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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第一章 追放と出会いと
12/703

竜の谷にて

ドラグンとは、乗用の小型ドラゴンを指す言葉である。

卵から孵す技術は確立されていないため、幼体または成体のドラゴンを

捕獲し、調教する事で乗用としての価値を付与する事ができる。


そんなドラグンの生息する場所を、俗に「竜の谷」と呼ぶ。

小型とは言っても、野生では凶暴なドラグンを捕らえて屈服させるのは

容易ではなく、誰であろうと大いに危険とリスクを伴う。


そう。

ごく一部の強者を除いて。


================================


「ここか。」

「そうみたいね。」

「…確かに竜の谷だね。」


森を抜けた岩場でドラグンを停めたメリフィスたち3人は、目の前に

長々と横たわっている岩場をざっと見渡して言葉を交わす。頭上には、

有翼の亜種フライドラグンが何頭か旋回しているのが小さく見えた。

彼ら自身の駆るライドラグンはよく馴らされているらしく、興奮したり

怯えたりする様子はない。


「ルクトの反応は?」

「岩場の向こう。たぶん谷にいる。ま、苦心してるんじゃない?」

「あいつにしちゃあ妙な事を考えたもんだな。ドラグンとは。」

「あの砂の魔人の入れ知恵じゃないのかな。」

「ああ。」


ウナクスの言葉に軽く頷いたメリフィスが、あらためて岩場を見やる。


「あるいは、他に入れ知恵した奴がいる…って事も考えられるな。」

「ルクトを、あの砂魔人の洞窟まで連れて行った奴って事ね。」

「よし。んじゃ行ってみるか。」


そう行って3人はドラグンの背から降り、手綱を手近な木に繋いだ。

ソーピオラが杖の先端をその鼻先に当てて何かを唱えると、3頭の瞼は

ほぼ閉じられた状態まで下がった。どうやら軽い催眠魔法らしい。


「いい子にしてなさいよ。」

「行くぞ。油断するなよ。」

「ええ。」

「分かった。」


縦列の陣形を取り、メリフィスたち3人は足音を消しつつ進んでいく。

頭上に舞うフライドラグンたちは、相変わらず悠然としていた。


================================


岩場を抜けると、そこからは急激な下りになる。文字通りの谷だった。

こんな場所でもどうやら猟師などが訪れているらしく、道らしきものが

ちゃんと設けられている。道沿いの岩壁には、何かの目印らしい記号が

等間隔で刻まれていた。下からは、時おりギャアギャアとドラグンの

鳴く声が聞こえてくる。どうやら、個体数はそれほどでもないらしい。


「ルクトの反応は?」

「ここから動いてない。位置的には谷底だと思う。」

「よし。音を立てるなよ。」


ほどなく下り道は終わった。左右の岸壁はそれほど高くはないものの、

覆いかぶさるような形状はまさしく「谷底」と呼ぶにふさわしい。

そんな薄暗い岩の地面の真ん中に、ポツンと何かが落ちていた。


「…何だ?」


周囲に人間もドラグンもいない事を確かめ、3人が注意深く近づく。

明らかに人工物と思しき”それ”は、誰かの忘れ物のようだった。


「…武器じゃない?」

「ああ。ダガーか何かだな。」

「これがあの砂魔人が言っていた、ガンダルクの秘宝って奴かな。」

「だとしたら、ルクトはどこだ?」


そう言ったメリフィスが、油断ない動作でソーピオラに振り返る。


「確認しろ。」

「え?ええっと…まだここに…」


その瞬間。

杖に埋め込んだ宝玉を確認したソーピオラの顔が、不意に引きつった。


「う、動き出した!?…速い!!」

「何!?どっちだ!?」

「北西の方へ一気に…」



空を仰いだ3人の目に映ったもの。


それは翼をはためかせて飛び去る、頭上のフライドラグンの姿だった。


================================


「あいつ、もう手懐けていたのか。…しかも有翼の奴を。」


悔しそうにそう呟いたウナクスが、足元に転がるダガーに目を向ける。


「だったらこれは…」

「ああ、たぶん秘宝でも何でもないだろう。…あいつが捨てたモノか、

ここでドラグンに食われた人間の落とし物か。そのあたりだろうな。」

「チイッ!」


舌打ちしたソーピオラが、ダガーを蹴り飛ばした。


刹那。


バシュッ!!


小さな音がダガーのすぐ真下の地面から聞こえ、緑色の煙が上がった。

と同時に、かすかな臭いが漂う。


「…何だ!?」

「これって…」


とっさに袖で口元を覆ったソーピオラが、キッと表情を厳しくする。


「誘引と凶暴化の魔術煙よ!!」

「何だと!?」


気づいた時には、すでにいくつもの影が頭上を舞っていた。

それまで影すら見えなかった無数のフライドラグンが、谷底をぐるりと

囲むように旋回している。明らかに魔術煙に誘われて来たらしかった。


「くそっ、罠か!」

「…ルクトがこんな手の込んだ事をやったっての!?」

「いいや入れ知恵した奴がいる!」


そんな言葉を交わすうちに、1頭のフライドラグンが急降下してきた。


「チッ!」


長剣を抜いたメリフィスが、接近を見切って一閃を放つ。


ダァァン!


目にも映らないその剣閃をまともに食らい、襲い来たフライドラグンは

派手に吹き飛ばされる。しかし途中で体勢を立て直すと、不愉快そうに

ギイッと唸り声を上げた。その様子に、メリフィスが驚愕する。


「斬れない…だと!?」


ハッと手に携える剣に向けられた目が、やがて大きく見開かれた。

磨き上げられた鏡のごとくだった刀身が、どす黒い錆色になっている。

誰がどう見ても、まともに斬れるとは思えないような有様だった。


「…まさか、あの魔人の血か?」

「来るよ!!」


さらに襲い来るフライドラグンを迎撃すべく、ソーピオラとウナクスが

それぞれ杖をかざして詠唱する。

しかし、何も起きなかった。


「……!?」


困惑と恐怖に満ちた表情を浮かべた2人が、何とか突進を回避した。

そんな2人に、メリフィスが怒声を飛ばす。


「何やってんだ!!」

「き、貴術が発動しないのよ!!」

「俺もだよ!!何でだ!?」


狼狽する2人を嘲笑うかのように、ドラグンの咆哮が幾重にも重なる。

岩壁に共鳴するその声が、耳障りな合奏となって3人を取り囲んだ。


「くっそおおぉぉぉぉぉ!!」

「ルクトォぉぉぉぉぉぉ!!」

「うわああぁぁぁぁぁ!!」


負けじと響き渡る3人の声が、ますます耳障りな不協和音を作り出す。


静かだったはずの谷は、混迷のステージと化していた。


================================


「にゃはははは。やってるやってる!!」


愉快そうに笑ったガンダルクが、繋がれたままの3頭のライドラグンに

軽快な足取りで近づく。まだ催眠魔法に落ちた状態のままらしい3頭は

目を開ける気配もなかった。


「おおー、さすが勇者さまの乗り物は立派だねえ。」

「…どうやら、俺の分はもう売り払ったらしいな。」


遅れて歩み寄ったルクトが呟くと、二番刀を掲げてライドラグンたちの

鼻先に近づけた。


「解けるよな?アミリアス。」

『もちろんですよん。』

「その語尾はやめてくれ。」

『はあーい。』


柄の魔石がかすかな光を放つと同時に、ライドラグンは目を開けた。

そして、目の前に立つルクトたちにきょとんとした視線を向ける。


「よし、んじゃズラかろうぜ。」

「了解!おおー、荷物も大量ゲットだね。高く売れそう!!」

「俺は早く離れたいよ、ここを。」


ひらりと一番大きいライドラグンに跨ったルクトが、岩場に目を向けて

かすかな苦笑を浮かべる。


「ばれたら怒られそうだし。」

「いいのいいの、気にしない!」

『そうそう、そうですよん!』

「やめろってのに、その語尾!」


ガンダルクもライドラグンにパッと身軽に飛び乗り、満足そうに笑う。

空きの1頭も、まるで誰かが乗っているかのように傍らに歩み寄った。


「世話になったな、メリフィス。」


なおも咆哮と悲鳴がかすかに聞こえてくる谷の方に目を向け、ルクトは

小さな敬礼をして告げた。


「これは餞別としてもらっていく。これからも頑張れよ。」

「じゃあねー。」

『お達者でー。』


愉快そうなガンダルクと”二番刀”の挨拶を最後に、ライドラグンは

2人を乗せて軽やかに走り出した。

悲鳴も咆哮も。

そして過去さえも置き去りにする、確かな速さで。



仰ぐ空の雲は晴れ、明るい日差しが見え始めていた。

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