ドラグリア殲滅戦・1
「昨日までほど晴れてないな。」
最初に宿屋を出たプローノが、空を仰いでそんな事を口にした。
「むしろいいんじゃない?」
続いて外に出てきたガンダルクが、同様に空を眺めて気楽に答える。
「雨にはならなそうだし、日差しに目が眩むってのは避けたいからね。
何と言っても、相手が多いから。」
「なるほど…。」
説明が終わる頃には、他の者たちも全て通りに足を踏み出していた。
納得顔で頷くイバンサが、手にした槍の握りを確かめている。
マルマ村に来てから、すでに4日が経過していた。
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「あらあらぁ、いよいよお発ち?」
旅の出で立ちで通りを歩く一行に、屋台の女性が親しげに声をかける。
「そうなんです。何だか、すっかりお世話になってしまいまして…」
「寂しくなるわねえ。」
大兵のアルフが、相変わらず外見に似合わない口調で挨拶をした。
あちこちの店の人間が、同じように別れを惜しむ声をかけてくる。
「…あたしたち、何だかしっかりと覚えられてたんですね。」
「これだけ長居してりゃね。」
キョロキョロと周囲を見渡しながら呟いたメリゼに、右隣を歩いていた
トッピナーが笑いながら答える。
「正直ちょっと新鮮なんじゃない?国民と、こういう距離で話すの。」
「そうですね。何もかも。」
メリゼはいつも正直だった。
ふと見てみれば、やはり皆から一番声をかけられているのはアルフだ。
並外れて大柄なのにもかかわらず、何故か彼は男女を問わず好かれる。
相棒であるルブホも、兵士としては物腰が柔らかい。それも相まって、
2人はもっとも村に馴染んでいた。
「さあて、んじゃ行くかね。」
繋場に到着し、ガンダルクが最初に馬の背に飛び乗って告げる。
さすがにもう、見送りの村人の姿も見えなかった。ルクトを筆頭に、
他の者たちもそれぞれ馬と馬車とに分乗する。
いよいよ出発の時だった。
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村を訪れた時の道をそのまま戻り、ほどなくして分岐点に到達。
ひときわ道幅が太くなる。まっすぐ西へと伸びるこの道こそが、問題の
アルバニオ街道だ。ここを往来する商人にとって、ドラグリアの群れが
大いなる脅威となり続けている。
「まずはどっちだ?」
『東へ2ヘルマ(キロ)ほど戻って下さい。そこで再度探知します。』
ルクトの問いに対し、アミリアスが迷いなく即答した。
「よし。じゃ行こう。」
「了解。」
皆が答え、街道を逆に進んでいく。もちろん警戒は続けているものの、
今この状態でドラグリアが襲撃してくる可能性はほぼ無いと言える。
それはもう、周知の事実だ。むしろ襲われるのなら願ったり叶ったり。
さほど人数の多くない武装集団には決して近づいてこないだろう。
だからこそ、ある程度リスク覚悟で作戦を立てている。
『このあたりで停まって下さい。』
ほどなくしてアミリアスが告げた。
代わり映えのしない道のすぐ先に、交差する南北の道が見えている。
『ではルクトさん、よろしく。』
「分かった。伸ばせ!」
ドスッ!!
馬に乗ったまま、ルクトが二番刀の刀身を伸ばして地面に突き立てた。
他の者たちは、彼を囲むような形でじっと探知が終わるのを待つ。
きっかり2分後。
『…見つけました。』
「どこだ?」
『ここからほぼ真北に向かった場所にある、東西に長い谷の中腹です。
地図では確か、ナサドという記述がされていた谷ですね。』
「馬で行けばどのくらい?」
『道を選べば、1時間弱です。』
「それは任せていいんだな?」
『もちろん。』
ガンダルクとルクトの問いに対し、アミリアスは迷いなく答える。
「よし。じゃあ準備にかかろう。」
頷いたルクトが馬を降りる。それを見た他の面々も次々に馬から降り、
メリゼとアルメダの2人も馬車から出てきた。
「…い、いよいよですね。」
「あんまり硬くならないようにね。大丈夫だからさ。」
「は、はい!」
やはり硬いままのメリゼの返答に、ガンダルクも他の者も苦笑する。
しかし、こればかりは仕方がない。気楽に構えろという方が無理だ。
何と言っても、他でもないメリゼが最初に斬り込んでいくのだから。
作戦は、静かに開始の時を迎えた。




