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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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3対1

「…何だよお前ら、その目は。」


奇襲を防がれた事への困惑が去ったツィーグは、怒りと蔑みの感情を

あらためて露わにしていた。

自分を睨み据える者たちの視線が、あまりにも不愉快だったからだ。


彼女たちのような獣人系の魔人は、他者の身体的特性を感知する能力に

非常に長けている。それはつまり、相手の強さを見ただけでもある程度

計れるという事を指す。まさに今、この状況のように。


メリゼ王女と侍女とを除けば、敵は全部で5人。

いや、前方から馬で駆け戻ってくる者を加えれば、全部で6人となる。

この中で、警戒すべきはただ一人。


見た目は完全に人間でありながら、紛れもない純血の魔人。おそらく、

レメントと呼ばれる変異体だろう。この女の内在能力は油断できない。

それでもこの森でなら、少なくとも機動力では後れは取らないはずだ。

こいつさえ何とかできれば、対象の捕獲と他の者の殲滅は可能だろう。


分析に意識を集中する事で、怒りも苛立ちも収まる。冷静さが戻る。

フッと息をついたツィーグの目に、あらためて残忍な光が宿った。


================================


「…キンドラ系の獣人か。」


そんなツィーグの様を見つめていたガンダルクが、淡々と呟いた。


「プローノ。」

「ああ。」

「あっちはルクトが仕留める。ま、それは間違いない。任せていい。」


さも当然といった口調で告げたその言葉に、ツィーグが毛を逆立てる。

しかしガンダルクは、そんな相手の怒りを丸ごと無視した。


「じゃあ、こっちは任せていい?」

「もちろんだ。…いいな?」

「ええ。」

「はい。」


プローノの問いかけに、イバンサとシャリアの2人が迷いなく応える。

そこへちょうど、ラジュールの駆る馬も戻ってきた。すぐに飛び降り、

プローノのすぐ傍らに並び立つ。


「…こいつが、もうひとりの襲撃者ですか。」

「らしいな。それで、向こうは何人だった?」

「2人でした。私が見た限りでは、1人はもう死んでいます。」

「…何ィ!?」


甲高い声を上げ、ツィーグは足元の石をガリッと爪で砕いた。


「合計で3人。これで全部だな。」

「そうみたいね。」


相手の怒りはまったく意に介さず、プローノとガンダルクが確認する。

落ち着いていたはずのツィーグは、再び凄まじい殺気と怒りの気配を

全身にまとっていた。


「…お前ら、全員殺してやる!!」

「こっちの台詞だ。」

「ああ。」


怯む事なく応えたのは、イバンサとシャリアの2人だった。

それぞれ1本の槍と1対の剣を腕に携え、ゆっくりと前に歩み出る。


「何だ?…お前らが最初に死ぬか?…人間の雑魚風情が。」

「貴様ら、ルブホとアルフの2人を傷つけたらしいな。」

「ならば、俺たちの手で落とし前をつける。それが俺たちの誇りだ。」


「…あぁ?」


その言葉を受けたツィーグの顔が、歪んだ笑みで大きく裂けた。


「何だ知ってたのか。…まあいい。それで2人がかりか。いいぜェ?」

「いいや。」


そこでラジュールが口を挟んだ。


「2人じゃない。3人だ。」


================================


2人は、迷わなかった。

それぞれの武器を構え、ツィーグに向かってゆっくりと歩を進める。

ガンダルクもトッピナーも、彼らに何か言ったりはしなかった。


沈黙。

静寂。


間合いが、少しずつ狭まっていく。

もっとも攻撃のリーチが長いのは、イバンサの槍だろう。

その攻撃の射程まで、あとわずか。

なおも近づく。

ゆっくりと。


そして2人が同時に歩みを止めた、その瞬間。


ダン!!


まるで互いにタイミングを合わせていたかのように、ツィーグが一気に

跳躍した。放物線を描くのではなく一直線の、砲弾を思わせる軌道で。


刹那。


ダガン!


またしても、あの立方体の岩が出現した。それも4つが並んだ配置で。

突進するツィーグとイバンサとの、まさに衝突すべき空間に。


「チイィィッッ!!」


衝突寸前で急停止したツィーグが、怒りの声を甲高く張り上げる。

しかし彼女は、猛り狂いながら妙な違和感を覚えていた。


目の前の立方体。

まるで計ったように、縦横2個ずつがピッタリと空間に並んでいる。

しかし、その中心部に小さな隙間が開いていた。


何だ、この妙な隙間は。

防壁として出したのなら、どうしてこんな中途半端な隙間を設ける。

まるで…


次の瞬間。


ドスッ!!


「グオッ!?」


まさにその隙間から、弾丸のような勢いで槍が突き出されていた。

大きさも高さも、まさしくこの槍を通すための隙間だったらしい。

気づいた時には、穂先は深々と右の肩に突き刺さっていた。

間髪を入れず、槍が一気に後方へと引き戻される。


ドゴォン!


「ガアッ!」


肩に槍の穂先が刺さったままだったツィーグの体が、引っ張り込まれて

目の前の立方体に激突した。衝撃で槍が抜け、隙間の向こうに戻る。

と同時に、4つの立方体が落ちた。


「ッ雑魚があァァァ!!」

「こっちだよ。」


猛り狂ったツィーグのすぐ右側に、2本の剣を構えたシャリアがいた。

素早く向き直ったツィーグの左腕が唸りを上げ、鋭い爪が襲い来る。

シャリアは動かなかった。


ガギィィン!!


またしても立方体が出現。今度は、8個がシャリアの目の前に並んだ。

振り下ろされた爪の一撃によって、そのうちの1つが大きく削れる。

怒りと痛みによって我を忘れていたツィーグの目に、再び映った隙間。

今度は点ではなく、線だった。

縦と横に、何かの導線のように…


ザシュッ!!

ザシュッ!!


やはり、考える間もなかった。

その隙間から繰り出された2連続の斬撃が、目の前にいたツィーグの

体を縦横に深々と切り裂いていた。


迷いのない剣閃。その軌道に沿って完璧に設けられた、縦横の隙間。

直前の槍を通した穴も含め、まさに神がかった攻守の連携だった。


「ぐう…ッ!!」


立方体が全て地に落ち、ツィーグは傷口を押さえて後ずさる。

怒りを上回るほどの恐れが、彼女の心を塗りつぶしつつあった。


何なんだ、この人間たちは。

力量でははるかに及ばないはずだ。なのに、何なんだこの連携は。

どうしてあたしは、これほどまでに傷を負っているんだ。


ダメだ。

今はもう、離脱するしかない。

ここはいったん退いて、体勢を立て直してから…


何とか足に力を込め、跳躍するため姿勢を沈めた刹那。


頭上に、影が落ちたのを感じた。

しかしもう、足は込めた力を一気に解放してしまっていた。


ダン!

ドガン!!


真上へと飛び上がろうとした体が、真上に出現していた大きな立方体に

まともに激突した。地面に叩きつけられた全身に、鈍い激痛が走る。


しかし、まだ終わりではなかった。

何度も目にしていたツィーグには、次に何が起こるかは分かっていた。

分かっていても、もうどうする事もできなかった。


視界が塞がる。


最期に見えたのは


槍の男でも

二刀流の男でも

もう一人の男でもなかった。


怒りに満ちた目で自分を睨みつけている、あの王女だった。


「アルフさんたちお二人を。私の、大切な友人を傷つけた者を。」


メリゼは、そこで声を爆発させた。


「許せるかァァ!!」



ドオォォォン!!


巨大な岩が落下し、ツィーグの体を完全に押し潰した。

一瞬の地響きが止み、静寂が戻る。



「俺が3人目とは言ってないぞ。」



ポツリと呟いたラジュールの言葉。

それだけが、やけに鮮明に響く。


勝敗の決した森は、静かだった。

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