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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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体裁と本音と

「入れ。」


その掛け声と同時に、左右の大扉が開かれた。慌てず急がず走らず、

それでいて迅速に魔鎧兵たちが元の位置に戻ってくる。

内心さぞハラハラしていただろうというのは、装甲越しに伝わった。


何事もなかったかのように、彼らを玉座で迎える女王シャンテム。

階段の下に控える副王リスベルと、彼の前で頭を垂れている来訪者。

成り代わられている可能性もない。魔力の気配も紛れもない女王本人。

懸念すべき要素は、どこにもない。


無言の安堵が装甲から漏れたのを、ルクトたちははっきり感じていた。


================================


「遠路ご苦労でした。」


そう告げたシャンテムが、最前列のメリゼを見つめてゆっくり続ける。


「積もる話もありましょうが、まず休みなさい。部屋を用意します。」

「ありがとうございます。それと、ひとつお願いがあります。」

「何なりと。」

「先ほどの戦いで傷を負った友人、シャリア様とイバンサ様のお二人に

手当てを。」

「えっ。」

「あの…」

「分かりました。」


一瞬うろたえたシャリアたち2人を制するかのように、シャンテムは

即答した。そして右手を掲げる。


「ピノス。」

『は。』

「お二方の治癒を。」

『かしこまりました。』


すぐ隣にいた魔鎧兵が短く答える。どうやら先ほど、出て行けと言われ

わずかに抵抗した女性らしかった。

と、次の瞬間。


ギュイン!


かすかな駆動音と共に、「ピノス」の魔鎧兵は軽やかに跳躍した。

そして一気に階段を跳び越えると、リスベルのすぐ傍らに着地する。

接地の瞬間に両膝を曲げる挙動で、ほとんど音さえ聞こえなかった。

屈み込んだ体勢で静止した魔鎧兵の装甲が音もなく開き、その中から

細身の女性が姿を現す。吊り上った目が意志の強そうな印象を与える、

短い金髪の持ち主だった。ひらりと降り立って歩み寄れば、その背丈は

シャリアよりかなり低い。しかし、凛とした姿は大人の風格だった。


「失礼します。」

「あ、はい。よろしく」


青い瞳がかすかに光り、同じ色の光を放つ手がシャリアの胸に触れる。

負傷箇所を視覚で把握したらしく、その動きには迷いがなかった。

やがてシャリアの顔が驚きの表情に満ちる。どうやら終わったらしい。


「…どうも、感謝します。」

「いえ。」


感謝の言葉を軽く流したピノスは、続いてイバンサの傷も治癒した。

服を脱がせるでも横にならせるでもなく、特殊な道具も使わず、そして

一切の疲労の色も見せない治癒術。皆が等しく感嘆の視線を向ける。


動じる風もなく、ピノスは魔鎧兵のもとまで戻った。しかし再びそれを

着込む気はないらしく、その位置でしゃんと立つ。


「感謝します。」

「いえいえ。…他には?」

「いえ。ありがとうございます。」

「では案内させましょう。」


そんな短いやり取りの後、場は散会となった。

魔鎧兵を降りたリスベルの案内で、皆は揃って離宮へと向かう。


やがて扉は閉ざされた。

しばしの静寂ののち。

いわゆる「休め」的な体勢になった魔鎧兵たちが、ガシャガシャという

騒がしい音を立て始めた。どうやらそれなりに気を張っていたらしい。

そんな騒がしさの中、シャンテムが誰にも聞こえない小声で呟く。


「…緊張したぁ…」


階段の下で立ったままのピノスも、手を見ながら同様にポツリと呟く。


「すごいカッコイイ人だったなぁ…彼女とかいるのかなぁ……」


誰も聞いてはいない。

しかし、どんな場であってもそれは必ず存在し得る。


堅苦しい作法や形式の奥底にある、人間としての偽らざる気持ち。

女王であろうと近衛兵であろうと、その事情はいささかも変わらない。



何はともあれ、メリゼとルクトたち一行は、ようやく辿り着いていた。


苦境を乗り越え、そして新たな未来を模索すべき場所に。

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