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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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ドラグリア殲滅戦・4

宿屋の末娘セルニルは、現実という名の不条理に怒り、困惑していた。


そして、後悔もしていた。

やっぱり見るんじゃなかった、と。ただひたすらそう悔いていた。

不安と好奇心が抑えられず、ほんの少しだけ…とドアを開けた。

それ以上、開けられなかった。

後ろめたさが勝ったからではなく、文字通り開けられなかったのだ。

内開きのドアは、ほんの少し開いたところで中の何かにつっかえた。

血の気が引いた。

顔を押し付け、何とかその隙間から部屋の中をむりやり窺ってみた。


部屋の中は、所狭しと無数の木箱が積み上げてあった。どれもこれも、

明らかに入口のドアよりも大きい。一体全体、どうやって入れたんだ?

慌ててもう一方の部屋を確かめた。

予想通り、こっちも同じだった。

ますますドアのすぐ近くにまで物が積み上げられ、ほとんど開かない。

一階の部屋でなければ、間違いなく床が抜けていただろうと確信した。


ぺたりと座り込み、動けなかった。

もう、この部屋は二度と使えない。壁を壊さないと、中に詰め込まれた

箱のひとつも運び出せないだろう。そんな余裕はうちにはない。


やっぱり、いい事がない。

どうしてこんな目にばっかり。


大声を上げて、泣きたかった。


================================

================================


馬は、乗り手の恐れを感じ取る。

だからこそ、迷いのない乗り手には恐れを捨てて従い、無心に駆ける。

こんな状況でもそれは変わらない。


「ギィーッッ!!」

「ウギィィィッ!!」


喉が潰れそうな甲高い声を張り上げながら、無数のドラグリアたちが

背後から殺到している。狙うのは、岩場を疾駆する2頭の馬。


アルフが、そしてメリゼとアルメダの2人が、一心に馬を駆けさせる。

まるで何十回も通った道のように、足場を選んで速度を維持して。

もちろん、そんな事が簡単にできる道理などはない。


『20エル(メートル)先を右に。そのまま上って分岐をさらに左。』


アルフとメリゼの耳元に着けられたブローチが、ずっと指示している。

2人はそれに従い、先読みに等しい手綱捌きで馬を御していた。


アミリアスの魔術は、どういう訳か馬という動物と非常に相性がいい。

遠くにいても人間以上に個体識別が容易であり、誘引魔術を用いれば

かなり具体的に行動を制御できる。ジリヌス王国から続く旅の途中も、

この能力がいろいろと役に立った。


今回は、3人の乗る馬2頭の感覚を共有する魔術が用いられている。

視覚と聴覚を反映させ、感知魔術と組み合わせる事で岩場を読み取る。

これにより、どのように走らせればいいかを先んじて2人に伝える。

馬自身もアミリアスと感覚の共有をする事で、より平静を維持できる。


背後から聞こえてくるドラグリアの声に、苛立ちが混じるのが判る。

機動力で比較すれば、馬が勝るのは当然の話だ。それにしても、2頭が

あまりにも長く速度を維持し続けているのが想定外なのだろう。


頭上には、有翼の個体も何匹か姿を見せつつあった。しかしそれらも、

地上の個体と同じ方向から来たため追いつくには至っていない。

羽ばたきの音は耳に届いたものの、アルフたちは視線は向けなかった。

どのみち、走って逃げるという事に変わりはない。とにかく集中する。


まるで2頭の馬に導かれているかのように、谷に潜んでいたと思しき

全てのドラグリアが集まっていた。


================================


しかし、追走劇はそろそろ終わりを迎えようとしていた。

上り下りを繰り返していた岩場が普通の地面に変わり、すぐ目の前には

新たな岩山が立ちはだかっている。

ナサドの谷と交差するような格好で連なる、イドの谷のほぼ北端部だ。

接近するにつれて、岩山の大きさがのしかかるような感じに変わる。


『そのまま真っすぐです。』


アミリアスの指示に従い、アルフとメリゼは進路を維持した。

ますます細くなる岩の隙間の道に、2頭の馬が並んで走り込んでいく。


「…まだ来てます!」


背後を確かめたアルメダが、そんな言葉を発した。

ドラグリアの群れもまた、行儀よく一列になってなおも追走してくる。


「あとどれくらい?」

『間もなくです。抜けたらそのまま突き当たりまで行って下さい。』

「了解。」


足の傷の痛みを気合で押さえ込み、アルフはなおも馬を駆けさせる。

次第に道がまた広くなり、メリゼの馬が再び並走する格好になった。


「お聞きになりましたね?」

「ええ。」

「ここまで奴らを引っ張ってくる事ができたのは、間違いなくあなたの

勇気が成した結果です。だからもう恐れず、一気に行きましょう。」

「はい!」


力強く、メリゼが答えた瞬間。

パッと頭上の視界が開けた。


仰ぎ見れば、相変わらずの曇天。

そして、左右に伸びている高い岩。

それはぐるりと回りこみ、前方にて強固な壁を成している。

古代の闘技場を想起させる、巨大な円形の岩場の真っ只中だった。


入口は、駆け込んできた隙間のみ。

完全な行き止まりだった。


================================


窮状を省みる事なく、アルフたちはそのままの速度で岩場を縦断する。

遅れて殺到したドラグリアたちは、まるでネズミのように岩の壁沿いに

ザワザワと左右に展開していく。


アルフたちは、突き当りの岩の前でようやく馬を止めて向き直った。

なおも雪崩込むドラグリアたちは、既に左右の壁を埋め尽くしている。

頭上を仰げば、岩壁の上方に有翼の個体が旋回しているのも見えた。


すぐには襲い掛かって来なかった。

おそらく、全ての個体が岩場の中に入るのを待っているのだろう。

嗜虐性を感じさせるその連帯感が、歪な知性をこれでもかと主張する。


やがて入ってくる個体が途絶えた。


「ギィィッ!」

「ウギィッ!!」


耳を塞ぎたくなるような声が岩場で反響し、不快な音の洪水となる。


そして。


一瞬の静寂を合図に、ドラグリアは一斉に襲い掛かって来た。

怯む事なく、じっと佇むメリゼたちの馬を目掛けて。


「メリゼ様。」

「はい。」

「今です!」

「はぁい!!」


掛け声と共に、一瞬で彼女の眼前に展開したもの。

それは緑色の光を放つ、合計5つの魔法陣だった。


ザシュッ!!


我先にと殺到していたドラグリアの体が、一瞬で肉片と化した。


左側の個体は、槍で刺し貫かれて。

その隣の個体は、首を落とされて。

右側の個体は、×の字に斬られて。

その隣の個体は、腰から斬られて。

正面の個体は、縦に斬り裂かれて。


「よくやったなアルフ。」


ドラグリアの首を斬り落とした男―ルブホが、そう言って笑いかける。


「うん!」


「お二人もご無事で。」

「ありがとうございます!」


転移術によって一瞬で召喚された、プローノたちジリヌスの兵士団。


メリゼたちを囲むような陣形で守る姿は、まさに騎士そのものだった。

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