表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
120/703

ヤムダ・コーツの心意気

「…なるほど、およその事情は理解しました。」


受付女性―名をヤムダと言う―は、ルクトの顔を見据えてそう言った。


自分たちが何なのか、どうしてあのデヴァンスに狙われていたのか。

虚実を取り混ぜ、ルクトは苦労してそのあたりを彼女に説明していた。

あの女が宰相の肝いりで来ていたという事、自分たちが宰相の意向に

著しくそぐわない存在だという事。だから事実上、メグラン王国からの

脱出を図ったのだ…という事まで。もちろんメリゼの事は省いている。


アミリアスの幻影は彼女の視界にも投影されていたので、フード姿の

女性はこの場にいる2人、メリゼとアルメダという話で押し切った。

もちろん、無理のある話というのは十分過ぎるほど分かっている。

ヤムダにしても、ルクトの話す内容が全て本当だとは思わないだろう。

実際、嘘も隠し事も混じっている。話せない事の方が多いのも事実だ。


しかし、それは責められる事か。


何しろこのご時勢である。ジリヌス王国へと流れていく人間の冒険者、

国内の情勢不安、そしてウルムスの不審な動き。こんな状況の中では、

何もかも正直に話せる出国者など、むしろ珍しい存在だろう。

いちいち不審な者を止めていては、検問そのものが破綻する。だから、

通る時の手続きに不備さえなければ通す。それが現実というものだ。


当たり前の旅をしている者として、ルクトはヤムダと向き合っていた。


================================


「…あの女(デヴァンスの事)は、間違いなくあなた達を探していた。

それは信じてもいいんですね?」

「ええ、それは確実です。ただし、本人に面識はありませんが。」

「でしょうね。」


色々と察する部分があるのだろう。ヤムダは何度か意味ありげに頷く。

ここまで話していれば、傍らにいるプローノたちにも何となく事情は

想像できた。デヴァンスが、いかにヤムダにとって目障りだったかも。


「ま、いろんな事をやったけどさ。少なくとも誰からも責められるほど

悪辣で危険な事に手は出してない。あの女が宰相の指示で動いたのは、

何やかんやとキナ臭い理由があったから。そこは察してよ。」

「いいでしょう。」

「…え?」


あまりにもあっさり言い放ったそのヤムダの言葉に、ガンダルクはじめ

全員がキョトンとした。…まさか、そこまで早く容認してくれるとは。

開き直ったのか自棄を起こしたのかとも思ったものの、ヤムダの表情は

いたって冷静だった。


「本当にいいのですか?」


思わずラジュールが問いかける。


「我々が言う事ではないというのは承知してますが、国境の番人として

そんなにあっさり判断されては…」

「国境の番人だからこそ言ってるんですよ。いけませんか?」


ぴしゃりと言い放ち、ヤムダは皆の顔をざっと見回した。


「さすがに転移術というのは異例もいいところですが、手続きの上では

あなたがたの出国を咎める理由などありません。これがもし入国なら、

確かにもう少し慎重になったのかも知れない。それは認めます。…が、

実際はそうじゃない。だからもう、あれこれ問いません。」


言いながら振り返り、遠い検問塔をじっと見据える。


「と言うか、あのバカ女の横暴にはいい加減ウンザリしてたんですよ。

あたしは誇りと経験を持って仕事をしてるってのに、宰相の命令だと

言えば何でも通ると思ってる無能。救いようがありませんでしたよ。」

「……」


妙に実感のこもるその言葉に対し、ルクトたちは言葉がなかった。

しかし、笑う者は大いに笑う。


「にゃはははは!なーるほどね!!あいつは嫌われてたって事か!」


愉快そうなガンダルクの笑い声が、場に響き渡っていた。


================================


強引な既成事実と言ってしまえば、身も蓋もないだろう。

実際、真っ当な方法で国境を越えたとは、とても言いがたい状況だ。


しかし、出国管理の受付がこうして認めてくれた。その事実は大きい。

いくら宰相の後ろ盾を持っているとしても、やっている事は越権行為も

甚だしい。デヴァンスがそんな風に拒絶されるのも、ある意味当然だ。


誰であれ、自分の領域にズカズカと踏み込まれるのは嫌なものである。

その意味でも、デヴァンスは大いに失敗していたと言えるだろう。


結果、ヤムダはルクトたちに対して「正式な出国」であるという証明を

発行した。ついでに、完全に状況に置いてきぼりになっていた行商人の

略式手続きもしてくれた。つまり、誰もが胸を張ってモーグ王国の中を

闊歩できるようになったのである。あの場に彼女がいたという事実が、

結果的にかなりの僥倖となった。


巻き添えだった行商人たちも、特にルクトたちに文句は言わなかった。

むしろ無事に国境を越えられた事に感謝の意を示し、そのまま去った。

何とか、無粋な被害を他人に被せず済んだ。それもまた、得た戦果だ。


「またいつか、酒でも飲もうよ。」

「ええ、憶えておきましょう。」


何か通じるものがあったのだろう。トッピナーの誘いに対し、ヤムダは

笑って頷いてみせる。


さっきまでからは想像もできない、平和な語らいの時間だった。


================================


「それで…どうするんですか?」

「ご心配なく。」


ラジュールの心配げな問いかけに、ヤムダはニッと笑って答える。


「これでも私はけっこう古株です。少なくともカラスカスの街までなら

往来できる資格も持っております。知り合いもいます。だからあの女が

撤収するまで、臨時休暇だと思ってのんびり待ちますよ。」


大胆な事をあっさりと言ってのけるヤムダに、皆は呆れつつ感服した。

そこまで言ってくれるのなら、もう下手な遠慮は無用だろう。


「それじゃあ、我々はこれで。」

「ええ。お気をつけて!」


彼女の言葉に送られ、ルクトたちはあらためてモーグの地を歩き出す。

目指すは女王シャンテムの居城。



その足取りに、迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ