対峙した相手
ドスッ!
新たな魔鎧兵を視認したルクトが、迷わず二番刀を抜いて地面に刺す。
「出来る限り探ってくれ。」
『了解。』
アミリアスが短く答えると同時に、魔石がかすかな光を放った。
感知術が地面を伝い、迫る魔鎧兵の構造を解析していく。
待つこと数秒。
「どうだ?」
『全体的な構造はほぼ同じですね。中に人間が乗っているのも含めて。
完成度で見ると、今回のものの方がやや高い感じです。』
「装甲はぶち抜けるか?」
『勢いをつければいけます。…が、数が多過ぎますね。先ほどのような
奇矯な手が使えるかどうか。』
言葉を交わしているうちに、相手はメリゼが破壊した魔鎧兵の残骸が
屹立する地点にまで到達していた。2騎がその残骸を囲む形で検証し、
それ以外の5騎がゆっくりこちらに歩み寄ってくる。
「…あの足の加速機能はあるか?」
『いえ、調べた限り未装備です。』
「不幸中の幸いだね。」
すぐ近くで聞いていたガンダルクがそう呟き、メリゼに目を向ける。
「メリゼ。」
「はい!」
「相手の狙いがさっきと同じなら、少なくともあなたに攻撃は来ない。
そしてあの加速がないなら、何とか懐に潜り込めれば勝機はある。」
「…つまり、私が出来る限り相手を遠くへ転移させるんですね?」
「無理はしなくていいです。」
声を殺し、ルクトが補足する。
「手前の2騎を遠ざけて頂ければ、後は何とかします。」
「んじゃあ、あたしとガンダルクでメリゼのフォローをするよ。」
反対側を固めたトッピナーが、そう言ってガントレットを確かめる。
プローノやラジュールたち4人は、あえて口を出さなかった。
この状況において、自分たちが下手に動けば相手に警戒されるだろう。
まして、自分たちの力では魔鎧兵と互角に渡り合う事は出来ない。
戦力差を覆すには、メリゼの転移でとにかく敵の数を減らすしかない。
今は目の前のルクトたちを信じて、ひたすら自衛に徹する。
アルメダに至っては、すでに物陰に身を潜めている。そんな彼女に、
誰ひとり非難の気持ちはなかった。
その行為を、メリゼに対する不忠と取るのは愚の骨頂である。
両手を広げてメリゼの盾になる事が忠義と言うなら、そんな忠義などは
メリゼ自身が破り捨てただろう。
己の非力を嘆くのは、自己満足だ。
安っぽい犠牲の精神など、迷惑以外の何ものでもない。
少なくとも今のメリゼは、アルメダにそんなものは求めていない。
その事実を理解しているからこそ、アルメダの行動に恥も迷いもない。
生きて、皆でシャンテムのもとまで辿り着く。それこそが今の全てだ。
王都を出立した時からは想像すらもできないほど、メリゼは心身ともに
強くなった。そしてそんな彼女を、アルメダは間違いなく支えている。
ルクトたちにもプローノたちにも、彼女の役を果たす事はできない。
小さな手をぐっと握り締めながら、アルメダはメリゼの勝利を祈った。
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相手の近づく速度は変わらない。
とは言え、このまま接触するという展開にはならないはずだ。
どういう目論見であるにせよ、必ずどこかでその歩みを止めるだろう。
全騎が止まるか、それとも何騎かが止まるだけか。それは分からない。
いずれにしても、その瞬間を狙う。攻撃される前に相手の数を減らす。
集中するルクトたち5人の思考は、もはや完全にひとつになっていた。
なおも近づく。
相手の魔鎧の形状が細かく判る。
どこを攻撃するかの目算を立てる。
狙う。
そして。
正面の1騎が足を揃えて停まった。それに合わせ、他の4騎も停まる。
ほぼ対称形で向き合う格好になった瞬間、ルクトたちは一斉に動いた。
二番刀を抜いて踏み込んだルクトを追い抜く形でメリゼとガンダルク、
トッピナーの3人が前に駆け出る。狙うは、1歩前にいる正面の1騎!
電光石火の突撃を仕掛けた、まさにその瞬間。
『わあっ、ま、待て待て待て!!』
両腕を高く上げた正面の魔鎧兵の中から、慌てたような声が聞こえた。
それを耳にしたメリゼが、その場で急停止する。
「!?」
『俺だよ!!』
ホールドアップの姿勢のまま、正面装甲がバクンと大きく開かれる。
ある意味、かなりの自殺行為であるものの、周囲の4騎は止めようとは
していなかった。
さっきの男は顔だけだった。それに対し、今回は装着者自身の上半身が
丸ごとあらわになった。中の人間もまた、同じく両腕を高く上げる。
同じ方向を向いていてさえ、それを見たメリゼが両の目を見開いたのが
ルクトたちにははっきりと判った。
「…リスベル様?」
「遅くなってごめん!!」
相手の男―リスベルは、上げた手を下ろし、深々と皆に頭を下げた。
「皆さん、お迎えに上がりました!重ね重ね、遅れて申し訳ない!!」
「…え」
「リスベルって、まさか…」
「副王?」
「ってか、メリゼ様の婚約者?」
固唾を呑んで見守っていたプローノたちが、同じく目を見開く。
「…ええええええええ!?」
頓狂な声を甲高く張り上げたのは、物陰から転げ出たアルメダだった。
場の殺気と緊張感が一気に霧散し、誰もが等しく呆気に取られる。
『副王!』
『あんまり乗り出さないで…!』
『危ないですから!』
周りに控えていた4騎の魔鎧兵が、前のめりになっているリスベルを
くぐもった声で諌める。何となく、苦笑を禁じ得ない有様だった。
「…マジかよ。」
「国の副王が、あんなもん着込んで出張ってくるんだ…。」
「なんかイイねえ、そういうの。」
『ですね。』
ルクトもガンダルクたちも、さすがにその行動に呆れを隠せなかった。
「リスベル様!!」
「無事でよかった。心配してたよーメリゼ!」
駆け寄ってきたメリゼを、魔鎧兵を降りたリスベルが迎える。
あらためて並ぶと、2人の背はほぼ同じだった。少し遅れてアルメダが
メリゼの傍らに駆け寄る。
「メリゼ様!」
「ありがとう。大丈夫よ。」
アルメダにそう笑いかけたメリゼの目が、あらためてリスベルに向く。
ルクトたちは黙って見守っていた。
「……ご無沙汰しております。副王リスベル様。お迎え感謝します。」
「無事で何よりです。王女メリゼ。あらためて、ようこそモーグへ。」
あらためて挨拶を交わした2人が、そこで初めて固く抱き合った。
周囲に集まっていた6騎の魔鎧兵も装甲を開け、衛兵らしき中の者も
そんな2人を見守る。
「やっと着いたか。」
実感のこもった声でルクトが呟く。
仰ぎ見た空は、どこまでも蒼く高く晴れ渡っていた。




