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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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メリゼを思う者たち

「それで、暗殺獣人どもはきっちり仕留めたんだろうな?」

『ああ。3人とも息の根を止めた。そこは心配するな。』

「ギリギリだったな…。」

『あ、ちなみに1人は、他でもないメリゼ王女が止めを刺したぜ。』

「は!?…お前ら何やってんだ!?ってか、何やらせてんだよ!?」

『本人がやる気だったから…』

「おぉい!!」


ルクトとの通話を続けるピルバスのすぐ背後で、むくりとひとつの影が

起き上がった。血走った獣の目を、無防備な彼の背に向ける。

傍らにいたアルフたちが、その影に気づいた瞬間。


「シャアァァァァァッ!!」


声とともに跳躍したその影は、村に残留したフィーグの仲間だった。

止めを刺されてはいなかったのか、傷を負いながらも殺意の塊となって

ピルバスを引き裂こうとする。


「危な…!!」

「うるせー。」


ドン!

顔だけ振り返ったピルバスが、鞘に収めたまま脇においていた剣を少し

持ち上げる。同時に、後ろに向けていた柄尻からいきなり刃が伸びた。

そして襲いかかろうとしていた獣人少女の肩を貫き、壁に突き刺さる。


「ギャッ!?」


串刺しにされた痛みと驚愕で両目を見開いた獣人少女を、ピルバスが

あらためて睨み据える。


「…仲間が死んだから逆上したか?だが殺ったのは俺たちじゃないぜ。

お前も暗殺が仕事なら、そんな事でいちいち取り乱すんじゃねえよ。」

「……!!」


気圧される様子もなく、獣人少女はなおもピルバスに牙を剥き出す。

アルフとルブホの2人は、その様に表情を曇らせた。

やがて、彼らと反対側に座っていたスランナグがゆっくりと告げる。


「ピルバス。」

「何だ。」

「やっぱり、そいつは生かしてても無駄よ。命惜しさに何か話すような

タマじゃないだろうし、ウルムスの差し金なのは最初から分かってる。

余計なリスクは背負わなくていい。今この場できっちりと仕留めな。」

「…分かった。」


低い声で答えたピルバスは、すっと立ち上がって剣の柄を握り直した。

そして、なおも戦意喪失しない獣人少女に粛々と告げる。


「最後の機会をやるよ。ここでこの俺を殺せたら、そのまま逃げな。」


次の瞬間。

剣の柄の反対側から伸びていた刃が縮み、壁からも相手の肩の傷からも

一気に抜けた。自由になった少女はグッと右足を踏み込み、一足飛びで

ピルバスの間合いの中へ飛び込む。負傷など感じさせない、まさに獣の

強靭さだった。ピルバスは慌てず、正方向の刃を鞘から抜き放つ。


「ピルバスさ…」

「うらあッ!」


一瞬だった。

柄の両方から同じ長さの刃が伸びた剣を、ピルバスは裂帛の気合と共に

大きく2回転させる。その剣閃は、螺旋のような複雑な軌道を描いた。


ザシュッ!!


獣人少女の体は、肩に入った斬撃で3つに切り裂かれた。

勢いそのまま吹き飛ばされ、派手な音と共に転がり、そして沈黙する。


「お仲間と仲良くしてな。」


一方の刃を完全に縮めたピルバスがポツリと呟き、ふうっと息をつく。

奇襲時に絶命した1人を合わせて、全部で5人。


キンドラ・フェッツは、全滅した。


================================


『おおい、そっちこそ大丈夫か?』


ブローチからルクトの声が響いた。


『なんか、すごい音が聞こえたぞ。…アルフさん?聞こえてます?』

「あ、はいはい。えと…」


場の惨状をチラ見しつつ、アルフが努めて何気ない口調で答える。


「大丈夫…に、なりました。」

『なりました?』

「ええ。ご心配なく。」


「…とにかくだ!」


あたふたと戻ってきたピルバスが、わざとらしく声を荒げる。


「お前らは一刻も早く、メリゼ様をシャンテムの居城までお連れしろ。

それで全てが解決するってわけじゃないが、そこにいると公表できれば

少なくともウルムスがこんな暴挙に出る事だけはなくなる。いいか?」

『ああ。あらためて肝に銘じる。』

「とりあえず、それまでは俺たちもこの村に留まってやる。似たような

刺客がまた送り込まれるとしても、ウルムスでも雇える程度の連中なら

俺たち4人とこの2人で迎撃できるからな。が、長引かせるなよ!」

『重ね重ね感謝するよ、ピルバス。他の3人にも伝えといてくれ。』

「いいか、こいつは大きな貸しだ。憶えとけよ?それじゃ…」

『あ、ちょっと待ってくれ。』

「…何だよ?」


ほんの少し、ゴソゴソと何か動かす音が聞こえた。


「おい聞いてんのかよルクト。」

『もしもし?』

「あ?…誰だアンタは。」

『初めまして。メリゼです。』


「え?」


途端に、ピルバスは硬直する。


「…え?えと…メリゼ王女…?」

『はい。』

「あ…いやその…し、失礼を…」

『私の友人である、お2人を守って頂いた事。心より感謝致します。』

「えと…は、はい。」

『今はこんな状況ではありますが、落ち着いたら必ずお礼を致します。

だから皆さんも、くれぐれもお気をつけて。今を乗り越えましょう。』

「はい。ありがとうございます。」

『それでは、また!』


………


「ピルバス?」

「…俺、王女と話をしちまったよ。いいのか俺なんかと?」

「いや、いいに決まってるじゃないですか。恩人なんですから。」


通信が切れた今もなお恐縮しているピルバスに、アルフが笑いながら

そう告げる。傍らのルブホも思わず苦笑していた。


「メリゼ様は、いい人ですよ。」

「そ、そう…ですか。」

「ええ。いろいろと話しましたし、一緒に戦いもしましたからね。」

「戦いって…大丈夫なんですか?」

「強い人ですから、ご心配なく。」

「…なるほど。」


怪訝そうだったピルバスも、2人の言葉をようやく信じたらしい。

スランナグと顔を見合わせ、やがて笑みを浮かべる。

そして、あらためてアルフとルブホに向き直った。


「お二人は、ジリヌスからこの国に来たんですよね?」

「ええ。仲間たち4人と一緒にね。怪しい武装集団と思われていたと、

ルクトさんから聞きました。それで人違いで襲われたって。」

「ああー…、そう言えば。」

「あったわね、そんな事が。」

「巡り巡って、こうしてお会いする事ができたんです。…何と言うか、

ルクトさんたちと、メリゼ王女との出会いの結果なんでしょうね。」

「確かに変な縁ですね。」


ピルバスの言葉に、4人は声を揃え大いに笑った。


「そんじゃまあ、ここを片付けて…リアンホとカルドスの2人も呼んで

食事でもしましょうか。あれこれ、聞いてみたい事も多いですから。」

「喜んで。あ、それと…」

「はい?」

「さっきの穴を塞いでおかないと、セルニルちゃんが泣きますよ。」

「穴?」

「剣を刺した壁の穴です。ここ一応宿屋ですから。」

「あっ…」


再びピルバスが硬直する。

いちいち反応が分かりやすい彼に、アルフもルブホも苦笑した。


出自も立場も全く違う自分たち。

それでも、王女メリゼを中心として互いを知る事はできた。

ジリヌスだのメグランだの、人だの魔人だの人魔だのは一切関係ない。

目指すものが同じなら、それで十分なはずだ。


笑い合える自分たちが、どこまでも誇らしい。

そんな午後だった。

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