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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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メリゼを追う者

「ようやく現れましたね。」


沈黙は短かった。

受付女性の声とは明らかに異なる、どこか凄みのある女の声が響く。

と同時に、カウンターの後ろの棚がガチャリと開いた。奥に隠し部屋が

設けられていたのだろう。背の高い女がゆっくりと出てくる。


「俺たちを待ってたのか?」

「もちろん。」


ここに至って、下手にとぼけるのは時間の無駄だ。

端的に問いかけるルクトに対して、現れた女もごくあっさりと答える。


「初めまして。…私はデヴァンス。デヴァンス・セルゲリです。」

「魔人か。」


即答するルクトに、プローノたちがキッと表情を険しくする。しかし、

「デヴァンス」は平然としていた。パッと見は人間ながら、首筋などに

確かに魔人と思しき鱗が見える。


「そのとおり。ですがご想像通り、メリゼ王女を保護するためにここに

派遣された身です。もちろん王から命令を賜った身なので。」


つまりは正規の、そして王か宰相の直属の部下なのだろう。

ここまでの経緯を鑑みれば、宰相の子飼いの者と考えるのが自然だ。

そういう任務に魔人を派遣する事ができるあたり、やはりジリヌスとは

決定的に事情が異なっていた。


「お分かりですよね?」


何かを確認するように、デヴァンスが皆に告げる。もちろん場の誰もが

その意味を察していた。

魔人と言っても、この女は真っ当な立場としてここに派遣されている。

つまり彼女と対立する選択は、即ちこの国との真っ向対立を意味する。


その選択は、狭い部屋に収めるにはあまりにも重く、大きかった。


================================


「今さら問われるまでもないよ。」


そんなデヴァンスの脅し文句を歯牙にもかけず、ガンダルクが答えた。

あまりに何気ないその返し文句に、デヴァンスは表情を少し歪ませる。


「…つまり?」

「魔人だろうが宰相ウルムスの部下だろうが、およそどうでもいい。

ここを通してくれればね。」


ますます顔を歪ませるデヴァンス。そして呆れ顔のルクトたち。

こんな場においても、ガンダルクの我が道を行く姿勢に変わりはない。

相手が何者であろうと、自分たちは自分たちの行きたい場所へ向かう。

ルクトもプローノたちも、何となく笑ってしまっていた。


「それが答えですか。」

「そうだ。」


食い気味に答えたルクトが、出口の扉に視線を向けて続ける。


「あの短い時間で俺たちを捕捉したのは感心するけれど、あんな程度で

閉じ込めたと思うなよ。それが…」


バシュン!!


最後まで言う前に、扉の表面に赤い光がほとばしった。次の瞬間には、

入口の方の扉にも同様の光が走る。


『防壁魔術ですか。』


アミリアスがそう呟いたと同時に、イバンサが素早く槍を突き出した。

デヴァンスの右肩を狙った刺突は、しかし彼女の手前で何かに阻まれ、

キンという高い音と共に弾かれる。よく見てみれば、彼女の目の前には

うっすらと赤く光る防壁があった。さらには間仕切りの壁も、左右から

走った光が一瞬で覆い尽くす。


『…なかなか展開が速いですね。』


アミリアスが感嘆の声を上げる。

確かに、先手を打つという意味では電光石火の早業だった。



物理的な扉や壁に加え、魔術による強固な防壁の展開。

検問塔の出国受付スペースは、更に完全な隔離空間と化していた。


================================


「ひとつ教えてくれよ。」


張り詰めた空気とは少し不釣合いな口調で、ルクトが問いかけた。


「…何でしょう?」

「どうして俺たちを、探す相手だと思ったんだ?」

「愚問ですね。」


そう答えたデヴァンスは冷笑する、


「ウォレミスの街で暴れていた姿、何人の人間が目撃したと思います?

襲撃者の目さえあれば、あなた方の特定などは難しくもありません。」

「なるほどな。」

「お分かりになったのなら、メリゼ王女を渡して頂きたいですね。」

「この状況でどうやって渡すんだ。壁だらけだろうが。」


シャリアが尖った声で言い返した。もはや、とぼける気はないらしい。

しかしデヴァンスは、冷笑の表情を崩さなかった。


「ご心配なく。」


そう言って手を振ると、表情を失い立っていた受付の女性が動き出す。

人形を思わせるぎこちない動作で、カウンターの端からこちら側へと

歩み出ようとしていた。しかしその目の前には防壁が張られている。

さすがにシャリアが顔色を変えた。


しかし、次の瞬間。

防壁に弾かれるかと思われた女性の体は、何事もなくそれをすり抜け、

カウンターのこちら側に至る。先に倒れていた列後ろの者たちの所まで

ゆっくり歩み寄った女性は、そこで糸が切れたように倒れ込んだ。


「このとおり、防壁のこちら側なら何の問題もなく通れるんですよ。」

「……」


ルクトたちは答えなかった。

独りでこの場に現れただけあって、デヴァンスの修練は凄まじい。

こちらの攻撃は全て弾く壁なのに、特定の人間は苦もなく通過できる。

まさにこの場所に派遣されてこそ、その魔術は十全に威力を発揮する。


もしも一対一で戦えば、シャリアやイバンサにも勝機は十分にある。

しかしそれはあくまで、狭い場所に閉じ込められていなければの話だ。


やはり、楽観が過ぎたか。

相手の用意周到の程度は、明らかに想定を超えている。


「では、王女をお渡し下さい。」



それは、事実上の最後通告だった。

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