ルクトの悩みと意気
「…行くか。」
日が落ち、今日は村人たちにも各々の家で戸締まりを徹底してもらう。
多数を相手の戦いになる以上、何が起こるかの保障ができないからだ。
完全な後払いとは行っても、受けた以上は最低限の責任がある。
しかし俺個人としては、今の状態はあまり好いとは言えなかった。
理由は、この手の中にある刀だ。
『うーん、このまま実戦というのはいささか不安が残る状況ですねえ。
あたしの推測では、もう少し鍛錬を積んでからの方が良いのではと…』
「いいから黙っててくれ。」
そう。
とにかくアミリアスが口うるさい。
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ディグロー掃討は初めてじゃない。
メリフィスのパーティーに入る前、駆け出しだった頃に2度受けた。
もちろんその時は、ここまで大きな群れを相手にはしていない。一方、
俺の腕もそれなりに上がっている。状況としては十分に勝算はある。
しかし今、アミリアスの宿っている二番刀の存在がどうにも厄介だ。
武器としての可能性が未知数なのはいいとして、とにかく扱いづらい。
性能云々よりもまず、女の子の声でペチャクチャ喋るのってのがどうも
調子を狂わされる。本当に使ってもいいのか?とさえ思ってしまう。
「割と神経質ってか、優男ねえ。」
ガンダルクがそんな事を面白そうに言うが、別に紳士ぶってるつもりは
微塵もない。単純にこっちの感覚を乱されるってだけだ。
昼間に二番刀の特訓をしたものの、感覚の違いを痛感しただけだった。
アミリアスいわく、握って振る事で俺の動きの”精度”が測れるらしい。
で、実際に測ったところ、かなりの無駄がありますねと言い出した。
そんな事、わざわざ言われなくても十分に自覚しているんだよ。
自分が未熟なのは承知の上で仕事をこなして来てるんだから、あんまり
客観的過ぎる指摘をされても困る。動きの理想なんてもの、そう簡単に
追求できるはずないだろう。しかしアミリアスは、刀に転生する前から
出不精だったのに加え、今はもはや肉体を持っていないという状況だ。
当然、実際に刀を振っている俺とは根本的に感覚が異なっている。
「ああうん、無理よ無理!やめ!」
辛抱強くその特訓に付き合っていたガンダルクも、ついにあきらめた。
「アミリアス!」
『はい?』
「あんたの言いたい内容はそこそこ分かるけど、今やる事じゃないよ。
もう夜が本番なんだから、ルクトの能力の底上げを目指すには絶対的に
時間が足りない。そこは認めな。」
『そうですか…』
「今日のところは、補佐に徹して。相手はディグローなんだからそれで
十分よ。…そうでしょルクト?」
「ああ、そのとおりだ。」
まったく同意だ。
正直、俺はガンダルクに少なからず感謝していた。
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「…いるな。」
高台から眼下を望むと、土の臭いにかすかな獣の体臭が混じっていた。
何度も掘り起こされているせいで、この距離でもはっきり感じ取れる。
相当な数のディグローが、すぐ目の前の畑の地下に集まってきていた。
「ガンダルクはここにいてくれ。」
「何で?あたしも行くよ。」
「相手は数が多い。乱戦になったら守れないから、とりあえずだ。」
「優しいねえ、相変わらず。」
苦笑しながら小さなため息をつき、ガンダルクは続ける。
「分かった。だけど戦局次第では、遠慮なく割り込むからね。いい?」
「ああ。危なくなったら頼むよ。」
現状、俺にとって今のガンダルクの実力はまったくの未知だ。
本人やアミリアスの言葉をそのまま信じるなら、魔力はほとんどない。
加えてその肉体は、何十年経っても状態が変化しないらしい。つまり、
いくら鍛えても鍛えられないという事になる。現在の身体能力が完全に
外見のままなら、ディグロー相手にまともに戦えるとは思えない。
ここは俺が単独で片をつける。その気構えで臨む事にしよう。
「よし、んじゃ行くか。」
誰にともなくそう呟き、俺は愛用の長剣をすらりと音もなく抜いた。
と同時に、腰に提げている二番刀が声を上げる。
『あれ?あたしを使わないんですかルクトさん?』
案の定言ってきたか…
「ああ、まずはいつもの得物で戦う事にする。別にいいだろ?」
『…まぁ構いませんけど…』
ブツブツと文句を言っているアミリアスが、正直かなり鬱陶しい。
様々な局面で頼りになる存在なのは間違いないが、今この時に限っては
少し黙っていて欲しいのが本音だ。遊び半分じゃないから。
まあいい。
手に馴染む長剣の感覚を確かめて、俺は気持ちを入れ直した。
俺たちが欲しいのは、ギルドで使う新しいライセンスだ。そのために、
トッピナーさんの提案を受け入れてこのカウギ村までやって来た。
二重登録をするためには、こういう辺境の役場を活用すべきだ…と。
しかしそれは、俺たちの都合だ。
今この瞬間、村の人間はディグローって存在に生活を脅かされている。
請け負った以上、何としても彼らの憂い事を切り払う責任がある。
自分の都合はひとまず脇において、ディグロー殲滅に全力を尽くせ。
それが、今もこれからも俺のすべき仕事だ。絶対に忘れるな。
よし。
じゃあ行くとするか。




