囚われた2人
「起きな、デカブツ。」
バシャッ!!
酒をかけられたと、意識を取り戻しながらアルフは気づいた。
座ったままの姿勢であり、後ろ手に柱か何かに縛られているらしい。
顔を上げると、ちょうど向き合った格好でルブホも縛られていた。
やっぱり。
彼までが捕らえられている現状に、アルフはさほど驚かなかった。
最初から自分たち2人が狙いだったとすれば、さぞ周到な襲撃だろう。
複数の魔人による奇襲に対応できるほど、自分たちは強くはない。
受け入れるしかない、現実だった。
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「さあてと。」
視線を向ければ、受付でチラとだけ見かけた獣耳の魔人に間違いない。
全員が女性。見た目の年齢は少女と形容しても差し支えないだろう。
しかし魔人の年齢など、外見からは判断できない。それも確かな事だ。
自分より先に意識を取り戻していたらしいルブホも、同じように相手を
見極めようとしていた。
人数は全部で5人。確か、来訪時も同じく5人だったはずだ。
いわゆる「獣人」と呼ばれる種族。このメグランでは何度も見かけた。
ルクトやガンダルクたちの話では、かなり身体能力が高い魔人らしい。
では一体、何の目的で…
「あんたがアルフ・ゴース。んで、そっちの男がルブホ・マフケンね。
どっちも、ジリヌスから来た兵士。…合ってるわよね?」
アルフは、さっと血の気が引くのを感じていた。
まさかそこまで明確に、自分たちの情報を握られてしまっているとは。
「どうやって知ったのかって?」
アルフの動揺を見透かしたように、リーダーらしき1人がニッと笑う。
そして、グッとアルフに顔を寄せて続ける。
「あんた自身が話してくれたのよ。こんな風にね。」
そういった瞬間、彼女の瞳孔が獣のそれに変化して怪しい光を放つ。
その光に射られたアルフの思考に、強烈な圧力がかかった。まるで、
頭の中身を外から引きずり出されるような感覚。何とか抗うものの、
拒めば拒むほど鋭い痛みが走る。
「あー、無理しなくてもいいって。話はもう全部聞いてるからさ。」
そう言うと、リーダー格はあっさり視線を外した。同時に、嘘のように
不快な圧力も消失する。
「意識があれば、そんな風に抵抗もできる。だけど気絶してる状態じゃ
どうにもならないよ。聞いた事には全部答えてくれた。2人ともね。」
その言葉に、アルフは唇を噛んだ。
目を覚ますまでに、問われるがまま情報を喋ってしまったという事か。
プローノの事もルクトたちの事も、そしてメリゼたちの事さえも。
自分たちの無力さと不甲斐なさが、どうしようもなく悔しかった。
「まあそんなに嘆かないでよ。別に皆殺しにする必要はない。こっちも
余計な戦いはしたくないし、王女は特に生かして連れ帰れば追加報酬。
ルクト・ゼリアスがいる…ってのは確かな話らしいし、まあこいつさえ
殺してしまえば後はザコよ。自分はガンダルクなんだとか言い張ってる
バカ女も一緒に葬ってやるよ。」
「…ッ!!」
力を入れると同時に、柱が揺れた。しかし相手の女は気にも留めず、
立ち上がって仲間たちに告げる。
「向かう先も人数も判った。なら、全員で行くとかえって疑われるね。
ニィーグは一緒に来るとして、残り1人を誰にするかを決めな。」
「えー行っちゃダメなの?わざわざこんな辺鄙な村まで来たのにさあ。
とんだ貧乏クジじゃん、それ。」
色黒な少女が、いかにも不服そうな顔で抗議する。しかし提案を出した
リーダー格は、さらに口元を歪めて笑った。
「首尾よく王女を捕まえられたら、その時はちゃんと連絡するよ。
そしたら、好きにしていいから。」
「好きにって、どの程度までよ?」
「殺し放題。この2人はもちろん、宿屋の人間も好きにしな。さすがに
村ひとつってのはヤバいけど、まあ多少無茶しても別に…」
バキッ!!
渾身の力で柱をへし折り、アルフが立ち上がった。そして目の前の女に
飛び掛ろうとする。しかし、それも無駄な足掻きだった。
「じっとしてろ。」
再び女の目が光を放つと、アルフの体は凍りついたように硬直する。
中途半端な姿勢で止まったアルフに対し、女は抑揚のない声で告げた。
「もうあんたに用はない。せいぜい脅迫のネタくらいだよ。…だから、
身の程を弁えて大人しくしてな。」
ドカッ!!
容赦ない蹴りを胸元に叩き込まれ、アルフの巨体は成す術もなく後方に
吹き飛ばされ、あらためて倒れた。
「アルフ…ッ!!」
縛られたままのルブホの声が、遠くかすかに耳に届く。
痛みよりも無力感に激しく苛まれ、アルフは天井を仰いで涙を流した。
すみません、プローノ様。
あたしたちは、あまりに無力で。
危機をお伝えする事さえ叶わない。
どうかルクトさんを、メリゼ様を…
視界の隅に映る窓枠越しの青空が、やけに眩しく感じられていた。




