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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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マルマの村での選択

「それじゃ、今度こそ行こうか。」


あらためてガンダルクが告げる。


ドラグリア掃討の報酬を受け取り、プローノたちのライセンスを取得。

それなりに時間はかかったものの、当初の目的を果たす事はできた。

ほぼ何もできずに去ったジリヌスと比べれば、上出来と言ってもいい。


もちろん、現在もなお問題は多い。メリゼがここにいるという事自体、

進行中の大問題と言えなくもない。それは本人含めて理解している。


しかし、確実に前には進めている。


ルクトとガンダルク、アミリアス、トッピナーの4人には、為政者との

話がしたいという目的がある。このメグランまで来た当初は、ツテなど

何ひとつなかった。きっかけさえも見出せるか分からなかったのだ。

それが、ピルバスたちとの出会いをきっかけにして今日にまで至った。

立場は危ういものの王女と共に旅を続け、隣国の女王を訪ねようという

段階にまでは辿り着けたのである。入国の頃から見れば格段の進展だ。


プローノたち、6人もまた然り。

国の在り方が激変し、自分の明日も見えない状態。プローノに至っては

もはや国に留まる事も許されない。当てのなさはルクトたち以上だ。

それでもメリゼの願いを聞き届け、決死の覚悟で護衛を引き受けた。

誰も彼もが怪しいルクトたち4人を信じて賭けた結果、”冒険者”という

新たな肩書きを得るまでに至った。ここまでの事を考えれば悪くない。


そして、メリゼとアルメダも。

隣国の激変と、それに伴う国の政の混迷。日に日に危うくなる立場。

誰の庇護もないまま、背信を目論む宰相の切り札にされそうになった。

プローノたち、そしてルクトたちがもし駆け付けなければ、もう今頃は

ジリヌス王国に拉致され、まともな体ではいられなかっただろう。

アルメダに至っては、すでに命さえ失っていたのは想像に難くない。


苦労はしたものの、皆こうして今も生きている。

それなりの事を成し遂げ、それぞれ十分に自分を見つめ直している。


だからこそ、そろそろ次へ行こう。

ガンダルクの号令に、反対する者は一人もいなかった。


================================


2日後の朝。

前回の出立の時と違い、村外れまで大勢が見送りに来ていた。

みな等しく、名残惜しそうな表情を浮かべている。いや、出来るならば

引き止めたい…と顔に書いてある。それでも、口にするのは憚られた。

彼らには大事な目的がある。もはや誰もが抱く、無言の認識だった。


「長い間、お世話になりました。」


少し日に焼けたメリゼが、ぺこりと頭を下げてそんな挨拶を述べる。

すっかり身にまとうものも安っぽくなっているものの、彼女の顔には

それまでとは違う高貴さがあった。皆を代表するようなその挨拶に、

見送りの村人たちも笑顔を返す。


「ああ、元気でね。」

「気をつけて。」


わずか10日足らずの滞在であったにも関わらず、皆はそれなりに村に

馴染んでいた。ドラグリア戦に備えあちこちで準備をしたからである。

王女という立場を明かさないまま、メリゼも村の人気者になっていた。


それでも今日、ここを発つ。そして女王シャンテムのもとを目指す。

それがメリゼの運命であり、同時に自分で決めた目標でもある。

自分でそう決めた目標だからこそ、ルクトたちも彼女を守って進む。

だから…


「ここに、残られませんか?」


その声が上がったのは、挨拶も済み後は発つばかりとなった時だった。


================================

================================


宿屋の末娘セルニルは、己の言葉が一瞬、理解できなかった。


だけど、次の瞬間にはもう、理解も納得も確信も全て揃っていた。

どうして、そんな事を言ったのか。わざわざ考えるまでもない事だ。


この人たちに、憧れたから。

今までに見た、どの旅人たちよりも勇敢で、愉快で、楽しい人たち。

この村を、そしてアルバニオ街道を拠り所とする皆を救ってくれた。

依頼として請け負ったのは事実だ。当然といえば当然なのだろう。

だけど自分は、それを当然なんだと割り切りたくなかった。

この人たちの恩顧に報いる何かを、ここで一緒に見出せないだろうか。


たかが宿屋の娘が何を生意気な事を言ってるんだと、それは承知だ。

でも、みんな言いたかったはずだ。大人だから口にできないのなら、

それこそあたしが言うべき事だ。


だから、勇気を出してみた。

己の正直な気持ちを、最後の最後に言葉にしてみた。


悔いなんかない。

だって、本気でそう思ってるから。


皆の視線に晒されたけど、それでも体が震えたりはしなかった。


================================

================================


「…はい、あたしの勝ちね。」


さほど長くない沈黙を破ったのは、ガンダルクの嬉しそうな声だった。


「いいよね2人とも?」

「…はい。」

「確かに、そういう話でしたね。」


どこか晴れやかな表情でそう答えたのは、ルブホとアルフの2人。

彼らを見つめるルクトやプローノ、イバンサたちも、笑みを浮かべた。

そんなやり取りに、じっと見守っていた村人たちも表情を明るくする。


「…もしかして、お二方はこの村に残られますか?」

「ええ。」

「もしよければ。」

「えええええ、ホントに!?」


頓狂な声を上げたのは、紛れもなくセルニルだった。

それを合図に、見送りの村人たちもワッと歓声を上げる。


少し恥ずかしそうに笑いながらも、ルブホとアルフは彼らのもとへと

ゆっくり歩み寄った。


「新米冒険者ではありますが…。」

「よろしければ、ここに。」

「もちろんですよ!!」


「よく言ったセルニル!!」


声を上げたセルニルもまた、大勢に囲まれ荒っぽく褒められていた。

その様に、プローノとラジュール、イバンサ、シャリアも明るく笑う。



昨日のうちに決めていた事だった。

村を発つ際に、誰か1人でも慰留の言葉を口にすれば、2人は残ると。

もちろん、それを当の2人が簡単に承知したわけではない。共に行くと

あくまでも言い張っていた。

そんな2人に対し、プローノは父親のような口調で語りかけた。


「別に、お前が女性だから残れ…と言うわけじゃない。」

「だったら、どうしてですか。」

「現在の我々の目的は、間違いなく女王シャンテムのもとへ行く事だ。

しかしそれは、一生をかけるような事でもない。それも事実だろう?」

「それは…」

「ならば、全員で臨む必要はない。お前たちはここで生き方を探せ。」

「…それは、逃げではないと?」

「当然だ。前向きな生き方を探す。どんな形でもそれは逃げではない。

ジリヌスを去った、お前たちが選ぶ未来は自由であるべきだ。兵士でも

冒険者でも、単なる村の民でもな。私たちもそれがいいと思う。」

「お別れなのですか。」

「そう考える必要もない。ここから我々を支えてくれる方法も、探せば

あるかも知れない。…それもまた、自由だろう?」

「にゃはははは、そうそう!何事も自由に考えればいいって事よ!!」


愉快そうにガンダルクが笑った。


「あんたたちが好き合ってるのは、傍から見てりゃよく判るからさ。」


あまりにストレートなその言葉に、さすがに2人は少し赤くなった。

それでもかすかな笑みを返す。


「ここの人たちが受け入れてくれるなら、そこで明日を探せばいい。

兵士にこだわらないのは今さらって話なんだから、理由としては十分。

だから明日、あたしと賭け勝負よ。いいでしょ?」

「…はい。」

「まあ、見てみないとですから。」

「決まり!」


ガンダルクの声には、自信の響きが確かにあった。

それが、この光景につながった。


別れではない。

そんな事を、別に今この場で決める必要なんかない。

ただ、2人の新しい明日を探す。

それだけの話だ。



新たな一歩をそれぞれが踏み出す。

その朝は、晴れ渡っていた。

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