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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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決着の時に

「…気配が変わったな。」


戦いが始まった時から、どのくらい経った頃だろうか。

ひと息ついたルクトが、そう呟いてざっと周囲を見渡した。

いたる所に彼が倒したディグローの骸が転がっている。何とも凄惨な

光景が広がる中、先ほどまでの緊迫した空気が弛緩し始めていた。


『どうやら、残っているディグローは逃げに転じていますね。』

「やっぱりそうか。」


ルクトと二番刀はかなり離れた地点にいるものの、周囲が静かなので

話す声も鮮明に聞こえる。つい数刻前は考えられなかった静寂だった。


「地上に出る前に先読みで殺されると分かれば、そりゃ逃げるでしょ。

いくら魔獣って言っても、獣の本能なんてそんなもんよ。」


二番刀の柄に軽く手をかけながら、ガンダルクがそう呟く。


「だけど、どうする?」

「まずいよな。」

『そうですねえ…』


そう。

これはこれで、ルクトたちには実にまずい状況だった。


================================


集団で活動するディグローに対し、掃討依頼も原則的に団体で受ける。

今回の案件は事実上、ルクト単独で受けた事になる。もちろんこれは、

彼自身の力量がそれに足るものだという確信があっての事だった。


ディグローは自分たちのテリトリーを侵す相手には容赦をしないため、

委細かまわずに襲い掛かってくる。逆に考えれば、そこにいるだけで

相手が自ら倒されに来てくれるとも言えるのである。確実に迎撃できる

人間であれば、たとえ一人だったとしても十分に事足りる。


実際、ルクトたち3人はその方針でこの畑のディグローを殲滅しようと

考えていた。しかし、いざ始まってみれば、予定外な事の連続だった。

やはり決定的に場の流れが変わったのは、アミリアスの感知魔術により

地中にいる個体を、先手を取って倒せるようになってからだ。

実に便利だと多用したのが、どうもいけなかったらしい。考えてみれば

相手は地中にいる。外に出た仲間がどうなったかよりも、地中の仲間が

どうなったかの方が感知しやすいのだろう。至極当然の話だ。


それほどまでに危険な相手ならば、もはや逃げた方がいい。おそらく、

そんな判断でこの場から撤退しようとしている。ほぼ確実な話だ。


「…だけど、それじゃ困るぞ。」


今さらながら、ルクトが困惑しきりな顔と口調で告げる。


「いくら数を減らしたと言っても、殲滅できなきゃ意味がないだろ。

かと言って、俺一人じゃ残りの奴は追い切れない。」

「困ったわね、ホントに。」

「ちなみに、母体はどこだ?」

『それは捕捉しています。この畑の地中深くに潜んでいますよ。』

「…そうか。」


母体がまだ捕捉できているのなら、まだ望みはある。それを倒せれば、

これ以上の個体数の増加は食い止められるだろう。

しかし、逃がした個体による今後の被害までは食い止められない。


ハッキリ言って、依頼の達成という意味では明らかな片手落ちになる。


「何とかならないかアミリアス?」

『ええ、なりますよ。』

「え?」

「なるの?」


あまりに呆気ない即答に、ルクトもガンダルクもきょとんとした。


『この状態なら、方法はあります。まあお任せ下さい。』


その口調は、ハイテンションな自信に満ち溢れていた。


================================


「どうする気だ?」

『集めます。』

「え?集めるって、ディグローを?…どこにどうやってよ。」

『竜の谷で仕掛けた誘引の魔術を、刀身から地面に注入しました。』

「しましたって、つまり…」


ボコボコボコッ!!


説明が終わるより先に、地中を掘る盛り上がりが四方八方から一気に

二番刀の方へと一転集中で伸びた。離れた場所に立っていたルクトを

完全に素通りし、ひとつ残らずガンダルクと二番刀の元へ殺到する。


「おい、ちょっと待て!!」

『ルクトさぁん、この場に集まってきますから、後はよろしく!』

「ちょいちょい!あたしはどうなるのよ!?そんな一編に来られたら、

さすがに逃げ切れないっての!!」

『ああ、はいはい。』


慌てたガンダルクの訴えに、アミリアスは気軽な口調で応えた。


『それじゃあ、しっかりと掴まって下さいね。』

「あんたに?」

『そうです。ほら早く。』


もはやディグローの接近は目の前。迷う暇などない。

ガンダルクは、とにかく二番刀の柄をしっかりと両手で握り締めた。


『では、上に逃げまぁーす!!』

「…は?」


次の瞬間。


ギュゥン!!


「んあっ!?」


まるでロケット発射の如き勢いで、二番刀の刀身が一気に上に伸びた。

柄を掴んでいたガンダルクの体も、それと一緒に上空へと運ばれる。


ほぼ同時に3体のディグローが地中から飛び出す。示し合わせたように

振りかぶった鋭い爪が、数秒前までガンダルクが立っていた場所へと

我先に襲い来る。


しかしそこにあったのは、二番刀の鋭い刀身だけ。

結果は火を見るより明らかだった。


ザシュッ!!!


「グアァァァァァァ!!」


己のつけた勢いのまま二番刀に腕を裂かれ、3体のディグローが同時に

すさまじい悲鳴を上げる。続いて現れた個体も、刀身を登ろうとして

その体を容赦なく切り裂かれた。


「うわぁ…地獄絵図。」

『獣は知恵が足りませんねえ。』


はるか上方でそれを見下ろしているガンダルクが、やがて訴える。


「ちょ、手がだるいんだけど。」

『じゃあ、足も使ってしがみついて下さい。それなら楽でしょう。』

「切れるっての!!」

『大丈夫です。根元を見て下さい。一部分だけ黒くなったでしょ?』


言われて見下ろせば、確かに根元の刀身だけが黒ずんでいた。


『その部分だけ「切れ味」を完全に消しました。掴まっても大丈夫。』

「ホントかよ…」


おそるおそるガンダルクがその部位に足を回すと、なるほど切れない。

部分的に「刃引き」のような状態になっているらしかった。


「ああ…あたしの二番刀がどんどん変になっていく…」

『根に持ちますねえ。』

「あんたが事あるごとに思い出させるからでしょうが!!」


ザザザザザザシュ!


そんな不毛な言い合いをする間に、足元で鋭い音が連続して聞こえた。

いつの間にか戻っていたルクトが、二番刀に群がっていたディグローを

一気呵成に斬り伏せた音らしい。

喧騒も振動も、伝わらなくなった。


「ああー…、終わったみたいね。」

『さすがはルクトさん、実に速い。…じゃあ降りましょうか。』

「ちょい待ち。」


そう言ったガンダルクは、ひょいと勢いをつけて柄の先端に立った。

足一本乗せる事さえ難しい状態で、バランスを取って直立する。


眼下に見渡す山々の連なりは、既にうっすらと白み始めていた。


「もうすぐ夜明けだね。」

『そうですね。』

「いいねえ、こういうのも。」


吹き抜ける風に髪を揺らしながら、ガンダルクはそのまま遠くを見る。

遠目には、人が浮いているようにも見えたかも知れない。


日の出は、もう間もなくだった。

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