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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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シャンテムの慧眼

副王自らが魔鎧兵を着込み、迎えに出てくる。


狂気の沙汰と思われたその行動は、実はかなり理に適っていたらしい。

城に到着してから、ルクトたち一行はその事実に気づかされていた。


確かに、行為自体は常軌を逸する。しかし実際に戦った感覚で言えば、

生半可な相手では魔鎧兵を倒す事は到底できない。それも確実な話だ。

それをまとっている時点で、副王の安全はある程度は保障されている。

同系の魔鎧兵6騎が同伴したのも、半分以上は彼の護衛が目的だろう。

そして何より、彼が直接赴いた事によってメリゼをすぐに認識できた。

逆もまた然り。メリゼからしても、彼が直接来れば疑う必要がない。


もちろん、迎えが遅れた事に対する誠意という意味もあっただろう。

それでも彼を直接出向かせるという女王の采配には、皆が感服した。


そして、実際に城に着いてみれば。

他でもない副王が同伴している事により、ほぼフリーパス状態である。

もちろん6騎はずっと同伴しているものの、それは当然の配慮だろう。

門を通るたびに面倒な手続きなどを踏まされる事を考えれば、この方が

はるかに手っ取り早い。

たとえ息苦しい同伴者がいようと、自分たちの出自の怪しさを考えれば

別に腹など立たない。ルクトたちもプローノたちも、相手の柔軟さには

むしろ感謝していた。


「なかなかだね、モーグの女王。」


かすかに笑いながら、ガンダルクが誰にともなく呟く。

天井の高い廊下を進み、向かう先の突き当たりに扉が見えてきた。


「この先が謁見の間です。」


前部装甲を開けた状態で歩いていたリスベルが、一行にそう告げる。

あくまでもその装備のままらしい。それがギリギリの譲歩なのだろう。

誰にも、特に思うところはない。


やがて、皆は扉の前で足を止める。


それを待ちかねていたかのように、両開きの扉はゆっくりと開かれた。


================================


「どうぞ。」


先導するリスベルが、相変わらずの駆動音を響かせながら入室する。

正直言ってかなりの違和感である。しかし皆、黙って彼の後に続いた。

と、随行していた6騎は動かない。どうやら中には入らないらしい。


「…?」


ここまで来てそれかと思ったルクトたちは、正面を見て納得する。

階段を上った先の、真っ白な玉座の左右。そこには先のものよりも更に

強力だとわかる魔鎧兵が、ずらりと6騎ずつ並んでいた。万一の時には

あれが対処するのだろう。さしずめ女王専属の護衛兵だ。


中ほどまで進んだところで、玉座に座る女王の姿がはっきり見えた。

メリゼ以上に年齢が推測しにくい、独特の気品を持つ黒髪女性である。

着ているものが高貴なのは遠目でも判る一方、装身具がほとんどない。

王冠すら戴いていない。何となく、本人が嫌いなのではないか…という

不遜な想像ができる雰囲気だった。


やがてリスベルが足を止め、一行もそれに倣って立ち止まる。しかし、

その後の流れに関しては誰も自信がなかった。


拝謁である事に間違いはない。が、あまりにも今の状況は特殊である。

面識があるのも、この場に相応しいと断言できるのもメリゼただ一人。

それ以外、身分がそこそこ確かだと言えるのはアルメダくらいだろう。

正直、この場はメリゼの真似をするくらいしか手が思いつかない。


皆の顔にどうしようと書いてある。そんな気まずさが場を満たした。


================================


しばしの沈黙ののち。


不意に、玉座から女王シャンテムがすっと立ち上がった。座っていた

印象とまるで違う背の高さである。よほど脚が長いのだろうか。

一瞬気を呑まれたメリゼが、慌てて頭を下げようとした刹那。


「お前たちは席を外せ。」


左右に目を向け、シャンテムがそう告げる。相手は魔鎧兵らしかった。


「え?」


階段下にいたリスベルが怪訝そうな声を上げる。居並ぶ魔鎧兵たちも、

ほんのかすかな動揺を見せていた。しかしシャンテムはなおも告げる。


「リスベル以外は退室せよ。以後、私が呼ぶまで外で控えよ。」

『シャンテム様、それは…』


さすがに困惑したのか、すぐ右隣の魔鎧兵が声を発した。女性らしい。

しかしシャンテムは、さらに語調を強めて繰り返す。


「聞こえたのなら、早くしなさい。これは私からの命令です。」

『……』

「心配はいりませんから。」


最後の言葉が決め手だったらしい。それ以上何も言わず、魔鎧兵たちは

整然と並んでそれぞれ通路を下り、左右の壁に設けられている大扉から

外に出て行く。最後の2騎が出ると同時に、扉は固く閉められた。


「…?」


室内に残ったのは女王シャンテムと副王リスベル、そしてメリゼ王女と

ルクトたちだけとなった。先程とは違う、緊張感のある静寂が満ちる。


しかし、場はすぐに動いた。

他でもないシャンテムが、ゆっくりと階段を下りてきたのである。


「…女王?」


さすがにそれは予想外だったのか、リスベルが怪訝そうな声を上げる。

その間にシャンテムは階段を下り、メリゼのすぐ目の前に立っていた。


「シャンテム様…」


何か言おうとするメリゼを、スッと手をかざして制し。

シャンテムは再び歩き出した。目の前に立つメリゼのすぐ横を、まるで

彼女が存在しないかのように素通りし、さらに歩を進める。

無視された形のメリゼは、さすがに驚きの表情を浮かべて振り返った。

意想外の姉の振舞いに、リスベルも目を見開いてその姿を追う。

メリゼの少し後方に控えていたルクトたちは、うかつに動けなかった。

あまりにもシャンテムの行動が予想の外過ぎて、考えが追いつかない。

一体、何をするつもりなのかが。


しかし、シャンテムの行動に迷いは一切なかった。

最初からわかっていたかのように、一人の相手の前で歩みを止める。


そして。


やはり迷うことなく、シャンテムはその場で膝を突いた。

深々と頭を垂れ、自分が誰なのかを忘れたかのような体勢で止まる。

場にいる者たちは凍り付いていた。


何も言わずに頭を下げられた本人―

ガンダルクを除いて。


================================


「不遜にも壇上にてお迎えした事、何とぞお許し下さい。」


頭を垂れた姿勢のまま、シャンテムはガンダルクにそう申し述べた。

じっとその様を見ていたガンダルクが、やがてゆっくりと応じる。


「ご丁寧にどうも。」


無礼極まりない口調ながら、誰一人それに対し突っ込めない。何しろ、

シャンテムが自分から頭を下げた。その意味はあまりに重過ぎる。

さっきと別の意味で、軽々しく口を挟めるような状況ではなかった。


「あたしが誰か知ってるの?」

「いいえ、存じ上げませぬ。」


即答だった。

その即答に皆はますます驚愕する。

相手が誰かもわからないまま、国の頂点たる女王が頭を下げるとは…


「ですが、私がこうすべき方であると確信しております。」

「すごいね。恐れ入った。」


そう言って、ガンダルクは笑った。


「名乗ってないのに、しかも女王という立場にある人間が頭を下げる。

いやあ、さすがに初めてだよ。」

「私こそ、恐れ入ります。」


そう言って、シャンテムはようやく顔を上げた。


「ご尊名をお聞かせ願えますか?」

「いいよ。」


まるで、友人に対する挨拶のような気楽な口調だった。


「あたしの名前は、ガンダルク。」


================================


「…アステアの…先代魔王…?」


シャンテムの目が大きく開かれた。

その慧眼に、ルクトたちもまた驚きを隠せないでいた。


一瞬の静寂ののち。


「にゃはははは!初めまして女王!よろしくねー!」


いつもどおりのガンダルクの笑い声が、部屋いっぱいに響き渡る。

シャンテムの顔にも、そこで初めて笑みが浮かんだのがわかった。


「…やれやれ。」


ようやく、ルクトは苦笑を浮かべる余裕を取り戻していた。

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