も死のような静寂だった。

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