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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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王女メリゼの気概

仮面の善性など、限りなく薄い。

そんな不毛な事を考えさせるほど、デヴァンスの顔は醜く歪んでいた。


「…優位に立っていないと、余裕を保てないタイプなんだな。」


そんなデヴァンスの視線を見返し、ルクトが淡々と所見を述べる。

彼は長剣を抜きもしていなかった。


状況は、なおも膠着している。

迫り来る光の壁は停止したものの、消える気配がない。そして出入口も

固く閉ざされたまま。ルクトたちが閉じ込められているという現実は、

いささかも変わっていなかった。


「王女はどこにいる。答えろ!」


男のような声になったデヴァンスの詰問が、場の全員に投げられる。

ルクトもガンダルクもプローノも、その問いに答えようとはしない。

どんどん険悪になる空気にも、誰も萎縮したりはしなかった。


ここでそれを訊いてどうなる。

足止めしているこの場を放り出し、自らそこへ赴くつもりなのか。

この場にメリゼがいないという現実を、認めたくないだけなのか。


「答えろと言ってるんだ!それ」

「うるせェ黙れ出来損ないが!!」


更に怒鳴り声を上げたデヴァンスのすぐ目の前に、いきなり現れた者。

それは他でもない彼女自身だった。自分に怒鳴り返され、デヴァンスは

引きつった表情で後ずさる。

言うまでもなく、さっきのメリゼと同じ幻影だった。


『思い通りにならなかったら喚く。見苦しいにも程がありますよ。』


アミリアスの声は静かで、抗えない重さを帯びていた。


================================


「お前は…」

『こんな幼稚な防壁魔術を使えるというだけで、一流を気取りますか。

いくら時代が変わったと言っても、そんな程度では魔術を嗜む魔人の

面汚しにしかなれませんよ。もっと鍛錬を積んでから出直しなさい。』


あまりにも厳し過ぎるその言葉に、デヴァンスは押し黙った。


「ま、そういう事だ。」


相変わらず武器を構える事もせず、ルクトがデヴァンスに告げる。


「ここに魔人が待伏せている事も、防壁魔術を仕掛けているって事も

入る前から分かってた。その結果がコレだ。王女たちはここにいない。

防壁魔術の制御はこっち側にある。いくらお前がギャーギャー喚いても

これ以上進展はない。分かるか?」

「…それなら、どうしてお前たちはわざわざここに入ってきた!」


デヴァンスの声は、高く裏返った。


「そこまで分かっていたのなら…」

「もちろん見極めるためよ。てか、そのくらい想像できないの?」


呆れたような口調で、ガンダルクが食い気味に答えた。


「国境を安全に越える方法なんて、その気になれば思いつくもんだよ。

だけどメグランの王女である以上、見て見ぬ振りってのは許されない。

今の自分がどう認識されているか。宰相ウルムスは何を仕掛けるのか。

そういう部分はきっちり見極める。誰よりも、あの子が望んだ事よ。」


そこで言葉を切ったガンダルクは、周囲に視線を向けた。


「で、結果がコレね。どこの検問もまあ、似たような感じだろうけど。

あたしたちを始末して、メリゼには自分で逃れる事を強要するってか。

心をへし折って従順にさせるには、なかなかいい手だったと思うよ。」

「……ッ!!」


完全に馬鹿にしているような上から目線に、デヴァンスはますます顔を

歪ませる。しかしガンダルクも他の面々も、意に介さなかった。


「だけど、こんな場所でチンタラと待ってたのはマズかったねえ。」

「…何だと?どういう意味だ!?」


「王女さまは成長してるって事。」

「そうだ。」

「そのとおり。」

「ですね。」

「まったく。」

「驚くほどに。」


同意を示すルクトたち5人の顔は、どこかしら嬉しそうだった。


================================


「…どうやらこれ以上は無駄だな。お前たちでは話にならない。」


怒りの頂点を越えてしまったのか、デヴァンスは冷静さを取り戻した。

そして片手を振り、どこかの誰かに見えない合図を送る。

と、次の瞬間。


ガチャガチャガチャッ!!


明らかに甲冑や武器などがぶつかり合っていると思しき、実に耳障りな

金属音が周囲から響いた。おそらく出口と入口の扉のすぐ向こう側に、

どこかに潜んでいた兵士たちが殺到したのだろう。扉と光の防壁越しに

無数の気配と殺気が伝わってくる。


「この場に王女がいないとしても、お前たちがいるのなら近くにいる。

それは確実だ。なら今、お前たちを殺せば、守り手がいなくなる。」

「なるほど、確かにね。」

「そうなれば、捕えるのは容易だ。後はどうとでもなるさ。お前たちの

一人だけを生かしておけば、それで用は足りる。もう戯言はいらん!」

「どの口が言うんだよ戯言とか。」


うんざりといった口調で、ルクトがそう呟く。相変わらずの棒立ちで。

しかしデヴァンスは、彼を見据えて歪んだ笑みを浮かべた。


「かなり腕が立つらしいが、ここで戦う相手は皆、メグランの兵士だ。

つまりメリゼの愛する臣民たちだ。本気で斬れるのか?」

「…まあ、ちょっと厳しいな。」

「馬鹿どもめが。…せいぜい無駄な血を流し合え!それが私に逆らっ」

「馬鹿はどっちよ。」


そう言ったガンダルクが振り向き、シャリアとイバンサに告げる。


「みんな掴んだ?」

「ええ。」

「きっちり印もつけました。」

「よっしゃ。」


いつの間にか2人は、倒れたままの出国者や受付女性の体をしっかりと

それぞれの手で掴んでいた。


「んじゃ、モーグに行きますか。」


================================


ガンダルクの気楽な言葉を合図に、皆の体が緑色に発光し始めていた。

勝ち誇っていたデヴァンスが、その様子に大きく目を見開く。


「な、何だと!?…貴様ら…!!」

「王女はここにはいない。だけど、近くにいる。確かに正解。じゃあ、

その”近く”ってどこだと思う?」

「何を言って…」

「王女は成長したんだよホントに。…必要なら、汚い言葉も使うよ?」


更に強くなる光の中、ガンダルクは愉快そうな笑みを浮かべた。

ルクトたちも、何とも言えない顔で苦笑していた。


「にゃはははは、じゃあね!!」


次の瞬間。


唐突に光が消えたその場所に、もう人影はひとつも残っていなかった。

同時に防壁も消失。一瞬遅れて扉が勢いよく開き、前後から兵士たちが

いっせいに雪崩れ込んでくる。


しかし、もうそれは無意味だった。

限りなく、無意味な徒労だった。


================================


「ふぅ。」


魔法陣が消失し、皆はホッと大きく息をついた。


振り返れば、さっきまでいた国境の検問塔がそびえているのが見える。

しかし、さっきまでと見た目が少し違っていた。とは言っても、別に

造りが変わったわけではない。単に反対側を見ているというだけだ。


ここはもう、モーグ王国側だった。


「お疲れさまです!!」


元気な声をかけられ、ルクトたちが再び正面に向き直る。

そこにいたのは、あの飲んだくれのむさ苦しい大男だった。

放つ声とのギャップが、えらい事になっている。


「皆さんご無事で?」

「ええ、もちろん。」

「お疲れ。」

「お疲れさまでしたー!」


男の隣に立っていたトッピナーが、ニッと笑って労いの言葉をかける。

反対側の隣には、アルメダもいた。


「うまく行って良かったです。何せ国境を越えるとなれば…」

「ごめん、ちょっと待って。」


勢い込んで話し出す男を手で制し、ガンダルクがブローチを取り出す。


「いいよルブホ。うまく行った。」

『大丈夫でしたか?』

「バッチリ。だからもう、戻して。違和感で変になりそうだから。」

『了解です。では。』


笑いながらそう告げた言葉と共に、男の姿が一気に変化する。

背丈は劇的に縮み、体も細くなり。そして容姿も丸ごと変わっていく。


数秒で、髭の大男は本来あるべき姿――メリゼに戻っていた。

それを目にしたアルメダが、心からホッとしたような表情を浮かべる。


「どうでした、あたしの演技!?」

「うん、完璧。」

「でしたね。」

「そうですね。」

「正直、心配になります。」

「ですね。」

「同じく…」


呆れ顔ながら、皆は笑い合う。



国境を無血突破。

仰ぐ空は、晴れ渡っていた。

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