ガンダルクの目標
「いやあー、思ってた以上に高値で売れたねえ。」
ホクホク顔のガンダルクが、テーブルの上に持ち金を並べて数える。
「ええと…しめて18万ギブルか。しばらくは食うに困らないね。」
「それなりの家が買えそうだな。」
『やっぱり、ネラン石があったのが大きかったんでしょうね。』
3人がいるのは、街の宿屋の一室。
メリフィスたちの持ち物をほぼ全て売り払った彼らは、ちょっとした
小金持ちになっていた。
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「まともな宿に泊まるのって、いつ以来かなぁ…」
夜の帳が下りつつある窓の外を見ながら、ガンダルクがしみじみ呟く。
「お前って、今までは原則的に野宿だったのか?この百年間。」
「ずうっと…ってわけじゃなかったけど、まあ大体はそうだったよ。」
ルクトの問いにそう答えたガンダルクは、かざした自分の手を見やる。
「今のあたしのこの体は、全く成長しない代わりに劣化もしないのよ。
もちろん外から汚せば汚れるけど、老廃物みたいな汚れは出てこない。
だからまあ、野宿で事足りてた。」
「便利といえば便利だけど、何だか味気ない話だな。」
「もうすっかり慣れたけどね。」
そこでガンダルクがルクトに向き直り、意味ありげな表情を浮かべた。
「それより、ルクト君。」
「何だよ。」
「宿を取ったのはいいけど、当然のように同室ってのは良かったの?」
「…は?」
「は?じゃないわよ。」
諌めるような口調でそう言いつつ、ガンダルクはぐっとルクトに迫る。
「こんな妙齢の女の子と同室って、親御さんは承知してんの?」
「いやいや、お前ガンダルクだろ?いくら体が女の子だからって…」
「……うん?」
「ある意味、可哀想だとさえ思ってるんだ。いくら俺でもその境遇には
かなり同情してるって話だよ。」
「………」
「なんで黙るんだよ。」
形容しがたい表情になって口をつぐむガンダルクに、ルクトが訝しげに
問いかける。しかし返事はなく、微妙な沈黙の時が流れる。
数秒ののち。
『ルクトさん。』
沈黙を破ったのは、ベッドの上に投げ出されていたアミリアスだった。
『もしかして、転生前のガンダルクは男だった…とか思ってます?』
「え?」
きょとんとするルクト。
「違うのかよ?だって伝承では…」
ゴン!
皆まで言う前に、ガンダルクの拳骨がルクトの頭に炸裂した。
「あたしは昔から女だよ!!」
「ええ!?」
答える言葉が露骨に裏返る。
殴られた痛みより叫ばれた内容の方が、ルクトには何倍も衝撃だった。
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「いや、ホント悪かったよ。」
完全にムクれているガンダルクに、床に正座したルクトが詫びる。
「母さんもお前の性別までは話の中で触れなかったし、恐怖の魔王が
女性だとは思わないだろ。そんな伝承は聞いた事なかったし…」
「いくら違うと訂正しても無駄だったのよ。あたしの話なんて誰ひとり
信じないし、話を盛り上げるためには魔王は男の方がいい!って理由で
勝手に捏造されていった。あたしももう、途中で諦めてたよ。」
「だったら俺だって仕方ないと…」
「黙らっしゃい。」
ぴしゃりと言い放ったガンダルクの目が、ルクトを見据える。
「あんた、かれこれ4日もあたしと一緒に行動してるでしょうが。」
「ええっと…」
「それでも思い込んでたってのは、言い訳できる状況じゃないよ!」
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『いやあ、客観的に見れば、意外と仕方ないかも知れませんよ。』
「やかましいわ!!」
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夜も更けた頃。
「それで、だ。」
やっと機嫌を直ったのを見計らい、ルクトがあらためて質問した。
「これからどうする気だよ?」
「そうねえ…。」
すっかり暗くなった窓の外をちらりと見ながら、ガンダルクが答える。
「とりあえず、お偉いさんに会ってみたいと思ってる。」
「お偉いさん?…と言うと、例えばギルド長とかか?」
「国王とか、そういうの。」
「はあ!?」
またもルクトの声が裏返った。
「いきなり何でだよ!!」
「話がしたいから。」
「だから何を話すんだよ!?」
「魔王の事に決まってるでしょ。」
そう言ったガンダルクは、ルクトに向き直ってゆっくりと座り直した。
「んじゃあ、もうちょっときっちり説明するからさ。」
「ぜひ頼む。」
「あんた、魔王ってどんな存在だと思ってる?」
「え?」
意外過ぎる問いに、ルクトは毒気を抜かれてきょとんとする。
しかし目の前のガンダルクに、からかうような様子は微塵もない。
どうやら、彼女の根底を成す話への取っ掛かりらしい。
それを悟ったルクトもまた、ほんの少し居住まいを正す。
長い夜になりそうな、そんな予感があった。




