表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
130/703

持つべきものは

最後に落とした立方体は、そのまま墓標になった。

街道からはかなり外れているので、もう開き直ってそのままにする。


「暗殺者の墓に銘はいらないよ。」


ガンダルクが事も無げに言ったその言葉には、妙な説得力があった。


================================


「ルクト!」

「ルクトさん!」


ようやく追いついた皆の声を受け、長剣を確かめていたらしいルクトが

ゆっくりと振り返った。


「大丈夫でしたか!?」

「ええ。そちらは?」

「見てのとおり、全員無事です。」


ラジュールが答え、他の者も頷く。その様に、ルクトも笑みを見せた。


「…んで、やっぱり例のアレ?宰相ウルムスの差し金ってやつ?」

「本人は何も言ってなかったけど、まあ間違いないだろうな。」


道の脇の茂みに並べられたフィーグとニィーグの遺体を確認しながら、

ルクトとガンダルクがそんな言葉を交わす。


「もう、なりふり構っていられないらしいな。こんな魔人の暗殺者まで

差し向けてくるとは…。」

「…そうまでして、私という存在を管理したいわけですか。」


プローノとメリゼの声は暗かった。

しかしそんな重苦しい場の空気を、ひときわ大きな声がかき消す。


「ハイハイ深刻にならない!まずは無事を喜んで、それから連絡!!」


皆を圧倒するトッピナーの大声に、自然と笑い声が起こった。


「…確かにそうですね。」

「今は暗くなる時じゃないか。」

「よし、じゃあ連絡だな。」


気持ちを切り替えたらしいルクトが取り出したのは、アミリアス謹製の

あのブローチだった。外縁の部分を指で擦ると同時に、かすかに光る。


場にいる全員が注目する中、ルクトは努めて何気ない口調で言った。


「聞こえますかアルフさん?」

『ええ、もちろん!』


間髪を入れず、聞き覚えのある声が明瞭に聞こえてくる。

それはまぎれもなく、マルマ村への残留を決めたアルフの声だった。

返答の早さから推察するに、連絡が来るのをじっと待っていたらしい。

大柄な彼女があの小さなブローチを握り締めている様子を想像し、皆は

ちょっと苦笑を浮かべた。


『メリゼ様は無事ですか!?』

「大丈夫。しかも、今回もかなりのご活躍でしたよ。あなたたち2人が

害されたって事実が、よっぽど腹に据えかねたみたいですね。」

『…恐縮です。』


そう答えたのはルブホらしい。

2人の声に、プローノたちも安堵の表情を浮かべる。

と、その直後。


『え?ああ、はいはい、どうぞ。』


向こうからの声が何やら遠ざかり、そして明らかに別人とわかる声が

あらためて飛び出してきた。


『本当に大丈夫なんだろうな!?』

「…ああ、もちろんだとも。」


いきなりの大声に少し苦笑しつつ、ルクトはブローチを掲げて答えた。


「本当に助かった。あらためて礼を言うよ、ピルバス。」


================================


話は、1日前にさかのぼる。


ラキアノン急行を降りたルクトたち一行は、順調な旅を続けていた。

その夜、いきなりブローチに反応が生じたのだった。


「…どういう事だよアミリアス?」

『いや、考えられませんね。あれに込めた魔力など、もうとっくに…』


警戒するのは当然だった。

現在、これと同じ物を携行しているのは、ルクトたち3人だけである。

ドラグリア掃討の際に他の面々にも配ったものの、それはアミリアスが

込めた魔力が尽きると効力を失う。だからこそ、今この時点で連絡が

来るという事自体が不審だった。


しかし、答えない訳にはいかない。

何らかの罠であったとしても、その内容を把握しなければ後れを取る。


「…誰です?」


できるだけ小声で、ルクトがそっと応答した刹那。


『さっさと出ろ馬鹿野郎!!』


いきなり聞き覚えのある怒声が飛び出してきた。

まったくの予想外だったその声に、さすがのルクトも瞠目した。


「…お前、ピルバスか?」

『そうだよ!』

「何でお前が…ってか、どうやってこれに連絡を!?」

『マルマ村で別れた、2人の兵士に渡しただろうがよ!』

「はぁ?」


言っている事自体は分かるものの、どうにも話がつながらない。

いつの間にか、場の全員がルクトの周りに集まり聞き耳を立てていた。


「…それって、ルブホさんとアルフさんの事だよな?」

『えーと…ああ、そうらしい。』

「って、つまりお前は今マルマ村にいるって事なのかよ。」

『俺だけじゃない。他の3人もだ。このブローチで話ができてるのも、

スランナグが魔力の補充をしたからだよ。分かったか?』

「分かったけど…どういう話だ?」

『お前らの甘さが招いた事だよ。』

「え?」


『宰相ウルムスが遣わした獣人に、ここの2人が襲われた。おそらく、

何らかの方法でお前らがアルバニオ街道から国境を抜けた…って事実を

察知したんだろう。んで、結果的にこの2人が目をつけられたんだ。』

「そんな…」


すぐ隣で話を聞いていたシャリアが絶句する。


「それで、2人は!?」

『落ち着けよ、らしくもない。』


ルクトの詰問に答えたピルバスは、少し口調を柔らかくした。


『危ないとこだったし多少は怪我もしたけど、ちゃんと無事だから。』


================================


そしてピルバスは、ここまでの経緯を簡単に説明した。


チョルサの街で出会った際、彼らはルクトたちを信用していなかった。

いくら何でも、ウォレミスの街での戦いを全く知らないわけがない。

いや、きっと関わっているはずだ。そう考えたものの、あえてその場で

深く詮索する事は控えた。何しろ、大きな戦いがあった直後である。

もし下手に突いて大ごとになれば、メリゼが危うくなるかも知れない。

万一の可能性を考え、あえて彼らは情報を提供するにとどめた。


ルクトたちと別れた後、彼らは再び王都に戻った。そして、もう完全に

「メリゼはここにはいない」という前提で情報を収集した。宰相からの

情報に関して完全に疑ってかかり、裏をかかれないよう注意を払った。

結果、獣人の暗殺者集団が国境へと派遣されたのを察知したのである。


普通なら、勘の鋭い獣人の尾行などできない。しかしスランナグの使う

隠蔽魔術によって、何とかこちらの存在を気取られずについて行けた。


そしてマルマ村に辿り着き、役場でドラグリア掃討の一件を知った。

チョルサの街のギルドでアルフたち2人を見た覚えが、確かにあった。

その時点で、ルクトたちがこの村に来ていたという確信を得た。


予想通り、獣人の一団は宿屋の中で2人を襲撃した。もちろんその事は

把握していたものの、うかつに手を出せる状況ではなかった。

何しろ、相手は魔人の暗殺者集団。しかも人数もこちらより1人多い。

アルフたちが捕らわれた事も含め、下手すれば返り討ちにもなり得る。


だから、3人が先行してモーグへと向かうまで手を出さなかった。

残りが2人になった時点で奇襲し、その場で斬り伏せた。

それからあらためて、2人に事情を聞いた。


『…ってなわけよ。』

「ありがとう。」

「感謝する。」

「本当にありがとう。」


ルクトだけでなく、プローノたちも口々に感謝の言葉を述べた。


確かに彼の言ったとおり、見通しが甘かったのは間違いない。その結果

ルブホとアルフが窮地に陥った。

国境を無事に越えられたと、全員が少し油断していたのかも知れない。


だからこそ、ピルバスたちに対する感謝の言葉は絶えなかった。


『分かった分かったもういいよ。』


いささか不機嫌だったピルバスも、皆の感謝に少し照れた。


誰にも、完璧に展開を読む事などはできない。それが現実である。

そんな時に、誰かとの縁がどこかで自分たちを支えてくれる。


己の甘さを痛感すると共に、ルクトたちは出会いの大切さというものを

あらためて実感していた。


『早けりゃ明日にも、暗殺者どもはお前たちの前に現れるぞ。』

「だろうな。」

『こっちは心配ない。だからお前は暗殺者を倒せ。絶対にだ。』

「ああ、それは任せてくれ。」

『よし!』


ピルバスの予想は的中した。

そして襲撃が成され。

ルクトたち一行は、そんな暗殺者を見事に迎撃してみせたのである。


やっと、皆は心から安堵していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ