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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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ドラグリア殲滅戦・3

宿屋の末娘セルニルは、不安の中で悩みに悩んでいた。


プロ意識が足りないとは思う。

きちんと宿代を払ってくれたお客を裏切る行為は、慎むべきだろう。

しかし、やっぱり好奇心が勝った。それ以上に、不安も大きかった。

引き払った部屋に「入るな」などと言われたら、そりゃ不安にもなる。

もしかしたら、とんでもない何かを置いていかれたのかも知れない。

万が一犯罪に関係する品物なんかを置き去りにされてたら、どうする。

…いや、死体が残されているという可能性だって無いとは言えない。


そんな事になったら、この宿はもう終わりだ。廃業だ。そして破滅だ。


そんな事しそうな人たちではない。少なくとも、自分はそう思う。

もっともっと怪しい連中だったら、迷わず部屋をあらためただろう。

そんなんじゃないと思うからこそ、こうして悩んでいるのである。

明日まで部屋をそのままに。

一体、何があると言うのだろうか。どうして明日までなのだろうか。


分からない。

あれやこれや考えれば考えるほど、悩みが深くなるばかりだった。


================================

================================


谷の方へ向かう北向きの一本道を、メリゼとアルフ、アルメダの3人が

慎重に進んでいく。意外とメリゼは乗馬の心得があるので、アルメダは

彼女の後ろに相乗りしていた。


思ったよりきちんとした道であり、草が伸び放題といった様子もない。

谷を越えた先にも村がある関係上、定期的に整備されているのだろう。

そして、谷にドラグリアが営巣しているという事実が知られてないのも

そこから見て取れる。その意味でも早く掃討しないと、犠牲者が出る。

ほとんど口を開かないまま、3人は粛々と馬を進めていた。


『もうすぐ谷の外縁が見えます。』


しばらく進んだ所で、アミリアスの声がブローチから小さく聞こえた。

どうやら同時の通信だったらしく、3人とも頷いて前方を見据える。

木々の梢の向こうに、白っぽい岩の連なりが確かに見えていた。


「動きは?」

『群れがそちらを感知した気配は、まだありません。でも気をつけて。

いくら感知魔術でも、ドラグリアの1個体までは把握できません。』

「了解です。」


短い通信を終えて、アルフが周囲にざっと鋭い視線を向ける。

気配はない。しかしこの地はもう、ドラグリアのテリトリー内だろう。

1個体が感知できないという事は、裏を返せば集団で谷の外にいるとは

考えにくいという解釈も成り立つ。なら、その状況はギリギリ活用だ。


「…目指す場所は?」

『そのまま谷の東側を進んで迂回。馬でも走れる岩場まで出られます。

あとは、そこを西へ一直線です。』

「分かりました。」

『もうすぐ、西への分岐に出ます。そこまでは何とか交戦を避けて。』

「善処します。」


さいわい木々のざわめきや鳥の声がひっきりなしに聞こえてくるため、

会話の声をかき消してくれている。谷の方にも動く気配はない。


もう少しだ。


3人は、ますます息を詰めて進む。


================================


わざわざ指示を受けるまでもなく、迂回する岩場の入口はすぐ判った。

左手に見え続けていた谷の連なりが途絶え、今度は西へと伸びている。

おそらく、ここまでがナサドの谷の外縁部という事になるのだろう。

小さく息をついた3人は、次の瞬間ほぼ同時に動きを止めた。

乗り手の思惟を鞍越しに感じたか、馬もピタリとその歩みを止める。


遠目に見える岩場。

そこに、2つの灰色の影があった。


大きさは、ほぼ人間と同じくらい。しかし、明らかに人間ではない。

文字通り、ライドラグンが人間との融合を果たしたような異形の生物。

3人とも見た事はなかったものの、それがドラグリアだという事実は

わざわざ確認しなくても分かった。

歩哨なのかそれとも単にそこにいただけなのか、暇そうに立っている。

こちらの存在に気づいているような素振りは、まったくなかった。


ほんの数秒、沈黙が流れた。

そして。


「…メリゼ様。」

「はい。」

「合図したら、一気に走って。」

「承知しまし」

「今です!!」


ダン!!


叫ぶと同時に、アルフは2人の乗る馬の尻を思い切り手で叩いていた。

弾かれたように走り出した馬の背にしがみつき、メリゼが必死に手綱を

操って進路を安定させる。

頭上の枝から飛び降りてきた1匹のドラグリアの爪は、空を切った。

タイミングを合わせたかのように、アルフが懐に隠し持っていた短剣を

薙ぎ上げる。落下の勢いそのまま、ドラグリアは首筋を切り裂かれた。


「ギッ!?」

「ウギッ!?」


時間差で襲い掛かろうとしたらしい眼前の2匹が、その様子を目にして

気後れを見せる。そんな一瞬の隙を逃さず、メリゼの駆る馬は2匹の

すぐ傍らを一気に駆け抜けた。


「…用心深いんでしょ!!」


同じく2匹の見せた動揺を逃さず、アルフも馬を駆けさせていた。

不意打ちを仕掛けたドラグリアは、すでに血溜りの中で息絶えている。

眼前に無防備な姿を晒す2匹の姿を認めた瞬間から、アルフはそれらが

囮である事実を見抜いていた。


「ギイッ!」

「ギィィッ!!」


動揺から立ち直ったらしい2匹が、あらためてこちらを威嚇する。

しかしもう、そこはアルフの間合いの中だった。


ザン!


すれ違いざまに、右側にいた1匹の額を短刀で切り裂いて骸に変えた。

もう一方にはあえて関わらず、先に西へ向かったメリゼたちを追う。

しかし、相手も甘くはなかった。


ザシュッ!!


「うっ!!」


追いすがるような形で繰り出された爪が、左のすねの外側をかすめる。

足を覆う、防具の隙間を狙われた。

その間にも馬は駆ける。メリゼたち2人の馬を追いかける。ほどなく、

後ろ姿を補足できた。


と、その刹那。


「ギイィィィィィィィエェッ!!」


耳障りな咆哮が、背後から響いた。と同時に、谷からも呼応するような

甲高い声が聞こえ始める。


『動きますよ!!』


アミリアスの叫びが届くと同時に、アルフはメリゼたちと再び並んだ。


「大丈夫ですか!?」

「はい!」

「あ、アルフさんは!?」

「大した事はありません。」


傷を目にしたアルメダの問いかけに対し、アルフは笑顔で答えた。

やがて、谷を囲む岩の上に、灰色の影が無数に現れる。言うまでもなく

ドラグリアだ。こちらを目で追い、やがて岩を駆け下りてくる。


「お…追ってきますね。」

「メリゼ様。」

「は、はい。」

「後は、あなたの判断に任せます。決して無理はなさいませんよう。」

「…はい!」


アルフからの言葉を受け、メリゼの声の震えが止まる。


「アルメダさん。」

「はいっ!」

「今はとにかく、落ちないように。それだけを考えてください。」

「了解です!!」

「結構!」


痛みに耐え、アルフは笑った。


追いすがるドラグリアの群れの声が響く。しかし馬は、怯えを見せずに

風のように岩場を駆け抜けていく。



静かだったナサドの谷は、いつしか咆哮と混沌の坩堝と化していた。

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