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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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ドラグリア殲滅戦・5

宿屋の末娘セルニルは、厳し過ぎる葛藤の真っ只中にいた。


両親に、部屋の惨状を話すべきか。それとも黙っているべきか。

いや。黙っていても仕方ないのは、悩むまでもなく十分理解している。

大部屋の利用客が滅多に来ないのは事実としても、明日には掃除当番が

兄に代わってしまう。そうなれば、もはや隠しておく意味もなくなる。

いやむしろ、何で黙っていたんだと自分が怒られる可能性すらある。

そんなのはまっぴらだ。


だけど、何と言えばいいんだろう。

部屋の中が箱で埋め尽くされてる…なんてバカ話、信じてもらえない。

見せれば一発だけど、どれほどまでショックを受けるかが怖い。

その事が理由で両親が引きつけでも起こしたら、悔やみ切れない。

だったら、いっそ…


いや。

いっそも何も、見せる以外にどんな選択がある。何もないのは明白だ。

覚悟を決めよう。自分がやったって訳でもないし、そこは開き直る。


…知らせに行く前に、もう一回だけ中を確認しておこう。

ぶつけないようにドアを開けて…



………あれっ?


================================

================================


群れなすドラグリアは、ほんの少し沈黙した。騒がしかった岩場に、

何とも不似合いな静寂が満ちる。

プローノたち5人も、あえてその間動かなかった。じっと見極める。


岩場を埋め尽くすドラグリア共は、現れた自分たちをどう推し量るか。

忌避すべき脅威だと見なすか、それとも新たなる獲物と見なすか。

落ち着いて、ただ一点を見極める。


永遠とも感じられる、数秒ののち。


「ギイィィィィィェッ!!」


どこかにいる1匹が、甲高い咆哮を上げた。同時に、ドラグリアは再び

陣形を組んだプローノたち目掛けて殺到する。


「やっぱり、来るかよ!!」


左右の手に一本ずつ携えている剣を構え直し、シャリアがそう言った。

視線を走らせ、同時に襲い来た2匹の頭の上半分だけを削ぎ落とす。


「ま、とにかく数が違うからな!」


メリゼたちの隙間を縫うような形で器用に長槍を引いたイバンサが、

勢いよくそれを突き出す。目の前に迫っていた2匹が重なった一瞬を

逃さず、一気に串刺しにしていた。


「持ち応えろよ!!」


そう言い放ったラジュールの剣が、数匹の喉を流れるように切り裂く。

同じように数匹を一気に斬り倒したプローノが、メリゼに目を向ける。


「メリゼ様。」

「はい。」

「ここは我らが防ぎます。決して、あなたに手出しはさせません。」

「はい!」

「落ち着いて、訓練を思い出して。集中して、そしてためらわずに!」

「分かりました!!」


凛とした返答の声に、怯えの響きはいっさい感じられなかった。

それが自分たちに対する信頼の証と察した5人に、新たな力が宿る。


「よおし!ジリヌスの兵士の意地、とことん見せてやろうぜ!!」

「応よ!!」


普段は大人しいルブホの大音声に、皆も笑って同調する。

悲壮さなど、どこにもなかった。


================================


恐れる事なく、メリゼはすぐ後ろの低い岩に上る。視界が少し開けた。

相変わらず、群れなすドラグリアの存在感が圧倒的だ。数の上では、

絶望的としか言いようのない光景。しかしメリゼは、それを無視する。

ただじっと、場の状況を見極める。

そして。


バッ!!


両手をかざすと同時に、陣形のすぐ外側の頭上に2つの魔法陣が出現。

その真上に一瞬で形を成したのは、大きな木箱だった。

数秒の滞空の後、点滅した魔法陣が消失。その場に留まっていた木箱は

重力に任せて落下し、すぐ下にいたドラグリアを1匹ずつ押し潰した。


ドガァン!!


落下の衝撃で、木箱は木っ端微塵になった。と同時に、収められていた

大量の平たい物体がざっと崩れる。玄関に並べるための敷石だった。


それらを一瞥したメリゼが、右肩のブローチにそっと声をかける。


「…ルクトさん、ガンダルクさん。いいですか?」

『はーい!』

『いつでもどうぞ。』


「ではいきます!」


バサッ!!


頭上から襲い来る有翼ドラグリアを見据えたメリゼが、再びその両手を

そちらに向ける。と同時に、崩れた敷石のいくつかが発光し、消えた。

まったく間を置かずに、その敷石は頭上に並べられた形で魔法陣と共に

現出する。つまり、足元から頭上へ転移させられていた。


なおもその場に留まる敷石の上に、さらなる魔法陣が出現。こちらは、

一瞬で発光が消える。結果として、転移対象は敷石の上に降り立った。


ザン!!


襲い来た有翼個体は、一瞬の剣閃と共に真っ二つに斬り裂かれていた。


敷石の上に現れたルクトの一撃は、刀身に血も着かないほど速かった。


================================


ダン!!


魔法陣が消失する直前に、ルクトは敷石を蹴って跳躍する。


ジャラッ!!


虚空で振った腕の篭手から、鎖鞭が伸びた。それは目の前に滞空する

別の有翼個体を捉え、その上半身に勢いよく絡みつく。


「ギィエッ!?」


あわてて羽ばたくものの、ルクトの体重を支えられる体勢ではない。

彼の落下速度を緩めるだけだった。


「うらあっ!!」


着地したルクトは、思い切り鎖鞭を両手で引っ張り込む。絡んだままの

有翼個体は、砲丸のように勢いよく地面に叩き付けられた。落下地点の

2匹に衝突し、どの個体も全身から血を噴き出して永遠に沈黙する。

あまりに非常識なルクトの攻撃に、他の有翼個体の注意が逸れた刹那。


「隙あり。」


ダンダンダン!!


いつの間にか敷石足場がまた頭上に形成され、ガンダルクが上に出現。

手にしていた連射式小型ボウガンが唸りをあげ、有翼個体を襲う。


「ギャアァァァァァッ!」


どの個体も等しく高い悲鳴を上げ、バランスを崩して落下した。


小型なだけに、ボウガンの矢は短く小さい。威力も大した事はない。

女性でも扱える代物であるだけに、ドラグリアの皮膚などは貫けない。


しかし連射されたその小さな矢は、どれも有翼個体の目を貫いていた。

一瞬で狙ったとはとても思えない、針穴を通すような精密狙撃である。

落下した個体は、何かする間もなくルクトに首を刎ねられていた。


「ギィィッ!!」


しかし、有翼個体はまだまだいる。

矢が尽きた事を察した数匹が、声を上げながらガンダルクに殺到する。

しかし、彼女は動じなかった。


「ホッ!」


ギリギリまで引きつけて、魔法陣の消失と共に跳躍。飛来した個体を

鮮やかに跳び越え、そのすぐ背後に現出した新たな敷石に飛び乗る。


「矢!」


そう叫ぶと同時に、目の前の空間に魔法陣と共に数本の矢が現出。

素早くそれを掴み取り、ボウガンに叩き入れる。旋回する有翼個体は、

絶好の的でしかなかった。


ダダダン!


一瞬で狙いをつけて放たれた矢が、またも正確に目を捉える。いずれも

絶叫と共に落下し、プローノたちに止めを刺されていた。


「下りるよ!」


叫んで飛び降りる軌道上にもう1個敷石が現出。それを右足で蹴った

ガンダルクが、ルクトのすぐ傍らに着地した。


「にゃはははは!楽しいねえぇ!!さすがだよメリゼちゃん!」

「恐縮です!!」


まるで指揮者のように腕を伸ばし、メリゼが笑顔で答える。


今の彼女が使える転移貴術は、手で触れたものを自分の視界のどこかに

現出させる。ただそれだけの力だ。ウォレミスの街でプローノたちを

召喚したのも、この転移術だった。


魔法陣で転移してきた対象は、その魔法陣が消えない限りは動けない。

だから、一瞬でメリゼ本人が消す。そうしないとただの「的」になる。

しかし逆に考えてみれば、魔法陣が消えるまではそれは現出した座標に

そのまま留まり続けるのだ。たとえ空中であってもそれは変わらない。

魔法陣の消失までは、最大20秒。その間、現出物は留まり続ける。


ならば、足場にもなり得るはずだ。自分とルクトなら、それを使える。

ガンダルクの発案が、メリゼの術の概念を根本から変えていた。

いや、彼女の在り方さえも変えた。


怯えもためらいもない。


今のメリゼは、この激戦の場を司る中心となっていた。

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