ドラグリア殲滅戦・9
宿屋の末娘セルニルは、己の考えが正しかった事を知った。
今までの、何よりも嬉しかった。
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午後になって、彼らは戻ってきた。
出発した時とほぼ同じ様相で。
その姿を目にした時は、思わず声を上げてしまった。
しかし彼らが手ぶらで戻ってきたと気づき、少なからずガッカリした。
ああ、やっぱり無理だったのかな。…いや、そもそもドラグリアなんて
興味もなかったのかな、と。
何となく声をかける機会を逃して、何となく彼らの後を追うような形で
再び役場に戻った。村の人たちは、手ぶらの彼らにはさほど興味などは
示さなかった。幻滅もしなかった。まあ、そんなもんだろうな…と。
でも、個人的には見届けたかった。これはもう意地に近いものだろう。
散々振り回されたから、せめて何をやってたのかだけでも知りたいと。
あの水色の髪の美人さんが、受付に告げた言葉にじっと耳を傾けた。
「街道を襲撃していたドラグリアの群れ、仕留めてきました。」
「は!?」
は!?
受付のナザラさんの声と、心の声が見事に重なった。
願っていたし予感もあった。けど、そこまではっきりと言葉にするのは
正直、あまり予想していなかった。いや、正直信じられなかった。
出来るはずがない、という考えからそう思ったわけではない。単純に、
証拠が何にもなかったからである。手ぶらで戻って何言ってるんだと。
でも、やっぱり自分の見聞は本当の事だった。彼らの言った事も全て。
証を見せて欲しいという、あまりに真っ当なナザラさんの要求に対し、
彼らは「まず外に出てきて欲しい」と答えた。そこで思い当たった。
ああ、そう言えばそうだったなと。
訝しげな表情になったナザラさん、そして役場のほぼ全員が彼らと共に
ぞろぞろと外の広場に出て行った。もちろんついて行った。何となく、
うちのあの2部屋が思い浮かんだ。
「じゃあ、出しますね。」
水色の髪の女性でも「ガンダルク」でもない上品な女性が、前に出ると
両手を高く掲げた。それと同時に、広場いっぱいにすごい数の魔法陣が
一気に描かれる。見覚えのある色の光が、視界を埋め尽くしていた。
次の瞬間、そこに現れたもの。
役場の人たちは皆、何とか叫び声を飲み込んでいるらしかった。
その気持ちは分かったけれど、別にそこまで驚きはしなかった。いや、
むしろ驚きより嬉しさの方が強い。そんな自分にむしろ驚いた。
確かに、ドラグリアだ。その骸だ。それも、数え切れないほどの。
群れがいる事は知っていたけれど、まさかここまで数が多かったとは。
広場を埋め尽くしたドラグリアは、どんな言葉よりも説得力がある。
彼らが成した事に疑いを持つ者は、さすがにもういないらしかった。
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こうして、彼らは英雄になった。
もちろん、この村限定のささやかな称号だ。だけどいずれ、街道近くの
他の村にもその勇名は轟いていく。行き交う人間がまた増えていけば、
それは間違いなく近隣まで広がる。多分、国境の向こうのモーグにも。
しつこく聞き耳を立てた結果、例のライセンス発行も無事成されたのを
しっかりと聞いた。己の事のように嬉しかった。
彼らの武勲に、少しばかり気持ちが乗っかっている感じはしていた。
だけど部屋をああいう形で提供したのは事実だから、別にいいだろう。
報酬の一部をよこせなんて事を言うつもりは、これっぽっちもない。
ただ、彼らが達成してくれた事実がとにかく嬉しかったんだ。
そしてもうひとつ。
この村に残り、ここで冒険者として暮らしを立てていきませんかと。
自分はそんな事を言えるような立場ではないけど、でも言いたかった。
今回の事だけではなく、これからも起こるであろう何かの問題に対し、
村の人間という立場から対処する。そんな頼もしい人が、どうしても
欲しいと思ってしまったのである。
本物を見てしまえば、ドラグリアは単なる魔獣でしかなかった。
もちろん凶暴そうな外見も、実際の被害を考えれば納得のひと言だ。
だけど、こんな魔獣のせいで家業が立ち行かなくなりそうだったのは、
どう考えても悔しい。もうこんな、理不尽な事は起きて欲しくない。
たとえ起きたとしても、村の問題として対処する方がいいだろう。
だからこそ誘いたい。
無理は承知の上で、誘ってみたい。それは、偽りのない本音だ。
最後にひとつ。
新たに湧いた難しい疑問について、できれば本人に訊いてみたい。
どうしても不思議だから。
ひときわ背が高くて迫力ある見た目ながら、優しかった冒険者さん。
…あの人、女性だったっけ?




