ガルデン大要塞へ
国境線に沿って、北へ北へと進む。
途中に位置しているウズロの街は、あえて素通りした。
「依頼の達成はちゃんとこちらにも伝わるので、寄らなくていい」と、
助言をくれたトッピナーにしつこく念を押されていたからだった。
フリーライセンスを入手できたとは言っても、自分がおたずね者に近い
境遇になっているのは事実らしい。なら、トッピナーは信じるべきだ。
彼女の厚意に感謝しつつ、ルクトはガンダルクと共にひたすら北上の
道を辿って馬を走らせる。
目指すは国境防衛の要衝と言われる大要塞・ガルデンだった。
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「…とは言え、確認は必要だよな。特にこんな境遇では。」
「そうよねー。」
『確かに、ぶっつけ本番で臨むにはちょっと危険な場所ですからね。』
2日目の午後。
途中の街・ルズロに到着した3人の見解は、あっさりと一致していた。
最初の街でトッピナーが声をかけてくれたのは、今となってはかなりの
悪運だったと言うしかない。ならば今後の行動は、そんな悪運を無駄に
しないよう、ちゃんと確かめながら選択する必要がある。
というわけで、冒険者ギルドへ。
「ここは一度も来た事なかったな。もちろん知り合いもいない。」
「まだ顔は割れてない…って考えて大丈夫なのよね?」
「たぶん。」
そんな言葉を交わしながら、ウズロよりは人の少ないギルドのロビーを
できるだけ目立たないように歩く。まず目指したのは手配書の掲示板。
おそるおそる確認してみたものの、ルクトの手配書は見当たらない。
「…まあ、そりゃそうだよな。」
と言いつつ、ルクトはホッと大きな安堵の息をついた。
「反魔人の感情が強いと言っても、別に罪を犯したわけじゃないんだ。
いくら何でも手配まではされない、と考えていいんだろうな。」
『でしょうね。それこそ、罪を犯したりしない限り大丈夫では?』
「まあ、だったらもうあんまりビクビクしない方がいいって事よ!」
雑にまとめたガンダルクが笑う。
「よっしゃ、じゃあ受注!!」
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しばらく経った頃。
ギルドの建物を後にしたルクトたち2人は、揃って大きく伸びをした。
「いやあ、あっさり行けたね。」
「ああ。そんなに心配するほどの事もなかったな。」
そう言ったルクトの手には、受注を済ませた案件書が握られていた。
カウギ村の役場で発行してもらった「カル・タクト」としての認定証。
これがちゃんと使えるのかを、実際に依頼を受ける事で確かめておく。
今回の冒険者ギルド来訪は、それが目的だったのである。
結果的に言えば、拍子抜けするほどすんなり受注申請は通った。
考えてみれば冒険者登録をしている人間は、国内だけでも相当な数だ。
よっぽど目立つ事を言わない限り、あれこれ詮索される道理はない。
受けた依頼が地味だったのも含め、受付もさほど興味を持たなかった。
つまりはそういう事なのだろう。
「ともあれ、これで日銭を稼ぐのは問題ないと分かったんだ。」
言いながら、ルクトは案件書を握る手を掲げる。
「ガルデンまではあと少しだから、まずはこれを片付けてしまおう。」
「そうね。」
『もはや、慣れた案件ですね。』
アミリアスの言葉に、ルクトたちはちょっと苦笑を浮かべる。
請け負った内容は前回とほぼ同じ。ディグローの掃討依頼だった。
「…正直、あんなにあっさり見つけられるとは思わなかったな。」
馬を繋いでいる場所へ歩きながら、ルクトが実感のこもった声で言う。
「メリフィスは難度が高めの案件を狙って取っていたから、ほとんどが
そこそこ名の知れた魔人討伐だったんだよな。だから俺も、こういった
地味な案件にはあんまり目を向けてなかった。」
「ま、勇者パーティーあるあるって感じでしょうね。」
頷いたガンダルクが、ギルドの建物を振り返って続ける。
「…あたしも大概にあっちこっちのギルドを見て回ったけど、そういう
魔獣関連の依頼は長い間放置される事が多い。人気ないんだろうね。」
「ぶっちゃけ安いもんなあ。」
『あんまり気が進みませんか?』
「いいや。」
即答したルクトの声に、迷いの響きは一切なかった。
「追放されて清々してるんだ。今はこういうので十分って思ってる。」
「いいねえ。じゃあさっさと終わらせて、次を目指そう!」
「応よ。」
言葉を交わした2人は、馬に跨って駆け出す。
今日中に片付ける気、満々だった。
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二番刀を地面に突き刺し、誘引魔術を流し込む事で地中のディグローを
集める。そして、一気呵成に倒す。カウギ村での掃討の際に編み出した
一種の「必勝パターン」である。
今回もこれを使い、夜行性のはずのディグローを日暮れ前に殲滅した。
もちろん母体の場所もアミリアスが探り出し、串刺しで仕留めた。
「も、もう終わったんですか!?」
散々悩まされていたらしい村の代表は、依頼達成の報に目を丸くした。
無理もない。夕方に到着してから、いくらも経っていないわけだから。
しかし、結果はすべてを物語る。
並べられたディグローの骸を前に、村人たちは歓声をあげた。
もちろん報酬はその場で渡された。礼を述べたルクトたちは、そのまま
村を後にした。引き止める声もあったものの、長居はしなかった。
あっという間のお仕事終了。
「チョロいねえ。」
笑いながら馬を駆るガンダルクの声には、実感がこもっていた。
「そうだな。相手がディグローとは言え、さすがにここまで楽なのは
ちょっと記憶にない。」
「小銭が土から生えてくる感じ?」
「そこまで言うかよ。」
『ホラホラルクトさん、もっと背筋を伸ばして!体勢が崩れてます!』
「ああーハイハイ。」
一挙手一投足を指摘するアミリアスに対し、ルクトは素直に応える。
思いもかけない逆風が入国と同時に吹いたものの、結果だけ見てみれば
そんなに悪くない。むしろ今後は、ディグロー退治は絶好の小銭稼ぎに
できるかも知れない。
ささくれていた気持ちは遠くなり、馬を駆るその足取りも軽い。
やがて。
「お、見えてきたな。」
向かう先を見やったルクトが、そう言って馬を停める。ガンダルクも、
それに倣って彼の隣に並んだ。
曇天の下に見えている灰色の街は、まぎれもない要塞ガルデンだった。
「まあ、とりあえずは予定通り事を運ぶ。後は…大丈夫だよな?」
「保障はできないけど、まあそこは出たとこ勝負って事で。ね?」
「ああ。」
今回こそは少しでも結果を出す。
そんな意思をあらためて胸に抱き、2人はガルデンを見つめていた。




