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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第一章 追放と出会いと
10/703

魔王の汚名

「じゃあ、もう行くけどさ。」


そう言ったガンダルクが、もう一度アミリアスにキッと視線を向ける。


「あんたもちゃんと仕事してよ。」

「ええ。ですが…」


アミリアスが言葉を切ると同時に、空間に砂で世界地図が描かれた。

そして今のこの洞窟を示していると思しき一点から、丸い線が広がる。


「私の感知魔術が及ぶ範囲は、ここまでです。もしもこれ以上遠くまで

行ってしまわれると、もう捕捉する事ができませんよ?」

「そこを何とかするのが、あんたの仕事でしょうが。」

「そんなご無体な。」

「ゴチャゴチャ言うな。出来ないのなら、出来るようにしな。」

「…まあ、最善は尽くします。」


「と言うか、この範囲内ならどこにいても連絡できるのかよ。」


つい先ほど渡された小さなブローチを見つめ、ルクトが感心したように

そう呟いた。


「何気にスゴいんだな、魔人が使う高等魔術ってのは。」

「ホラ魔王!」

「何よ。」

「こういう事を言ってもらえると、やり甲斐が生まれるんですよ。」

「分かった分かった!あたしも期待してるからさ!」

「承知しました。全身全霊を以って臨ませて頂きます。」


…………


「じゃあな、アミリアス。」

「はい。」

「今度は余計な事しないでよ!!」


「承知しました。それでは、お二人ともお気をつけて。」


================================


外に出た2人の目を、すっかり高くなっていた陽光が眩しく射る。

それほど時間は経過していないにもかかわらず、隔世の感があった。


「あーやれやれ、穴倉は嫌よね。」

「ここで百年過ごしてたってのは、ちょっと想像できないな…。」

「ま、ああいう奴だからね。」


大きく伸びをしたガンダルクが、やがて傍らのルクトに向き直る。


「さて、これからどうしようか?」

「決まってるだろ。」


その問いに、ルクトはガンダルクの背後の一点を指して即答する。


「まずは、あそこの遺体をちゃんと埋葬し直す。そこからだ。」

「…ああ、確かにそうだよね。」

「お前にとっては期待外れだったんだろうが、それでも頼みを聞いて

戦ってくれたんだ。もう少し丁重に葬ろう。」

「分かった。じゃあやろう!」


================================


墓穴を掘り直して、何体もの遺体をそこに埋葬し直す。

そんなかなり欝な作業をしつつも、2人の口調は平常どおりだった。


「…それにしても、この見るからに古い遺体はいつの頃のなんだよ?」

「あたしが死んで間もなくだから、もうすぐ百年ってところかな。」

「そもそもどういう人たちだ?」


土を掘る手を止めたガンダルクが、その問いに小さく肩をすくめる。


「勇者グレインが抜け駆けなどしなければ、この俺こそがガンダルクを

討ち果たしていたのだ!…って公言してた腕自慢たちよ。まあその頃は

あたしも転生したばっかりで、割と世間知らずだったからさ。」

「つまり、その言葉を信じたと?」

「しょうがないでしょ。」


いささかばつの悪そうな表情を浮かべ、ガンダルクは作業を再開した。


「…グレインと同等かどうかは別として、そこまで大言を吐く人間なら

岩人形くらいは倒せるだろうと思うじゃん。期待して連れて来たのに、

結果はこのとおりよ。言っちゃ何だけど、どんなにガッカリしたか…」

「まあ、気持ちは分かるけど。」

「そのうち割と平和になって、もう大口叩くような奴もいなくなって。

あたしもほとんど諦めてたのよ。」

「なるほどな。」


答えたルクトが、まだ朽ちていない骸をそっと新しい墓穴に横たえる。


「で、百年振りにまた魔王が現れ、こういう連中も出てきた。お前も、

また勧誘を再開してたって事か。」

「そういう事。…まあ、結果は昔とあんまり変わらなかったけどね。」

「俺が負けたら、次はメリフィスに声かけるつもりだったのか?」

「たぶん、それはないと思うよ。」

「何でだよ。あいつの方が俺よりも強いのは、知ってるだろ?」


そこで手を止めたルクトの問いに、ガンダルクはゆっくりと答えた。


「あたしはああいう奴より、あんたみたいなのの方が好きだからさ。」


「………そりゃあ嬉しい評価だな。憶えとくよ。」


そう返したルクトの言葉に、皮肉の響きはなかった。


================================


「ま、これでいいか。」

「そうだな。」


丁寧に埋めた場所をならし、2人は並んでパンパンと手を払った。


「よし、それじゃあ街道に…」

「ちょっと待って。」


荷物を取りに向かおうとしたルクトの背に、そんな声が投げられる。


「どうした?」

「あたしにも、あんたにひとつだけ訊きたい事があるんだけどさ。」

「いいぜ。俺ばっかりが質問してたからな。ひとつぐらい答えるよ。」


「あんた、あたしがガンダルクだって事に対してずいぶんあっさりと、

しかも冷静に受け入れてたよね。…あれはどうしてなの?」

「そんなに不思議かよ。」

「この百年間、ただ名乗っただけで殺されそうになった経験は十回や

二十回じゃ済まない。史上最悪とか最凶とか言われてね。だからよ。」

「実際は違うんだろ?」

「どうしてそう思うの?」


淡々と問うガンダルクの表情には、軽々しい雰囲気は微塵もなかった。

そんならしくない彼女の姿を前に、ルクトはフッと小さく笑った。


「知ってるからだよ。」

「知ってるって、何を?」

「本当に残忍だったのはお前の前の代の魔王で、お前はむしろそいつを

殺した存在だって事を、だ。」


================================


沈黙は、長くは続かなかった。


「…知ってたんだ。」

「ああ。」

「でも、どうして?」


そう言って視線を外したガンダルクは、どこか遠くを見やる。


「世界中の人間は、あたしを全ての元凶だと語り継いでるのに。」

「世界中の噂より、俺は母親の話を信じる。」

「母親?」


視線を戻したガンダルクが、意外な言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。


「あなたのお母さんが言ったの?」

「ああ。まあ正確には、俺の母親も小さい頃に聞いたらしいけどな。」

「誰からよ。」

「父親、つまり俺の爺さんからだ。残念ながら俺は会った事ないが。」


そう言ったルクトが、ニッと笑う。


「忘れたか?俺は人魔なんだぜ。」

「つまり、そのお爺さんが魔人で…あたしの事を知っていたって?」

「そうらしいな。お前が先代魔王を殺してくれたおかげで、自分たちは

新たな生き方が選べた。爺さんはかなりお前に感謝してたって話だ。」


「ふうーん、そうだったんだ…」


複雑そうな表情を浮かべ、ガンダルクは足元の石を拾い上げた。


「それで、あんたはその話をずっと信じてたのね。」

「いいや?」

「え?」

「聞いただけでそんな話は信じられねえよ。別に疑ってもいないけど、

確信なんかは持っていなかった。」


言いながら、ルクトはゆっくりと目の前のガンダルクを指さす。


「今日、本人に会うまでは、な。」

「……」

「俺を見込んでくれたのは嬉しい限りだ。俺も、母さんが言ってた事が

本当だという確信が持てた。だからお前と行く事を決めたんだよ。」


「…なるほど、ね。」


納得したように頷いたガンダルクの目に、涙はなかった。


「ちなみに、お爺さんの名前は…」

「残念だが知らない。母親もあえて教えなかったんだろうな。だから、

メリフィスにもわざわざ言おうとは思わなかったんだよ。」

「そういう事か。」

「ああ!」


明るい声で答えたルクトが、荷物を拾い上げて向き直る。


「疑問は解けたろ?」

「うん。」

「じゃあさっさと行こうぜ。」


『そうですね。』


いきなり割り込んできたすぐ背後の声に、2人はパッと振り返った。

そこに立っていたのは他でもない、ルクトが倒した守護者(ガーディアン)だった。

うやうやしく一礼したその体から、アミリアスの声が響いてくる。


『くれぐれもお気をつけて。』

「あんたはまたしばらく引きこもり生活なの?」

『まあ、しばらくは。』

「ま、ゆっくり行くさ。…そっちも元気でな!」

『ありがとうございます。』



手を振る岩人形を振り返りながら、2人はもと来た道を戻っていく。

最初に目指すのは、アミリアスから聞いたアステアの竜の谷。



迷いない2人の背中が、だんだんと小さくなっていく。



岩人形は、似合わない見送りをいつまでも続けていた。

2人の姿が見えなくなった後も。



ずっと。

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