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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
29/703

強さではない強さ

「ずいぶん断言するんだな。」


ルクトの言葉に、怒りや疑念の響きは感じられなかった。


「…やっぱり、持って生まれた才能とかが根本的に違うのか?」

「そうじゃないよ。」


可能性を否定された事に対してではなく、純粋な疑問としての問い。

それを感じ取ったらしいガンダルクもまた、あえて淡々と答える。


「別にあんただから無理だって言うわけじゃないのよ。極論するなら、

あたし以外の誰にも出来ないだろうって話。これは、ただの事実よ。」

「……可能なら、納得できるように説明してくれるか?」

「もちろん。」


即答したガンダルクがニッと笑う。


「あたしはあんたの自由な戦い方、けっこう好きだからね。」


================================


「前にも言ったと思うけど。」


そんな前置きを述べ、ガンダルクは自分の胸元をポンと叩いた。


「転生したあたしのこの体は、何年経とうと一切変化をしない。成長も

老化も進まないし、いくら鍛えても筋肉は増えない。力もそのまま。」

「…つまり、最初からアミリアスがそう設定してたのか?」

『そうです。ガンダルクの本体から引き継げたほんのわずかな魔力を、

肉体の不変的な維持という形で定着させました。』

「まったく、余計な事をしてくれたもんだよ。別にもういいけどさ。」


軽く首を振ったガンダルクの目が、あらためてルクトに向けられる。


「それがどういう事か、分かる?」

「どんなに切望しても努力しても、今以上に強くなれないって事か?」

「そのとおり。」


話しながら当時を思い出したのか、語る目が少し遠くなった。


「言っちゃ何だけど、昔のあたしはとことん強かった。それがいきなり

こんな姿になって、しかも鍛える事すらできないんだからね。…正直、

最初の数年間はかなり荒れてたよ。死にたいとも何度も思った。」

「よく思い留まったもんだな。」

「…まあ、そこは色々とね。」


言葉を濁したガンダルクの口調が、そこで少し変わった。


「だけど何年か経って、気づいた事があった。本当に些細な事にね。」

「何だ?」

「あんたの言ってた、平衡感覚よ。細い道なんかを歩いたりする時に、

以前よりもずっと簡単にバランスが保てるようになってた。決して、

道に慣れたからじゃない。明らかにあたし自身の感覚が変わってた。」

「…それは、変化じゃないのか。」

「違う。何度も言うけど、この体は絶対に変化しない。身体能力自体は

完全な据え置きのまま、感覚だけが研ぎ澄まされていたのよ。」

「どういう意味…」


なお問いかけようとしたルクトが、そこでハッと何かに思い当たる。

表情の変化でそれを察したガンダルクは、じっと彼の顔を見据えた。


「そろそろ分かったでしょ。」

「ああ、およそ察しがついたよ。」


そう答えたルクトが、呆れたような表情で小さく首を横に振った。


「…そりゃ、俺には絶対に無理だ。他の誰にも真似なんて出来ない。」

「やっぱり察しがいいね。」


嬉しそうに笑ったガンダルクの顔を見ながら、ルクトもまた笑った。

笑わずにはいられないという態で。


================================

================================


なるほどな。

そういう事かよ。


決して変化しない肉体。

そして百年という永い年月。


ヒントはいくつもあったんだ。

気づいてみれば、呆気ないほど簡単な話だった。


人間だろうが魔人だろうが、そして俺みたいな人魔だろうが。

生きている限り、肉体というものは絶え間なく変化を繰り返していく。


幼ければ成長し。

年を経れば老い。

怠ければ肥え太り。

そして、鍛えれば強くなる。

誰にとっても当たり前の話だ。


そして俺たちは、そんな当たり前に疑問など持たずに生きている。

絶えず変化し続ける肉体に、自分の感覚を絶えず合わせて生きている。

肉体の能力に、感覚を合わせる。

それは生きていく上で、果てしなく当たり前かつ無意識の作業だろう。


しかしそれは同時に、積んで崩すを果てしなく繰り返す不毛な行為だ。


鍛えて強くなれば、それだけ出せる力も増す。踏み込みも速くなる。

だったら当然、自身の感覚もそれに合わせて変化させる必要がある。

それをしなければ、たちまち感覚と実際の動きが致命的にズレてくる。

強くなろうが衰えようが、それは絶対に必要な事だ。


しかし、体というものは常に変化を続けている。

昨日の自分さえ、経験次第では全く過去のものとなっているだろう。

当然、変化に応じて感覚を合わせる必要が生じてくる。

そして言うまでもなく、それは死ぬまで延々と繰り返される。

つまり。

誰であろうと、自分の肉体に完全に慣れる日は絶対に来ないって事だ。


ようやく、ガンダルクの言った意味がはっきり分かった。


彼女の体は、決して変化をしない。強くなる事も、衰える事もない。

それが意味するのは何か。

簡単だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だろう。


そのまま百年だ。はっきり言って、俺には想像すら出来ない領域だ。

たかが非力な少女の体であろうと、極め尽くせばその動きは入神の域に

達するだろう。たかだか18年しか生きていない俺なんかに、まともに

捉えられると考える方がおかしい。


積み重ねが違い過ぎる。


ああ、やっと分かったよ。


================================


「あたしには、アミリアスの岩人形もディグロー1匹さえも倒せない。

現実は、どこまでも変わらない。」


そう語るガンダルクの口調に、無念や憤りの響きは感じられなかった。


「だけど、そんなあたしだからこそ成せた事がある。それはルクト、

あんたがさっき体験したとおりよ。あんたは岩人形もディグローも

たやすく斬り伏せたけど、あたしを捉える事だけは決してできない。」

「ああ、そうだろうな。身に沁みて理解した。」


同じく悔しさなどを微塵も見せないルクトに、ガンダルクは笑う。


「出力が高けりゃ強いというのは、確かに間違いじゃない。…だけど、

それはどこまでも底が浅いマヌケの理論なのよ。」

『まさに昔のガンダルクですね。』

「そうそうそのとおり。あたしの…ってウルサイっての!」


アミリアスの毒舌にツッコミを入れつつ、ガンダルクはルクトに対して

笑顔のまま告げる。


「あたしのこの不条理に納得できる度量を持っているなら、あんたには

やっぱりまだまだ伸び代があるよ。あたしみたいにとは行かなくても、

今までと違う部分はきっと伸ばしていける。それは保障するから。」

「…お前の域に、近づけるか?」

「それはあんた次第。」


そう答えたガンダルクの手が、岩に立てかけられた二番刀に触れる。


「正直、あたしには教えられない。だけどアミリアスの助言があれば、

動きを効果的に変えていく事は可能だよ。…うるさいだろうけどね。」

『うるさいは余計ですよー。』

「ああ、あれか…」


苦笑したルクトが、チラと二番刀に目を向けて続ける。


「じっくり腰を据えてやれば、あれで効果が出るって言うんだな?」

「そう。あたしの動きから感覚を、アミリアスから理論を得る感じ。」

「だったらこの際だ、うるさいのは我慢するよ。やってやるさ。」

「そう来なくっちゃね。」

『うるさいは余計ですってば!!』


そんなアミリアスの訴えを、2人は笑って受け流した。


「さっきも言ったけれど、あんたは剣士にしては珍しく動きも考え方も

自由だからね。こういうのには割と向いてる。それは間違いない。」

「自由、ね。」


噛みしめるように繰り返したルクトの顔に、あらためて笑みが浮かぶ。


「今となっては、この上ないほどの褒め言葉だな。光栄だよ。」

「にゃはははは、染まってきたね、ますますあたし好みに!!」

「言ってろ!!」


高らかに笑い合う2人を、すっかり高くなった太陽が明るく照らす。


暖かな午後だった。

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