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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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ドラグリア殲滅戦・8

宿屋の末娘セルニルは、ひたすらに待っていた。


あの団体のお客が戻ってくるのを、今か今かと役場で待ちわびていた。

仕事をすっぽかしているけど、今はそんな事など気にする時じゃない。


あの人たちにお礼が言いたい。今はただ、それだけを考えている。

何かを成したわけでもなく、まして特に約束を交わしたわけでもない。

しかし、戻ってくる可能性は高い。役場の顔なじみに、彼らの何人かが

成功報酬としてフリーライセンスを希望していると聞き出したからだ。


もしも、本当に街道のドラグリアを掃討できれば。

彼らは絶対に戻ってくる。その時は誰よりも早く、お礼を言いたい。

根拠も何もないけれど、揺るぎない予感がある。今はそれを信じる。


きっと、あの人たちはやるはずだ。

凱旋を称えて、それから…


役場の外を何度も何度も窺いがら、セルニルはひたすらに待っていた。


================================

================================


何が起こったのかは、上から見ても分からないだろう。

しかし地上にいる個体が一匹残らず倒されたという事は、理屈ではなく

感覚で察知したらしい。頭上を舞う十数匹の有翼個体が、示し合わせた

ようなタイミングで逃げに転じる。見上げるルクトたちの場所からは、

どう頑張っても捉える事はできない高度と速度だった。


「ま、そりゃ逃げるでしょうね。」


特にボウガンを構えようとはせず、ガンダルクがそんな言葉を呟く。

もっともな話だった。

数ではお話にならなかったものの、プローノたちもルクトたちも個々の

戦闘能力で見ればドラグリア1匹を上回る。戦えば確実に被害が出る。

それでも戦い続けたのは、おそらく最初の3人の印象が強かったから。

最後の最後のトッピナーの出現は、本当に想定外だったに違いない。

それほどまでに、メリゼの転移術は戦局を決定的に引っくり返した。


「だけど、片手落ちはよくない。」


空を仰いでそう言ったトッピナーの視線が、ゆっくりメリゼに向く。


「最後の仕上げをよろしくね。」

「承知しました。」


迷いなく答えたメリゼも空を仰ぎ、掲げた手を組み合わせて集中する。

次の瞬間。


「ギィエッ!?」


飛び去ろうとする有翼個体のさらに上に、大きな魔法陣が形成される。

そこに現出した巨大な影は、上空にあってもなお圧倒的だった。

一瞬で魔法陣自体は消えたものの、影はその場で大きく羽ばたく。


「グオォォォォォォォォッ!!」


有翼個体を睥睨する影―グルークの凄まじい咆哮が、地上から見上げる

ルクトたちの周囲の空気も容赦なくビリビリと震わせる。

有翼個体は、現れたグルークを見て金縛りになっていた。


起源は同じだ。

フライドラグンの因子を融合させたからこそ、有翼個体は空を飛ぶ力を

得た。言うなれば彼らは、目の前のグルークの歪な”同種”である。

もちろん、だからと言って種の連帯や共感などはない。


どちらも、ただ本能に従うのみ。

そして結果は、誰の目にもあまりに明らかだった。


================================


ズシン!!


岩場の中央に着地したグルークが、空を仰いで咥えたものを飲み込む。

抵抗らしい抵抗もできず、まとめて牙に捉えられた有翼個体だった。

食われたのは4体。それ以外は爪や尾で叩き落とされ、息絶えている。


結果だけ見れば、一方的な掃討だ。それは誰もが認めるところだろう。

と言っても、最初からトッピナーやグルークがもし来ていたとすれば、

そもそも戦いにすらなっていない。ドラグリアの群れは我先に逃走し、

捕捉する事も不可能だった。それもまた、紛れもない事実だ。


この場所に、群れを誘い込めた事。

プローノら5人を召喚してもなお、戦場を維持できた事。

トッピナーの一撃を放てた事。

そして、グルークという切り札を、この場に直接呼べた事。


メリゼの転移術あっての戦果だ。

そして、恐れを乗り越えて陽動したメリゼとアルメダ、アルフら3人の

勇気の賜物でもある。


「ありがとうございました。」


人間に対する言葉と何も変わらないお礼を述べたメリゼに、グルークが

ググッと顔を近づける。その巨大な眼球に、メリゼがはっきり映った。

きっかりと視線を見返すメリゼに、グルークはほんのかすかに頷く。

そして翼を広げ、そのまま上昇してゆっくりと飛び去って行った。


「…迫力ですねえ、本当に。」


次第に小さくなる影を見つめつつ、シャリアがしみじみと呟く。


「頼もしい限りです。…また助けて頂きましたから。」


同じくグルークを目で追いながら、メリゼが笑顔でそう言い放った。

そんな姿に、ルクトたちもかすかな笑みを浮かべる。


グルークの姿に2度も失禁していたあの子は、もうどこにもいない。

目の前に立つのは、少し日焼けした頼もしい女性冒険者だ。

メリゼ王女は、皆が出会った時とは別人と思えるほどに成長した。


出会った経緯も、それぞれの立場も見事にバラバラ。

そんなルクトたちでも、共有できる感慨は間違いなくここにある。


メリゼの成長への嬉しさ、何よりもそこに至った事への深い感慨だ。

きっと彼女なら大丈夫。

今の難局も、きっと乗り越えられるに違いない。そのための力になる。


「んじゃ、事後処理といこうか!」


ガンダルクの声はどこまでも明るく朗らか、そして気楽だった。

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