表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
115/703

全てはお見通し

「お待たせしました。」


受付女性の態度は変わらなかった。それまでと同様に、事務的な口調で

ルクトに話しかけてくる。


「お名前は?」

「カル・タクト。」


ジリヌスで取得したライセンス名を名乗り、カードを手元で提示する。

プローノたちも隣のガンダルクも、黙ってそのやり取りを見ていた。


偽名を名乗っているという事には、さほど深い意味も問題もない。

もともと冒険者というのは、腕さえ立てば誰でもなれる職業である。

「光の加護」の覚醒は、人間ならば誰にでも起こり得る。同じように、

「人魔の呪い」の覚醒も人魔ならば等しく起こり得る事なのである。

力を得た者が相応の生き方を選ぶ。この世界では、ごく当然の選択だ。

かく言うルクトも、実家は純然たる農家である。

実名を名乗っているという点では、むしろ珍しい例だとさえ言える。


ジリヌスで偽名のライセンスを取得した理由は、もう言うまでもない。

メリフィスに人魔である事を国中に暴露され、やむを得ずの話だった。


その一方、このメグランにおいて、人魔である事実は障壁にならない。

ピルバスたちも人魔であり、同僚のスランナグなどは純然たる魔人だ。

その事実だけで、後ろめたい思いをする必要などはどこにもない。


今この名を名乗るのは、ひたすらに相手の出方を見るためだ。

メリフィスのパーティーはずっと、メグランやモーグにはほとんど足を

運んだ事がない。知名度も低めだ。しかし王女メリゼを探している者は

おそらく様々な情報を集めている。そして、きっとルクトやプローノを

捜索の対象に含んでもいるだろう。


ルクト・ゼリアスとは名乗らない。しかし、あえて顔は隠さない。

壁の向こうの相手は、どう出るか。


================================


「…確認しました。」


さほどの時間はかからなかった。

ルクトのライセンスカードを改め、受付の女性はそんな言葉を発する。

呆気なく通行許可は下りたらしい。プローノたちは小さく息をついた。

やはり出国より、入国の方が検問は厳しい。どこの国でも同じである。

偽名とは言え新しいライセンスは、それなりに効力を発揮したらしい。


「いいですか?」

「ええどうぞ。お連れはお二人ですか?」

「そうです。」


機械的に答えるルクトの傍らには、フードを被った女性が2人いる。

名のある冒険者ともなれば、女性を同伴させる事など珍しくもない。

娼婦であったり、奴隷であったり。本人以上に、身分は提示しづらい。

代表の一人がしっかりとした身分を明かせれば、後は不問が原則だ。

どうやら、少なくとも3人はここを通過できそうだった。とすれば、

次はプローノたちである。ルクトはそのまま出口に向かおうとする。


刹那。


ダン!

今まさに出ようとしていた国境側の扉が、重い音と共に閉められた。

ダン!

ハッと視線を背後に向けると共に、反対側の扉も勢いよく閉められる。

ダダダダダン!


同時に、反対側とを仕切る壁の窓が一斉に閉ざされた。扉はともかく、

これは場にいる人間にはできない。明らかに建物自体の仕掛けである。


あっという間に、出国受付のあった空間は牢獄と化した。


================================


「な、何だッ!?」

「どういう事だ!?」

「どうして閉まって…」


プローノたちよりも列の後ろの方に並んでいた者たちが、突然の事態に

驚きや不審の声を上げ始めていた。しかし、それもすぐに途絶える。

パッと何かの光がカウンターの奥の壁から放たれ、彼らは倒れ込んだ。


『催眠魔術ですね。』


ルクトの懐で、アミリアスがそんな言葉を小声で発した。どうやら、

向こう側に潜んでいるのはかなりの使い手らしい。それも、魔術の。


間仕切りの壁の向こう、入国受付の列の声はもうほとんど聞こえない。

そして隔絶されたこの空間もまた、張り詰めた沈黙に満ちていた。

応対をしていた受付女性は、まるで屍のような無表情になっている。

魔術を今この瞬間かけられたのか、または最初から仕込まれていたか。

いずれにせよ、彼女がここの職員というのはほぼ間違いないだろう。

今の今までごく普通に自分の仕事をこなし、そしてこの場に残された。

被害者なのか共謀者なのか、現時点では何とも判断のしようがない。


しかし、ひとつだけ確信がある。

監視していた何者かは、想定以上にこちらの正体を把握している。


ルクトだけを確認したのであれば、彼とその連れだけを狙うはずだ。

その場合、催眠魔術の行使の対象は彼ら以外の全員だっただろう。

しかし実際は、プローノたち4人もしっかりと意識を保っている。

今の時点では、アミリアスが魔術を阻害したりはしていない。つまり、

最初から4人も対象外だったのだ。


そこから考えられる想定はひとつ。

相手は、プローノとその部下含めて「メリゼの協力者」だとしている。

いつどこでそこまで情報を得たか。対応が非情なほどに的確だった。


「…半端じゃないな、宰相。」


押し殺したルクトの声は、それでも沈黙の中に重く響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ