魔鎧兵対ルクト
「…殺せえェェェ!!」
場に、ゲルテの甲高い怒声が響く。
いきなり高高度から落下させる…という常識外の攻撃に対しては対応が
ほとんどできなかったものの、刀を抜いた相手は理解できたのだろう。
指示を受けた残りの魔鎧兵2騎も、我が意を得たりと動き出す。
ドゴォォン!!
シャリアとイバンサを吹き飛ばしたパンチが、左右両方からほぼ同時に
ルクトめがけて炸裂する。しかし、当のルクトは素早く地を蹴り後退。
あらためて相手をじっと観察する。
『どうですか?』
「攻撃自体はめちゃくちゃ速いが、基本動作が遅いな。動きを読むのは
難しくも何ともない。」
『確かに。』
魔石を光らせながら、アミリアスが小声で答える。
『打撃は、魔力的な爆発を応用しています。それ以外の動作は、単に
中にいる装着者の動きを伝達・増幅しているだけのようですね。』
「なるほどな。」
と、その刹那。
ギュイィィン!!
耳障りな駆動音を響かせて、2騎が一瞬で距離を詰めてきた。
不意を突かれたルクトは、左右から挟まれる格好になる。壁のような
巨体が、押しつぶさんばかりの勢いを持って迫ってきていた。
「ちいっ!!」
叫んだルクトは、とっさに二番刀を逆手に持ち替えた。そして目の前に
迫り来る魔鎧兵の前面装甲目掛け、思い切り突き立てる。
ガシッ!!
その刺突はしかし、ほんのわずかに刺さったに過ぎなかった。先ほどの
覗き窓の構造を思い返せば、とても中の人間にまでは届いていない。
案の定、相手は全く委細かまわずにそのまま突進してきていた。
次の瞬間。
「伸ばせアミリアス!」
ドン!!
2騎の間でプレスされそうになっていたルクトの叫びと共に、二番刀が
装甲に刺さったままの状態で一気に伸びた。勢いに逆らわずに後退した
ルクトが、背後から迫っていたもう1騎の前面の窪みに狙いをつける。
ガキィッ!!
二番刀の柄尻が、見事にその窪みを捉えた。伸長はなおも止まらない。
『うおっ!?』
2騎の間のつっかい棒のような形になった二番刀は、すさまじい勢いで
間隔を突き広げる。お互いの重さに押された2騎は、それぞれ後方へと
押し切られていった。
ドォン!!
数秒後、2騎は背後にあった石壁と柱にそれぞれ激突する。とは言え、
その程度の衝撃で破壊されるほど、脆弱な代物ではないらしかった。
柄尻で押し切られた個体が、目前に密着しているルクトを捕らえようと
大きく両腕を振り上げる。しかし、ルクトはあえて目を向けなかった。
代わりに背中の長剣を抜いて片手で構え、短く叫ぶ。
「戻せ!!」
ギュン!!
二番刀の刀身が一気に収縮し、その勢いでルクトの体が引き戻される。
背後の魔鎧兵の腕は空を切った。
『刃は水平に寝かせてまっすぐに。もう少し下です。』
「よし。」
指示に従って姿勢を調整すると同時に、収縮速度が瞬間的に上がる。
ルクトは、そのまま目の前の魔鎧兵目掛けて一気に突進していった。
装甲に刺さったままの二番刀の刀身を折ろうとするかのように、両腕を
組んで大きく振り上げる。しかし、動きが遅い。あまりにも遅い。
次の瞬間。
「セイッ!」
ドスッ!!
先ほどとは比べ物にならない勢いと速度が込められた長剣の一撃が、
二番刀の刺入部のすぐ上部の装甲に深々と突き刺さった。
振り上げられた両腕から力が抜け、内部からの駆動音が全て途絶える。
「仕留めたか?」
『脳天貫通です。』
「嫌な決着だなー。」
言いながら、ルクトが突き刺さった長剣を引き抜いた。同時に、孔から
鮮血が流れ出す。どうやら本当に、中の装着者を仕留めたらしかった。
しかし、まだ終わっていない。
柄尻で押し切っていた背後の1騎が立ち上がり、突進を狙っていた。
振り返ったルクトが、刺さったままの二番刀の柄に手をかけた刹那。
『あ、まだ抜かないで下さい。』
「え?…何でだよ。」
『試してみたい事があるので。』
「試す?」
『とりあえず、離れて下さい。』
意図を図りかねながらも、ルクトはそのまま倒れた魔鎧兵から離れる。
タイミングを合わせたかのように、背後の1騎が突進してきていた。
長剣で迎撃しようとした、刹那。
ギュイィン!
憶えのある駆動音が低く鳴り響き、倒れていた1騎が立ち上がった。
とっさに警戒したルクトの目の前を素通りし、そのまま突進してきた
もう1騎を迎え撃つ。
「あ!?…まさかアミリアスか?」
ギュウン!
二番刀が刺さった方の動きは、突進してきた方を遥かに上回っていた。
人間には成し得ないような高機動で相手を翻弄し、一瞬で背後を取る。
ドガッ!!
反応もできない相手の背部目掛け、強烈なパンチが叩き込まれた。
何かが内部で折れるような鈍い音が何度も聞こえ、殴られた魔鎧兵は
そのまま沈黙する。内部構造を破壊されたか、それとも装着者が中で
押し潰されたのか。いずれにせよ、二度と動かない事だけは判った。
『なかなか面白い構造ですねえ。』
そんなアミリアスの声が響き、右腕が二番刀の柄を握って引き抜くと
ブンとルクト目掛けて放り投げた。回転しながら飛んできた二番刀を、
彼の手が事もなげにキャッチする。同時に、魔鎧兵も駆動を止めた。
一瞬の静寂ののち。
「デタラメだねえ、ホントに。」
ガンダルクの言葉と、二番刀を鞘に納める音とが重なる。
見守る皆も、ほぼ呆れ顔だった。




