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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第一章 追放と出会いと
16/703

魔王なるもの

「魔王がどんな存在か、って…」


怪訝そうな表情を浮かべながらも、ルクトは迷いなく答えた。


「つまり、魔人国アステアの頂点に君臨する魔人じゃないのか。」

「そのとおり。」


頷いたカンダルクが、なおも重ねて問いかける。


「じゃあ、その”魔人国アステアの頂点に立つ魔人”って、どんなの?」

「え?そりゃあ…」


今ひとつ質問の意図が見えないルクトは、それでも少し考えて答える。


「…その時のアステアで、いちばん強い魔人…って事か?」

「そうッ!まさにそのとおり!!」


最初の質問の時より、ガンダルクのリアクションは何倍も大きかった。

勢い余って変なポーズを取りつつ、ルクトの答えに大いに賛同する。


「その時代における最強の魔人が魔王になる!…それが全てなの!!」

「…いやあの、うん。分かった。」


ルクトは、相手の意味不明な剣幕にいささか気圧されていた。


「つまり、それが何なんだよ。」

「それだけって事よ。」

「え?」


スッと元のテンションに戻ったガンダルクは、ルクトの顔をじっと見て

淡々と続ける。


「アステアの魔王ってのは、本当にただそれだけの存在なの。」


================================


「魔人は、古の時代からずっと人間に恐れられてきた。…もちろん、

人間よりもずっと強い力を持っていたから、ってのが最大の理由よ。」


語るガンダルクの声に、感情や抑揚のようなものは感じられなかった。


「だけど魔人は、そんなに言うほど邪悪でも好戦的でもない。普通に

働きもするし、誰かを愛したり育んだりもする。アステアの国内にも、

レストランもあれば本屋も病院も飲み屋もある。まあ、要するに人間と

大して変わらない社会を築いて生きてるって話よ。」

「それは、お前が勇者グレインの手で討たれる前からって話なのか?」

「もちろん。昔のあたしにだって、友達もいればなじみの店もあった。

好きな音楽だってあったし、贔屓の役者だっていたよ。」


捉えようによっては失礼なルクトの問いにも、ガンダルクは怒る事なく

普通に答える。


「魔王は力で選ばれる。もちろん国民全員が競うんじゃなく、その時の

実力者同士が戦って決める。相手を殺す事もあれば、負けを認めさせて

終わりって事もある。そして選ばれた魔王は、国民から尊敬される。」

「…聞く限りだと、腕っぷし以外はあんまり求められないんだな。」

「事実そう。別に政治とかを任されたりなんかはしないからね。」

「ホントかよ?」

『ええ、事実ですよ。』


話に割り込んできたアミリアスが、ことさらに強調する。


『つまり、別に頭が良い必要もないんです。』

「そうそうそのとおり…ってひと言多いんだよ!!」

「なるほど。」

「そこで納得するなってのに!!」


ルクトは、思わず笑い出していた。


================================


「んで結局、何が言いたいんだ?」


ひとしきり笑ったルクトが、あらためてガンダルクに問いかける。


「魔王ってのはつまり、アステアの象徴みたいな存在って事だよな。

それが、今のお前がお偉いさんに会いたいって話とどう繋がるんだ?」

「魔王がそういう存在だって事を、ちゃんと理解して欲しいのよ。」

「…つまり、今の為政者たちはその認識がないって事か?」

「そう。」

『そこについては、あたしもガンダルクと同意見ですね。』


アミリアスが真剣な口調で告げる。


『魔王は国の頂点に立つ者として、贅を尽くした日々が約束されます。

国中の名産が集められ、国中の娯楽を堪能し、国中から集まってくる

美女を侍らせる事もできる。まさに王としての身分を満喫できます。』

「お前もそういうのやってたの?」

「いやあ、あたしは女だから美女を侍らせるなんて興味なかったけど、

美味しいものはとことん取り寄せて食べたっけなあ。懐かしい話よ。」

「なんか、聞いてるとあんまり罪のない存在だな魔王ってのは。」

「そう、まさにそうなのよ。」


ガンダルクが、言葉に力を込めた。


「そんな恵まれた立場にいる者が、わざわざ人間の国を侵略しようとか

考えないのよね。これはあたしだけじゃない。あたしの先代のザンツは

そういう事も考えてたらしいけど、ほとんどの魔王は興味なかった。」

「…は?」


ふんふんと聞いていたルクトの表情が、そこでキッと険しくなる。


「ちょっと待て。いくら何でもその話は信じ難いぞ。…いつの時代も、

魔王の手下って名乗る魔人はどこの国にもいたはずだ。もちろん今も。

そいつらが人間の命や財産を脅かしてるのも事実だろうが。違うか?」

「合ってるけど、ちょっと違う。」

「何が違うんだよ。」

「ま、落ち着いてよ。」


詰問口調になるルクトの剣幕にも、ガンダルクは態度を変えなかった。


「そういう魔人はほぼ、勝手に魔王の手下を名乗ってるだけの悪党よ。

会った事すらない魔王の威厳を借りて、それを後ろ盾に暴れてるだけ。

アステアの中でそれをやるとマズイから、人間の国でやってるのよ。」

「…そういう奴の事を、魔王はどう思ってるんだよ。」

「別に何とも。タチの悪い奴として放置する…ってのが永年の通例。」


ガタッ!!


そこで立ち上がったルクトの手が、ガンダルクの胸倉を掴んだ。

息がかかりそうなほど近くに顔を寄せ、じっと睨み据える。


「お前もそうだったのかよ!」

「そうよ。悪い?」

「……!!」


ギリッと歯を食いしばるルクトが、なおもガンダルクを睨みつける。


しかしガンダルクは動じなかった。


================================


『ルクトさん。』


張り詰めた沈黙を破ったのは、すぐ傍らに置かれたアミリアスだった。


『あなたの気持ちはもちろん分かりますが、ガンダルクを責めるのは

いささか筋違いですよ。』

「…何でだよ。」


視線をガンダルクに向けたままで、ルクトが問いかける。


「魔人が人間に害を成してる事実を知ってて、放っておいたなら…」

『そういった魔人を悪だと断ずる事ができるほど、人間というものは

清廉潔白な存在ですか?』

「……何だと?」

『利己的で身勝手な目的のために、自分よりも弱い存在を傷つける。

そんな無法者は、人間の中にもいくらでもいるでしょう。違いますか?

ましてや魔人にとって、大多数の人間は自分よりずっと弱い存在です。

それを罪と呼ぶなら、要するに彼らは犯罪者なんですよ。』

「……」


黙ってその話を聞くルクトは、いつしか手を離していた。

そのまま彼と向き合っていたガンダルクが、ポツリと口を開く。


「ルクト。」

「…」

「そもそもあんたの、メリフィスたちの、勇者や冒険者の仕事は何?」

「それは…」

「あんたたちは、魔人を狩って金をもらう。それはもう、昔からずっと

続けられてきたお仕事でしょ?」


諭すかのようなガンダルクの声は、あくまで淡々としていた。


「光の加護であろうと人魔の呪いであろうと、人間の中に魔人と戦える

存在がいるのは事実でしょ。それが職業として、害を成す魔人を狩る。

世の中がそれで回ってるんだから、アステアとしても不問にしている。

自分たちが放置している代わりに、人間に殺されても文句を言わない。

要するに、そういう事なのよ。」


================================


「悪かった。」

「謝る話じゃないでしょ。」


力なく座り直したルクトに、ガンダルクは小さく笑みを返した。


「ここまで話せばもう分かると思うけど、人間が魔人を狩る事に対して

魔王は何も言わない。それは、大昔からの決まり事よ。もしもいちいち

問題にしてたら、あっという間に戦争が起こって世界は荒廃していた。

アステアという国と人間の国とが共存していたのは、何もこのあたしが

死んだからってだけじゃない。もっと、ずっと前からの話なのよ。」

「…言われてみれば、確かにそうなのかも知れないな。」


『この世の中は、そうやって均衡を保っていたのですよ。』

「ああ。」


アミリアスの告げた言葉に、ルクトが小さく頷く。


「じゃあどうして今、王に会いたいと思ってるんだ?」

「決まってるでしょ。」


即答したガンダルクは、大げさな仕草で肩をすくめた。


「こんな当たり前の均衡が、今にも崩れそうになってるからよ。」

「今この時代にか?」

「そう。魔王が百年振りにまた降臨したって事実と…」

「事実と?」



「他でもない、あたしのせいで。」

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