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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第二章 逆境のジリヌス王国
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不名誉なおたずね者

「いや、一体どういう事よそれ。」


声を上げたのはガンダルクだった。


「あんたがメリフィスのパーティーを追い出されたのって、確か…」

(8日前です)

「そう、たった8日前でしょうが。しかもそれってアルメニク王国での

話だったし、いくら何でも伝達するのが速過ぎるんじゃないの?」

「8日前?…確かにそうですね。」


そんなガンダルクの抗議の言葉に、トッピナーは何かに納得したように

小さく頷いた。そして自分の目前で固まっているルクトに向き直る。


「ルクト君。」

「え?…ああ、ハイ?」

「パーティーを追われたのが8日前…っていうのは間違いない?」

「はい。確かです。」


今日までに至る道程を管理しているアミリアスが言うなら間違いない。

確かめたトッピナーは、うんざりといった態で大きなため息をついた。


「…なるほどね。そういう事か。」

「どういう事ですか?」

「メリフィスが自分のパーティーの剣士を追放したって話は、国からの

正式な通知として冒険者ギルドに伝えられた。それも、7日前にね。」

「な、7日前!?」

「それ、あたしと会った日じゃん。つまりあの店の一件があった翌日、

アステアを隔てたこの国でその話が一気に伝わってたってわけ?」

「そうでしょうね。」


呆れたようなガンダルクの言葉に、同じく呆れ顔になったトッピナーが

嫌そうに同意を示す。


「あたしはもちろん、その時の事は存じません。でも事情を聞く限り、

最初からこの通知を仕組んでいた…と考えるのが自然でしょうね。」

「…一体、何のためにメリフィスはそんな手の込んだ事を…?」

「………」


苦しげに放たれたルクトの問いに、トッピナーはしばし答えなかった。


しばしの沈黙ののち。


「…それは、はっきりしてます。」


意を決したような声と表情になったトッピナーは、あらためてルクトを

きっかりと見据える。


「あなた、人魔なのよね。」


================================


「そういう事かよ…。」


初めて、ルクトの声に困惑ではない怒りの響きがこもった。

握り締めた拳が、机の上でかすかに震えている。


「ここの王が勇者メリフィスに心酔してるって事は、誰よりもあなたが

よく知ってるわよね。」

「ええ、もちろん。」

「そしてこのジリヌスという国が、どれだけ魔人を嫌っているかも。」

「それは、あたしも知ってる。」


口を挟んだガンダルクに重く頷き、トッピナーは低い声で続ける。


「腕の立つ剣士と言っても、やはり魔人の血族の者とは共に歩めない。

つらい決断ではあるが、魔王討伐という大いなる使命のための痛みなら

甘んじてこの身で受けよう…という感じだったわよ。通知の主旨は。」


ダン!


ルクトが机の天板を拳で殴りつけた音が、狭い室内に響いた。


「…見事に印象操作のダシにされてるわね。あの夜の店での茶番劇も、

実はかなり前から周到に準備してたって訳か。抜け目ないねあいつ。」

「通知があったのが翌日で、しかもその時にアルメニクにいたのなら、

もう間違いないでしょうね。あなたが知らない内にこの国でこの事実を

効果的に広めておく。メリフィスの狙いは、自分の立場の強化よ。」

「………」


ルクトは、何も言えなかった。


================================


「正直、入口であなたを見た時には血の気が引いたわよ。」


なおも黙り込むルクトに、トッピナーがそんな言葉を投げかける。


「もちろん、あなたの顔を憶えてる人間はごく限られている。だけど、

うかつに名乗るとどんな事になるか分からない。時と場合によっては、

拘束される事だって考えられる。」

「何それ。おたずね者か何か?」


吐き捨てるようにガンダルクがそう呟き、肩をすくめた。


「つまり、この先まっとうに生きていこうと思うなら、田舎に帰って

剣を捨てて帰農でもしろ。…そう言いたいわけですかあの勇者サマは。

いや、実際にそう言ってたっけ。」

「………」

「ルクト。」


かける声に、不意に凄みがこもる。


虚仮(コケ)にされてんぞ。いいのか?」

「いいわけあるか。」


そう言ってガンダルクを睨み返したルクトの声にも、凄みがこもった。


「俺が、こんなふざけた理由で剣を捨てると思うのかよ。」

「微塵も思わない。」


「俺は、あいつの不要品じゃない。こんな所で立ち止まるか!」


================================


「分かった!」


じっと2人のやり取りを聞いていたトッピナーが、吹っ切れたような

明快な口調でそう告げた。その声に2人も視線を向ける。


「何が分かったんですか。」

「あなたの当座の問題は、ギルドで名を名乗れない事。そうよね?」

「まあ、とりあえずそうですね。」

「だったらあたしに考えがある。」


そう言い放ち、トッピナーは勢いをつけて立ち上がった。


「2人ともついて来て。」

「どこへ?」

「依頼の掲示板よ。」

「…え?」

「はあ?」


即答したトッピナーの言葉に、2人は思わず頓狂な声を上げる。


「いや、それがマズイんだ…って話じゃなかったんですか?」

「いいから!」


煩わしそうに答えるトッピナーは、すでに扉を開けようとしていた。


「あたしは、あなたたちを信じる。だからあたしの事も信じてよ。」

「…」


ルクトとガンダルクは、その言葉にすぐには答えなかった。

しかし目の前のトッピナーに対し、疑う気持ちは湧いてこなかった。


こんな話をするのは、彼女にとってある種の職務違反になるだろう。

王からの通知が本当なら、背信行為と言ってもいいかも知れない。

もちろんその事は、誰よりも本人がいちばん分かっている。その上で、

彼女は全てを話してくれた。


信じるか疑うか、ではない。

知るべきなのは、どうしてそこまで肩入れしてくれるか、だ。


「トッピナーさん。」

「何?」

「どうしてですか?」

「あたしもメリフィスって男が嫌いだから。ただそれだけ。」


即答に、迷いの響きはなかった。


「前々からいけ好かなかったけど、今回の一件で大っ嫌いになった。

だからあなたを応援する。それじゃ理由として足りない?」

「十分です!」

「にゃはははは、いいじゃん!気が合うねぇトッピナーちゃん!!」


愉快そうに笑うガンダルクが、勢いをつけて椅子から立ち上がった。

ルクトもほぼ同時に立ち上がる。


「じゃあ、ついて来てよ。」

「「了解!」」


声を揃えるルクトとガンダルクに、トッピナーがニッと不敵に笑う。



初めて見せる、彼女の笑顔だった。

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