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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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ドラグリア殲滅戦・7

宿屋の末娘セルニルは、今になってひとつの確信を得ていた。


何かの気配を感じて反射的に部屋を飛び出し、もうひとつの謎部屋の

ドアを勢いよく開ける。予想通り、こちらも難なく開いて中に入れた。

しかし、こちらの部屋はまだ空っぽにまでは至っていなかった。


並んでいたのは、やっぱり見覚えのある木箱だ。おそらくは部屋一杯に

積み上げられていただろうそれは、既に5個を残すのみとなっている。


そして。


残っていたその5個の箱が、何かの合図のように連続して光を放った。

きれいな緑色が印象的なその光が、一瞬で箱全体をそれぞれ包み込む。

じっと見守る目前で、箱はリズムを刻むように順に消失していった。


怪異の類ではない。これは明らかに人の意思による「術」の行使だ。

貴術なのか魔術なのか、そこまでは判らない。そこまでの知識はない。

しかし、そういったものを見た事が無いわけでもない。旅の客にも、

何度かねだって披露してもらった。後で、親にかなり怒られたけれど。


だからこそ、確信が持てた。

これは、あのお客の誰かが行使した術だ。箱を部屋の中に入れたのも、

そしてこうやってどこかに転移術で召喚したのも。


じゃあ、いったい何のために?

それについても、確信に似た予感がある。きっと間違いないだろう。


ドラグリアとの戦いで、この部屋の中の木箱が使われたんだ。

きっとそうだ。

根拠も何もない。自分でもおかしな事を考えているのは百も承知だ。

それでも、揺るぎない確信がある。

ここを発った時のあの人たちの顔を思い返せば、間違いないと思える。


だとしたら。

あの人たちは、きっと戻ってくる。

きっと。


================================

================================


あらためて見てみれば、残っているドラグリアは半分を切っていた。

それでも、ルクトたちにも明らかに疲労の色が見える。戦況で言えば、

どこまでも優劣がつけ難い。事実、残るドラグリアたちにさえ、どこか

迷いのような気配も感じ取れた。


これもまた、ひとつの膠着状態だ。

消耗戦の果て、最後まで立っているのは果たして人間かドラグリアか。

遠巻きにしていた生き残り個体が、再びジリジリと距離を詰めてくる。

頭上に旋回する有翼個体も、それに合わせて最後の攻撃に出るだろう。

ここを乗り切れなければ終わりだ。


しかし。


「じゃ、頼むぜメリゼさま。」


ぼそりと呟いたルクトのひと言が、均衡を破る一手の合図だった。

頷いたメリゼが、両手を前にかざし意識を集中させる。


円陣を組む皆のすぐ前に、魔法陣が形成された。そして、長身の人影が

一瞬で現出。光が消えると同時に、水色の髪がかすかになびいた。


「ようやく出番かあ。」


何とも緊張感のない口調で、現れた人影―トッピナーがそう告げる。

群れなすドラグリアに視線を向け、持っていた酒をあおった。


「よっしゃ。相手になるよおォ!」


ガチャン!!


一気に飲み干して空にした酒瓶を、足元の岩に叩きつけて粉々にする。

その音が、事実上の合図となった。


================================


一瞬の沈黙ののち。


「ギィィィィィェエエアァァ!!」


耳を塞ぎたくなるような声と共に、ドラグリアたちは恐慌を来たした。

自分たちの前に現出したトッピナーから遠ざかろうとするかのように、

一斉に踵を返して走り出す。もはや連携も何もない。とにかく逃げる。

さっきまでの獰猛さが嘘のように、その様はパニックそのものだった。


「…これほどなのか。」

「これはまた。」

「何とも…」


目の当たりにしたプローノたちが、むしろ戦っていた時よりもその顔に

呆れと恐怖の色を浮かべて呟いた。


魔人の存在に対する、ドラグリアの恐怖と忌避の感情。生物としての

因子に深く刻まれている、逃れ得ぬ呪いともいうべき恐れの奔流だ。


傍目には単なる若い女性でしかないトッピナーも、まぎれもない魔人。

人にはまるで判らないその事実が、ドラグリアを衝き動かしていた。


「そんなに嫌うなよ傷つくなぁ。」


ほろ酔い加減のトッピナーが、目の前の騒ぎにそんな言葉を漏らす。

やがてドラグリアの動きは、目的を定めて一気に収束した。

とにかく、逃げ道は一つしかない。入ってきたあの大岩の隙間の道だ。

非常口へと殺到する群衆のごとく、残りの個体は我先に隙間の向こうへ

駆け出していく。


誰も追わなかった。

ただじっと、全ての個体が隙間へと吸い込まれていくさまを見守る。

やがて最前列に立つトッピナーが、ゆっくりと二番刀を抜き放った。

それと合わせるように、最後の一匹が隙間の向こうに消えていく。


「支えて。」


足を斜めに開いて腰を少し落とし、トッピナーがルクトたちに告げた。

それを聞いたルクトとラジュールの2人が、彼女の背中を押さえる。


「行くよ。」

「どうぞ。」

「遠慮すんなよトッピナーさん。」

「承知。」


ニッと笑ったトッピナーが、やがて正面に向き直った。

そして、ひと言叫ぶ。


「アミリアス!伸ばせぇ!!」

『了解。』


================================


ドシュン!!


まるで砲弾を撃ち出したかのような勢いで、二番刀が一気に伸びた。

ルクトがやる時とは、速度が段違いである。内在魔力の強さの違いだ。

当然、反動も半端ではない。

爆風のような圧力に、ルクトたちは足を踏ん張って耐える。


あっという間に岩場を縦断したその刀身が、狙いたがわず岩の隙間へと

突っ込んだ。そこでトッピナーも、グッと柄を掴む腕に力を入れ直す。

刹那。


ドンドンドンドンドンドンドン!!


伸びる時の圧力とは明らかに違う、断続的な衝撃が3人を襲った。

何度も何度も何度も。場に踏ん張るトッピナーも背後の2人も、それを

真っ向から受け止める。


何かは、今さら考えるまでもない。

一列にならないと通れない、大岩の隙間の通路。そこに二番刀の刀身を

突っ込めば、結果は明白である。

逃げようとしていたドラグリアを、刀身の先端が次から次へと貫く。

刃を上向きにしているから、倒れる個体は全て上体を両断されていく。


衝撃の一つ一つが、容赦のない死を刀身から伝えている。

なおも姿勢を崩さず、トッピナーは伸びた二番刀の重さに耐え続けた。


永遠とも思われた、20秒後。


『全部、仕留めました。』


伝わる手応えが無くなると同時に、アミリアスがそう告げる。

伸びる時より少しだけ遅い速度で、刀身が元の長さまで戻ってきた。

元のサイズまで戻った事を確かめ、トッピナーがふうっと息をつく。


青黒い鮮血の滴る二番刀の刀身が、全てを物語っていた。

出口に至る隙間の中で、残っていたドラグリアが全滅したという事を。


激戦の勝敗は、静かに決していた。

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