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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第四章 激動のモーグ王国
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忍び寄るキンドラ・フェッツ

「なかなかに刺激的ですね。」


ラジュールがしみじみと呟く。


「ああ。ジリヌスにいたままなら、まず知らなかった世界だな。」


答えるプローノも感慨深げだった。

モーグ王国第一都・マンデを目指す道中。彼らは南下を続けている。

馬に乗ってはいるものの、当の馬は動いていない。乗った姿勢のまま、

足元が丸ごと動いているのである。


モーグ王国と、アステアでのみ運営されているという、大型輸送手段。

その名も「ラキアノン急行」。

曲がりくねって続く白い「線路」の上を、巨大な足場が進んでいる。

馬の疾駆よりは遅いものの、貨物の搭載量と移動距離という意味では

かなり圧倒的な交通手段である。


もちろん、いわゆる鉄道ではない。そこまで技術は進歩していない。

線路と言われる白い線は、実は生物の分泌物が凝固したものである。

ラキアノンとは、巨大な多節足蟲。ムカデのような生物の事を指す。

この蟲は自らの分泌物によって道を作り、その上を移動して生活する。

巣や餌場のある場所を毎日、正確に決まった時間に往来している。


その外殻は非常に頑丈であり、また加工されてもいっさい気にしない。

なので背中部分に貨物用スペースを設け、その上に人や動物、荷物など

乗せて移動手段にするのである。

成虫になったラキアノンは土のみを食べるため、人間やその他の生物に

全く興味を示さない。己の縄張りを侵害されない限り、襲ってくる事も

ほぼない。そもそも、滅多な事では「顔」を地面の上に出してこない。


かくして、その活動進路上には駅が作られ、交通網を形成している。

ラキアノンそのものはかなり昔から生息していたものの、こんな風に

運用されるようになったのはほんの数十年前からに過ぎない。

ガンダルク亡きあと、アステアから流れてきた魔人の技術者たちにより

運用術がもたらされ、今日に至る。


メグラン以上にアステアの文化を、積極的に取り入れてきたモーグ。

このラキアノン急行は、最たる結果と形容すべきものだった。


================================


「降りまぁーす。」


ガンダルクの掛け声と共に、全員が貨物スペースから馬ごと降りる。

スロープが設けられており、馬車も問題なく降ろす事ができた。

笛が鳴ると共に、再びラキアノンがゆっくりと動き出す。


「…怖かった…」


青い顔をしたアルメダが、遠ざかるラキアノンを見てため息をついた。

一方メリゼは平気な顔をしている。どうやら初めてではないらしい。


「幼い頃、リスベル様と共に何度か乗った事がありましたからね。」

「あ、はあ。なるほど…。」


グルークの姿に失禁していた過去を考えると、何とも言い難い。

ルクトたちの反応は半端になった。

ともあれ、かなり馬を休ませる事が出来たのもまた事実である。

今まで相当な無理をさせていたのは間違いないので、マンデまでの道を

歩かせずに済んだ事が喜ばしい。

アルメダには悪いと思ったものの、結果的にはいい休養にもなった。


「…とは言え、まだマンデは遠い。ここからは馬ね。」

「やっぱりそうですか。」

「さすがにあんなのを第一都のすぐ近くまで走らせるってのは、ね。」

「なるほど…。」


ガンダルクの説明に、ラジュールが大きく頷いた。


「しかし、さすが詳しいですね。」

「ふふふん。まあこう見えて、昔はアステアの魔王でしたからね。」


少し胸を反らし、ガンダルクが皆にドヤ顔で説明する。


「アステアではもっと大きな個体が運用されてるし、地下路線なんかも

国中を走ってるよ。あたし専用に、直通路線なんかも作られてたし。」

「すげえな、さすが魔人国。」


ルクトが素直な感心の言葉を述べ、線路に目を向けた。


「…こんなのが世界中に広がれば、さぞ交流も盛んになるだろうな。」

「でしょうね。だけど…」


同意を示すトッピナーの声が、少し低くなる。


「技術以前に、まずは偏見だの差別だのを取り払わなきゃね。」

「そうですね。」


したり顔で頷くメリゼ。やがて皆の視線が、アルメダに向けられた。


「そろそろ大丈夫?」

「え?…あ、ハイ大丈夫です!!」


自分の調子が戻るまで待ってくれていた…という事実に今さら気づき、

アルメダは慌てて背筋を伸ばす。


笑い合う皆の連帯感に、どことなく家族のような雰囲気があった。


================================


かなり南下したものの、目的地たる第一都マンデはまだ見えていない。

ここから街道を辿り、目前に広がる大きな森を抜ける必要があった。


「ま、ここから先はそんな言うほど危険でも秘境でもないよ。だから、

あんまり気負わず進んでいこう。」

「どのくらいの道のりですか?」

「普通に進んで2日ってとこかな。途中には宿泊施設とか村とかある。

無理に急ぐ必要はないからさ。」

「なるほど、了解した。」


こんな時、経験者の存在は心強い。そしてこの百年で、ガンダルクが

もっとも長期に渡って逗留していたのがこのモーグ王国だったらしい。

そんな彼女の引率なら、まあ恐らく間違いはないだろう。

気楽に見えて、やはり彼女は先代の魔王である。そこは誰も疑わない。


ここまで来れば、あと少しだ。

誰の胸にも、そんな思いがあった。


そして。


================================


「来たね。」

「遅いなぁホント。」

「ま、おかげで先回りできたし。」


ガンダルクたち一行の姿を、遠くに望む木の枝の上。

3人の獣人がその瞳を光らせつつ、言葉を交わしていた。


「ニィーグ。」

「あい。」

「ツィーグ。」

「はぁい。」

「狙いは分かってるね?」

「モチよ。」

「連れ去るべきは王女メリゼ。」

「殺すべきはルクト・ゼリアス。」

「「でしょ?フィーグ姉。」」

「よく出来ました。」


リーダー格らしきフィーグに耳裏を撫でられ、2人は喉を鳴らす。


「んじゃあ、仕事は明日ね。」

「了ォ」

「解ッ!」


暗殺部隊「キンドラ・フェッツ」。

マルマ村からこの地へやって来た、幼さと残忍さを併せ持つ獣人たち。



その狂気の牙と爪が、メリゼたちに迫りつつあった。

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