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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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森の中の迷い人

第一都マンデへ続く森は、何とも不思議な道程だった。

きちんと整備された道がくねくねと続き、途中には店や宿などもある。

しかし道の左右にはずっと等間隔で木が並んでおり、その背の高さは

道中のいかなる建物も凌いでいる。その一方、上の方は丁寧に剪定が

なされており、日光がまだらに道を照らす。横の閉塞感と縦の開放感。

”迷い込む”という形容が、これほどピッタリな場所も珍しいだろう。


街道とは言え、さすがに人や馬車の往来は多くない。モーグ王国の中に

あってさえ、この街道はそれほどに特異な場所なのかも知れない。


未知への関心に年齢は関係ない。

プローノもトッピナーも他の者も、この国の奇異に目を奪われていた。


================================


翌日の午前。


ツリーハウス的な宿で十分な休養を取った一行は、早い時間に発った。

事前に得た情報が正確なら、急げば今日中に森を抜けて第一都マンデに

着けるはずである。来訪経験のあるメリゼでも、さすがにこんな手段で

こんなルートから赴いた事はない。だからこそ、早く着きたかった。


「ま、焦らず急ごう。」


非常に的確な表現で方針をまとめたガンダルクの号令に、皆が頷く。

懸念事項は今も多いものの、直近の問題はもう片付いている。だから、

とにかく森を抜ける。女王の在所はもうすぐだ。気づけば早足だった。


と、そんな折。


「…ん?」


ラジュールと共に先頭を進んでいたルクトが、道の脇に何かを見つけて

少し進行速度を落とす。ほどなく、隣のラジュールも視認した。


「人…いや魔人ですね。」

「らしいですね。ちょっと行って、様子を見てきます。」

「お気をつけて。」


ラジュールに断りを入れたルクトが馬を駆けさせ、なおも動かないその

魔人に近づいていく。どうやら2人連れの獣人であり、疲労か負傷か、

とにかくどちらもまともに動けない様子だった。


ちらっと背後を見やったルクトは、やがて馬を下りて2人に近づく。

ラジュールも後続の者たちも、まだかなり後方だった。


「おい、大丈夫か?」

「…あなたは?」


屈み込んで声をかけると、手前側にうずくまっていた一人が反応する。

こちらを向いた顔にはあどけなさがあった。人間に似た顔立ちながら、

頭には大きな獣耳が伸びている。


「なるほど獣人だな。」

「……」

「こんな所で何をしてるんだ?」

「……」


警戒しているのか、それとも単純に答えたくないのか。しかし少女は、

やがてそっと自分の足首を見せた。黒い金属製の輪がはめられている。

反応しないもうひとりの足首にも、同じ輪ががっちり食い込んでいた。


「…奴隷って事なのか。もしかして逃げ出してきたのか?」

「……」


やはり答えはしないものの、少女は黙ったまま小さく頷いた。

事情を概ね察したらしいルクトは、ちょっと黙って何かを考える。

振り返って見れば、ラジュールたち他の面々はもうすぐの位置だった。


刹那。


「!?」


いきなり背中に荷重がかかったのを感じ、ルクトがパッと振り返る。

いつの間にか、問題の少女が背中にしがみついていた。


「おいどうした、危ないぞ?」


鞘に収めた長剣に覆い被さっている事を察し、ルクトが注意する。

しかし、少女は離れようとしない。


「…連れて行って下さい。」

「マンデへか?」

「どこでもいいんです。とにかく、奴隷商から遠ざかりたくて…」

「いや、俺ひとりで決められる状況じゃないんだ。一旦降りてくれ。」

「…見捨てないでもらえますか?」

「ああ、大丈夫だ。心配すんな。」

「…ありがとう。」


ようやく荷重がなくなる。どうやら降りてくれたらしい。

やれやれと立ち上がったルクトが。あらためて少女に視線を向けた。


「そういやお前、名前は?」

「…ニィーグです。」

「こっちの子は?」

「フィーグ。…あたしの姉です。」

「姉妹だったのかよ。」

「すみません、お手を煩わせて。」

「いや、別にいいけどな。それより姉ちゃん大丈夫か?」


なおもうずくまったままで動かないフィーグに、ルクトが気遣わしげな

視線を向ける。


「お気遣いありがとう」

「いいって。気にするな。これ…」



「優しいですね、ルクトさん。」


「…何だと?」


向き直った刹那。

フィーグは、影のように動いた。


================================


視界の隅で、相手が跳ね起きたのが見えた。

初めて見えたその顔に、隠し得ない殺意が宿っていた。


とっさに抜こうとした背の長剣は、まるで鍵でもかけられたかのように

全く動かなかった。ほんの数秒前、抱きつかれた時に何かされたのか。


その挙動の遅れは、決定的だった。


一瞬で懐まで飛び込んだフィーグの手に、武器らしきものはなかった。

しかし、武器ならばそこにあった。


縮めた状態でルクトが懐中に収めていた二番刀を、フィーグの右手が

素早く奪い取る。鞘を抜くまでに、1秒もかからなかった。


近い。

間合いなど、ほぼ存在しない密着。

遠目には、親しげに話し込んでいるようにしか見えないであろう距離。


かわす間など、なかった。



ドスッ!!


ナイフほどの刀身が、吸い込まれるかのようにルクトの腹を貫いた。

ほんのわずかな防具の隙間を狙う、精密機械のごとき必殺の一撃。


「…グフッ!!」


一瞬の間を置き、ルクトは顔を歪め血を吐いた。

その様子を、すぐ背後に立っていたニィーグがさりげなく背中で隠す。


ラジュールの位置からも、その様は見えなかった。


「ゴメンなさいね、ルクトさん。」


顔を寄せたフィーグが、小さな声でそう囁く。

ルクトは答えられなかった。


「どうでしたかー、ルクトさん?」


追いついてきたラジュールの声が、木立の中に響く。



頭上から注ぐ日差しは、そんな皆の姿を静かに照らし出していた。

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