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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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検問塔の列にて

近くまで寄って見れば、その外観はそれなりに威圧的だった。


アルバニオ街道の西の果てにある、国境検問塔。

抜けた先に見えるモーグ王国の街・カラスカスは実に賑わっている。

対する国境のこちら側にあるのは、ほぼ全てが国によって建設された

管理施設だ。食堂も休憩所さえも、一軒も見当たらない。

モーグから来た者たちは、手続きを済ませるとそそくさと去っていく。


「…ま、国境のあり方なんてモノは国それぞれなんだろうけどさ。」


逃げるように東へ向かう旅人の姿を目で追いつつ、ガンダルクが呟く。


「何でこうも愛想がないかね。」

「確かにな。」


最初に馬を降りたルクトも、周囲を見渡して言った。


「国同士が云々ってのは仕方ない。だけど旅をする人間には、ほとんど

関係のない話だろうにな。」

「せめて今後、この街道に少しでも賑わいが戻る事を祈りましょ。」


トッピナーがしみじみとそう告げ、皆も黙って頷いた。


谷に巣くっていたドラグリアが殲滅されたという報せは、翌日には既に

このアルバニオ街道の端から端まで伝えられていた。ここにも、そして

カラスカスの街にも。結果として、早くも商隊などの往来が増加傾向を

見せている。今この場所にしても、10日も前ならもっともっと閑散と

していたのは想像に難くない。

もちろん、自分たちがやったなどと声高に告げる気は誰にもない。

むしろそんな事で目立ちたくない。


ひたすら、国境を越えるのみだ。


================================


「ジリヌスの時とほぼ同じだな。」


並んで順番を待つルクトが、ざっと周囲を見回してポツリと呟く。


検問塔の中は真っ二つに仕切られ、入国と出国が左右それぞれの受付で

審理される。手法としては、確かにジリヌスからの出国時と同じだ。

違いがあるとすれば、中央に大きな壁があり、反対側(入国)の列が

小さな窓からしか見えない点だけ。壁は厚いらしく、喧騒もそれほど

こちらには聞こえてこない。


そして決定的に前と違っている点。それはやはり、魔人が多い事だ。

国への立ち入りを徹底して認めないジリヌスとの国境では、こういった

人と魔人の交じり合う光景はない。もしもあれば、即座に戦闘だろう。

あらためてそれを感じたルクトは、すぐ隣のガンダルクに向き直った。


「なあ。」

「うん?…どした?」

「やっぱり俺ら、最初っから無茶をし過ぎてたのかもな。」

「否定はしない。」


あっさりそう言ったガンダルクが、その視線を後ろに向ける。


「まあ、悪い結果ばかりじゃない。変な苦労をしてるのは事実だけど、

それでも少しずつ進んではいるよ。今は目の前の事に集中しよう。」

「分かった。」


ルクトとしても、ここまでの道程を本気で悔いているわけではない。

今のこの光景に、ほんの少し感慨を覚えたという程度の話だ。


今は目の前の事に集中。

異存はなかった。


================================


「なァンだよ嬢ちゃん、可愛い顔でその態度はどうなんだヨォ!?」


もう少しで順番という時になって、にわかに騒ぎが持ち上がった。

受付の女性の前に立っていた、あのアルフより背の高い髭面の大男。

小柄な人間ほどありそうな鉄棍棒を携え、下卑た声を張り上げている。

離れた場所にさえ、彼の撒き散らす酒の匂いが漂っていた。


「いえ、ライセンスさえ確認させてもらえば、お通しできますから…」

「見てわかんネェのかよ。この姿!…俺が娼婦にでも見えるか!?」


まともな返しの言葉が期待できない男の言動に、周囲に並んでいる皆が

表情を曇らせる。しかし、さすがに面と向かって抗議する者はいない。

下手に関わると、己の出国手続きが危うくなってしまうかも知れない。

誰の顔にもそう書かれていた。


「ですから…」


怒りと恐れと諦めを混ぜた表情で、なおも受付女性が説得を試みる。

言うまでもなく、ルクトたちは口も手も出さず経緯を傍観していた。


「あぁ分かったよ!ライセンスか?ちょっと待ってろや姉ちゃん!!」


唾が飛びそうな語調で言った男が、あらためて己の体を探り始める。

どうにか進展が見えそうな様子に、受付女性も並ぶ者も息をついた。

やがて。


「ああぁ、あったあった!」


そこから出すのか…という部分から引っ張り出されたのは、黒く汚れた

ライセンスカードだった。何となく臭ってきそうな気配すらある。


「これでイイんだろォがよ!」

「…結構です。」


露骨に顔をしかめながらも、女性はカードを素早く確認して返却した。

受け取った男は、そのままカードをズボンの中に押し込んで笑う。


「ハハッ!別嬪ネェちゃんの手垢が着いたか。縁起イイじゃねエか?」

「どうぞお通りください。」


早く行けと怒鳴りたいのを、じっと堪えているのだろう。女性の声は、

ほんのかすかに震えていた。


なおも下卑た笑い声を張り上げて、男はズルズルと棍棒を引きずりつつ

国境の向こう側へと去る。同時に、場の全員が大きなため息をついた。


「…あれでも越えられるのか。」


何とも言えない実感のこもった声でプローノが呟き、隣のラジュール、

後ろのイバンサとシャリアの2人も呆れたように肩をすくめる。

案外、どうにかなりそうだ。

彼らもその前に並ぶルクトたちも、同じようにそんな風に考える。


やがて受付の番が回り、代表としてルクトが正面に立った。


その瞬間。

気を取り直したらしい受付の女性のすぐ背後から、視線を感じた。

カウンターの後ろに並べられている管理簿の隙間から、誰かがこちらを

じっと見ている。正面に立たないと判らない穴から、誰かが見ている。


間違いない。

メリゼを探す、宰相の手の者だ。

ルクトの緊張が、ガンダルクたちに一瞬で伝わる。


やっぱり、簡単には通れないか。


想定どおりの現実を悟った一行は、静かに体勢を整えていた。

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