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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第一章 追放と出会いと
11/703

アミリアスの最期

「ここか。」

「そうみたいね。」

「何でまた、こんな場所に…」


「あ、ちょっと待ってて。あそこの崖に、かすかな反応があるから。」

「ああ。」


…………


不意に、足元に影が落ちた。

次の瞬間。


ザシュッ!!


空間ごと切り裂くかのごとき一閃が走り、頭上の影が直線に割れる。

傍らに立っていた青年は、まともに反応する間さえもなかった。

そんな彼のすぐ目前に、鏡のような切り口で両断された岩が落ちた。

何かの魔術で形を成していたらしいその岩が、ボロボロと崩れ落ちる。


「…何だこれ?」

「さあな。どうでもいい。」


青年が呟いた疑問の言葉に対して、気のない答えが返ってくる。

声の主は、岩巨人を両断したらしい剣を鞘に収めるところだった。


「ルクトはこれに会いに来たのか?わざわざこんな場所にまで。」

「ま、こいつは番人か何かだろ。」


「メリフィス!ウナクス!…大丈夫だった!?」

「当たり前だ。そっちはどうだ?」

「入口が開いたわよ。どうやら、ルクトはこれが目的だったみたい。」

「よし。行くぞウナクス。」

「うん。」


”ウナクス”と呼ばれた青年と、彼を従えて洞窟に向かうメリフィス。

そしてその2人を、開かれた洞窟の入口で迎えるソーピオラ。


3人の来訪は、ルクトとガンダルクが出発した翌日の午後だった。


================================


ドゴォォォン!!


洞窟全体を揺るがすかのような轟音と共に、鈍重な扉が破壊される。

暗い広間に足を踏み入れた3人は、周囲を見渡した。ソーピオラが赤い

粉を撒くと同時に、広い室内に光がパッと満ちる。その発光と同時に、

壁際にうっすら人影のようなものが描き出されていた。


「…オイそこの魔人、見えてるぜ。さっさと出て来いよ。」


そう言い放ったメリフィスが長剣を抜き、ピタリと刃先を向ける。


「隠れてるつもりか?…だったら、遠慮なくぶった斬るぞ。」


数秒の沈黙の後。


「…これはこれは、物騒ですね。」


サラサラと砂が盛り上がり、やがてそれがアミリアスの姿を形成した。

ソーピオラとウナクスの2人が警戒する中、メリフィスは剣を納めると

小さな笑みを浮かべる。


「なあに、別にわざわざ争うつもりなんかない。質問に答えてくれれば

それで俺たちの気は済むからよ。」

「左様ですか。それで、何を?」

「ここに昨日、ルクト・ゼリアスが来ただろ?その目的を聞きたい。」

「ルクト様…ですか。それはまた、どうして…」


バシュッ!!


前触れなく放たれた圧縮空気弾が、アミリアスの右肩をかすめた。


「余計な事は言わなくていいから、さっさと質問に答えてよ。」


空気弾を放ったソーピオラが、そう言ってアミリアスを睨み据える。

その傍らに立つウナクスも、敵意に満ちた視線を向けていた。

臨戦態勢になっているその2人を、メリフィスが制する。


「やめろお前ら。」

「でも…」

「今はこの俺が話をしてるんだよ。邪魔すんな。」

「………」


気圧されて黙り込んだ2人から視線を戻し、メリフィスはアミリアスに

もう一度笑いかけた。


「悪かったな。用が済んだらすぐに出て行く。だから教えてくれよ。」

「…分かりました。」


答えたアミリアスの傍らの石壁に、サラサラと砂で地図が描かれる。

それは洞窟のある場所から北東の方を示す、詳細な地形図だった。

国境を越えて少し北上した地点に、小さな点滅する点が打たれる。


「ルクト様はこの場所へ向かわれました。竜の谷です。」

「竜の谷?…と言うと、ドラグンの生息地か。こんな所にあるのか。」

「左様。アステアに位置するため、あまり知られておりません。」

「つまりあいつは、ここで移動のための足を調達する気か?」

「そうです。…いえ、正確に言えば私が進言したのですが。」

「なるほどな。」


頷いたメリフィスが、後ろに控えるソーピオラに向き直った。


「場所は憶えたか?」

「ええ、もちろん。」

「よし。」


「それでは、私はこのあたりで…」

「待てよ。」


再び砂の中へその身を沈めようとしていたアミリアスを、メリフィスの

鋭い声が止める。


「あいつがここに来た目的は、それだけじゃないだろうが。」

「…何ゆえ、そう思われます?」

「そんな程度の情報のためだけに、あの岩人形を倒したって言うのか?

あいつの腕なら倒せたんだろうが、さすがに無理があり過ぎるぜ。」

「なるほど、ご明察ですね。」

「世辞はいいからさっさと答えろ。俺も色々と忙しいんだよ。」

「…分かりました。」


観念したような声で、アミリアスが小さく頷く。

その乾いた表情には、憂いのような影がかすかに落ちていた。


================================


「…鍛冶師エゴイの打った、百五十年前の刀だと?」

「左様。先代魔王ガンダルク秘蔵の刀です。私が預かっておりました。

それをどうやってルクト様が知ったのか、そこまでは分かりません。」

「そいつをルクトに渡したのか?」

「守護者を倒せし者に渡せと、先代魔王に命ぜられておりました。」

「なるほど、な。」


話に納得したらしいメリフィスが、入口の方に視線を向ける。


「…あの岩人形を倒した奴に渡せとガンダルクが言ってたんなら、当然

俺にも資格はあるって事だ。」

「…は?いえ、それはさすがに…」

「お前の意見は聞いてない。」


刹那。


ザシュッ!!!


空間ごと切り裂くような剣閃が再び走り、背後の壁がかすかにずれた。

目を見開いたアミリアスの細い体が震え、パラパラと砂がこぼれる。


仕掛けの色すらも見せない、閃光のような一撃。

それはアミリアスを、まるで枯れ木のように胸元から両断していた。


「ゴフッ…」


何とか体を保とうとするアミリアスの口から、緑色の血が流れ落ちた。


「…何と…ご無体な…」

「俺たちは勇者パーティーだぜ。」


血を吐きながら自分を睨み上げる、アミリアスの枯れた視線を見返し。

断罪を告げるメリフィスの口調は、どこまでも平常どおりだった。


「お前が年経た危険な魔人だって事くらい、見ればすぐに判るんだよ。

そんな奴と遭遇した以上、このまま野放しにできるわけないだろ。」

「……グ……」


「消し飛ばせ、ウナクス。」

「了解。」


ドゴオォォォン!


指向性の高い炎の一撃が、今にも崩れ落ちそうなアミリアスを包んだ。

灼熱と爆風が、その細い体を跡形もなく焼き尽くしていく。


「キイィィィィェェェァァァ…!」


不快な断末魔の悲鳴を甲高く残し、アミリアスは消滅した。

可燃物のない広間の中では延焼などは起こらず、炎はパッと消える。



主を喪った室内に満ち満ちる空気は、どこまでも空虚だった。


================================


「名工エゴイの刀か。いいねえ。」


洞窟を出たメリフィスが、陽光に目を細めながらそう言って笑う。


「高く売れそうね。」

「だね。」


「…よし、それじゃ追うとするか。ソーピオラ、ルクトの位置は?」

「間違いなく、あの砂魔人が地図で示してた方へ向かってるみたいね。

竜の谷が本当にあるなら、そこへ行くつもりなのは間違いない。」

「先回りできるか?」

「ちょっと厳しいかも。」

「分かった。」


そう答えたメリフィスは、傍らの岩柱に繋いでおいた大きなドラグンに

ひらりと飛び乗った。他の2人も、やや小型のドラグンの背に跨る。


「どっちみち、ドラグンを捕まえるつもりならそう簡単にはいかない。

今から行っても捕捉できるはずだ。急ぐぞ。」

「了解。」

「魔王ガンダルクの秘蔵の宝かあ。ちょっとワクワクするね。」


目を輝かせてそう語るウナクスに、メリフィスがニッと笑いかける。


「まあ焦るなって。じゃ行くぜ!」


号令と共に、3頭のドラグンが勢いよく走り出した。

その姿は、あっという間に足場の悪い谷を駆け抜け、見えなくなった。




やがて、静寂が戻った。


崩れ落ちた守護者(ガーディアン)の岩塊に、小さな2羽のつがい鳥が舞い降りる。

もはやそれは、再び動く事はない。


土へと還った主と共に、ありふれた風景の一部と化していた。



永遠に。

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